4.






 テントについた途端まず命じられたのは、体を清めること。
 カカシのテントのそばには飲み水にも使える綺麗な川が流れているから、そこで洗ってこいという。今が冬だとか、寒空の下で裸になることだとか、それは考慮の外だ。イルカには従う以外に何もできない。無言で出て行こうとしたイルカにカカシが手渡したのは、手ぬぐいと、つんとくる消毒液の匂いがしみついた大きめのガーゼと瓶。
「洗ったあと、それで体を拭いてきてね。今日は挿れるから、特に後ろのほうは念入りに、指入れてきれいにしてきて」
 受け取ったものを握る手につい力がこもり、イルカは呆然となる。
 何をどう考えればいいのか、わからない。こうまでして、やる必要がどこにあるのだろう。
「・・・・・・あの」
 目を伏せたまま、イルカはつい声をかけていた。
 カカシはうんざりとした息を吐いた。
「あのさ、学習能力ってのがないの? 逆らっても無駄なんだからさっさと」
「気持ちいいんですか?」
 カカシの声にかぶせるようにして聞いていた。
「こうまでして、処理の為にすることが、そんなに、気持ちいいんですか? 俺は、好きな人としたから、その時本当に気持ちよくて、確かに、あなたの言う通り本当は汚いことなのかもしれないけど、でも、そんなことこれっぽっちも思わなくて、舐めたり、飲んだりしても汚いなんて思わなかった。あなたは俺のこと汚いと思ってるのに、それなのに、しても、気持ちいいんですか?」
 こんな男の前でもう泣きたくないから唇をかみしめる。目の前がかすみそうだがぐっとこらえた。
 沈黙が痛くて、堪えきれずにイルカはとうとう顔をあげた。
 目の前に、カカシがいた。
 影になって見えない相貌だが、寒気を催すチャクラにイルカは顔を歪めた。
「お前むかつく。いちいちうるさい。お前らみたいな役立たずはさ、言われたことだけやってりゃいいの。今お前がやるべきことは、俺が言った通りに体きれいにしてきて、ケツをだしゃいいの。それだけ」
 尖った手甲の爪が、イルカの鼻の横に走る傷にそう。ぴりっとした痛みに、切れたことを知る。イルカが気丈に睨み付けることをやめなければ、カカシの頬がひきつるのがわかった。
「気が強いってより、生意気」
「お気に召さないなら、出て行きます。ついでに申し上げますが、俺たち中忍はみんな汚い体ですよ。とてもきれいなあなたの相手なんて誰もできません」
「はは。言うね」
 イルカは結んでいた髪を急に引かれ、がくんと体がのけぞる。
 見下ろしてくるカカシの目が、光る。薄笑い。
「すげー、嗜虐心っての? そそるね」
 いきなりイルカはベッドの上に突き飛ばされた。
 動物的な本能で身の危険を感じて、手に持っていた手ぬぐいやら瓶を投げつける。だが余裕を持ってカカシに追いつめられ、両手を前で縛られる。忍服のズボンを下着ごと脱がされ、片方は足から抜かれ、股を大きく開かされたままベッドの角のほうに両の足首を固定された。
「さ〜て。どうしてやろうかね、イルカくん?」
 カカシはくぐもった声で笑いながら、ベッドの足下に座った。イルカは上半身をおこしてさらけだされた自分の局部を手元で隠す。
「なに? 男同士だし隠す必要ないじゃない」
 嗤いながら近づくカカシに手を振り上げるがあっさりかわされて、頭上で縛られた手首の部分をクナイで刺された。ベッドの上に縫い止められる。
「いい格好」
 カカシは尖ったつま先をイルカの萎えた性器の上でつつ、と動かした。何をされるかわからない恐怖にイルカの心臓は早鐘のように脈打ち、唇は青ざめた。カカシはイルカの怯えるさまに満足したようだ。いたぶるような猫なで声をだした。
「怖がんないでよ。俺は優しいって言ったじゃん」
 カカシはイルカが投げつけた消毒のための瓶とガーゼを拾うと消毒液をおもむろにイルカの性器にかけた。そのままガーゼを使って、拭い始める。勿論、手甲はつけたままで。
「俺が綺麗に拭いてやるよ」
 カカシは鼻歌でも歌い出しそうな機嫌のよさで手を動かす。
「やめろ!」
「だ〜め。消毒しないと汚いでしょ」
 イルカは絶望的な気持ちになった。
 カカシは明らかにイルカの官能を引き出すような動きで拭うのだ。さわさわと微妙なタッチから始まり、緩急つけてすき、弱い裏側は尖った爪でたどり、先端にはぐりぐりとねじこむ。
 感じたくないのに、いつしかイルカのそこは天に向かって主張しだしていた。
「うっわ〜。イルカくん、なんか出し始めているよ。ああでも、モノはピンクで綺麗かも。まあごーかっくかな」
「も・・・、やめ、ろ・・・。んあっ・・・」
 柔らかく撫でられて、くぷ、と水音がする。夜の空気に、かすかに消毒液以外の匂いが交じり始めていた。カカシはイルカの顔を馬鹿にしたように見ながら、たらたらと溢れ出すイルカの白濁した液を顔をしかめて嫌悪丸出しの表情で見る。息を荒げたまま、イルカは情けなさと屈辱感に目もくらむばかりだった。ただこの時間が早く終わることを願った。
「さーてと、もうこれ以上汚いの出してほしくないから」
 カカシは、イルカの髪を結っていた紐をとると、立ち上がったイルカの根本をきつく縛ってしまった。
「な、に? ちょっ・・・!」
 今にも放出しそうだった欲を堰き止められて、イルカは内ももを震わせる。潤む視界の向こうで、カカシはイルカの性器にゴムを被せてしまった。
「これで出ないね」
 笑うカカシにぞっとした。たかぶっていた体は冷水を浴びせられたように一気に力を失う。あのカカシと同じ顔をして、こんなにも違う。混乱の極みにきて、イルカはとにかく逃れたくて、クナイがあたるのもかまわずに縫い止められた手を思い切り引いた。ちり、と痛みが走ったが、かまわず逃れようと手を動かす。
「暴れなーいの」
 イルカの股の間に入り込んだカカシは膝の上にイルカの体を上げて、奥まった部分が浮き上がるようにした。
 カカシの意図することが予測できて、イルカは拘束された体をめちゃくちゃに動かす。イルカの必死さに、カカシは声をあげて笑った。
「そこまで暴れる必要ないでしょ。所詮体なんてさ、誰とやろうが反応するし気持ちよくなるんだし。あんたさっき大嫌いな俺にいじられて感じてたでしょ。もっと気持ちいいことしてやろうっての。
 暴れるな」
「・・・・・!!」
 カカシはいきなり尖った指をイルカの奥につっこんできた。容赦なく入れられてふっとイルカの力が抜ける。
「そうそう。じっとしてようね〜」
 消毒液を指と穴にかけて、カカシはそこをほぐしだす。ぐっぐっと広げながら時折指を曲げて、イルカの反応する場所をさぐろうとする。
「こ〜んなところにさ、男のあれ挿れてもらって気持ちよくなっちゃったんだ。汚いよね本当に。排泄器官なんだよ?」
「あ、あんただって、同じだろ! 俺に舐めさせて、これから、挿れようと、してるんだからな!」
 顔面蒼白になりながらもイルカは気力で返した。
 おそらく奥は出血している。気持ちのよさなど欠片もない。ただ嘔吐感がせり上がってくる。ずくんと体の内側からの鈍痛が体全体を浸食していく。
「俺は別にさ、自分だけがきれいだなんて思っちゃいないよ」
 指を引き抜いたカカシは、すでに反応していた自分の性器を出すと何度かすいて力を漲らせゴムをつけた。そしてイルカの大腿部を押さえつけると、あやまたずイルカの奥へと進入してきた。
「やめっ・・・・!」
 カカシは力の加減もせずにぐいぐいと奥に挿れてきた。体の中がかっと熱を持った。灼熱がねじこまれる痛みに見開いた目の前がかすむ。
 息をついたカカシは身を乗り出して、血の気のないイルカの顔を上からのぞき込んだ。頭の横に手をつく。口布をとった顔は整いすぎるくらいに整っていた。
「俺だって汚い。人は、みんな汚いってことわかってる」
 消毒液臭いカカシの指が、イルカの頬にそっと触れた。手の優しさとはうらはらに、腰の律動を始める。イルカがうめき声をあげようと頓着せずに突き上げる。
「、ぅあっ・・・・・はっ・・・・ぁ」
 内臓ごとせりあがってきそうな圧倒的な力。イルカの頭はだんだんと朦朧としてきて、かすかに頬を上気させたカカシの顔もかすんできた。
「汚くて、いいんだ。それが、人でしょ・・・・・」
 カカシが何か言っている。
 意識が遠くなってきたイルカは無意識のうちに、唇に愛しい人間の名を載せていた。
 カカシさん、タスケテ、と。

 

 

  
 
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