それが、運命なら   6







 窓からの月明かりが床の上に座ってむかいあう二人を照らす。
 カカシは裸のイルカを熱心に見ていた。食い入るような視線が、熱く、イルカの傷の多い体を移動する。イルカは忍としてそれなりに鍛えられた体をしているが、対するカカシは現役の戦忍として、しなやかでいて弾力のある筋肉がバランスよくつき、白い肌にいくつか走る傷が妙に生々しく浮き立って見えた。鑑賞に堪えうる体とはこういうものを言うのかもしれなと、照れを隠す気持ちから、イルカは思考を泳がせていた。
「カカシさん、そんなに見ないで下さいよ。さすがに、恥ずかしいです」
 イルカがやんわりとたしなめれば、カカシはきまじめに頭を下げた。
「すみません。イルカ先生の体、綺麗だから、なんか、懐かしいし、じろじろ見ちゃいました」
「綺麗って、何言ってるんですか」
 カカシのほうがよっぽどと言いたかったが、その前に心臓のあたりにカカシの手のひらが触れた。冷たい手のひらにぴくりと縮こまる。カカシはかすかに頬を上気させてうっとりとした目でイルカを見つめた。
「イルカ先生。俺、夢見てるみたい。俺ね、俺、絶対イルカ先生のこと幸せにできるよ。だって俺はイルカ先生だけでいいから。他はいらないから」
 カカシの顔が近づいて、イルカの鼓動を刻む胸に唇が触れた。
「俺、人に戻れてよかった。イルカ先生と愛し合えるのが、嬉しい」
 イルカはカカシの髪に手を差し入れて、目を閉じる。
「俺あのあと暗部に戻って、色んな事学び直したんだけど、一つだけ学ばなかったことがあるんです」
 カカシの吐息が胸の飾りをくすぐり、イルカは素直に熱い息を吐いた。
「俺ね、ケモノの時にイルカ先生と交わってから人に戻って、誰とも寝ていない。誰ともしたくなかった。イルカ先生だけが、欲しかった。だから俺、あなたのこと、うまく愛せないかもしれないけど」
 そう言いながら、カカシはイルカの尖る場所に吸い付き、唾液で濡らし出す。
「あの時も、こうして、吸い付いたね・・・」
 甘く囁かれて、イルカはぶるりと震える。
「イルカ先生の体は温かかったよ。ケモノであった俺にとってはあの時イルカ先生に触れることはものすごく嬉しいことだったけど、イルカ先生にとってはひどいショックなことだったんだよね。ごめんね。でも俺は嬉しい。イルカ先生に導かれたことが、嬉しい」
 カカシの声は脳をとろかして、イルカの記憶を刺激してくる。ケモノに愛された感覚が体中に蘇り、イルカの中心は触れられてもいないのに固くはりつめてくる。
 ベッドに導こうとカカシの手をとって立ち上がらせたが、カカシだけ立たせて、自分はすとんと膝をついた。
 目の前にはすでにゆるく天を向き始めたカカシの性器がある。ケモノの時には触れることがなかったもの。ケモノに抱かれながらケモノには決して触れてはいけないと戒めた。それが同じ人の身になった今なら禁忌はない。だからイルカは嬉しくて、大きくくわえ込んだ。
 技巧めいたものを知っているわけではない。だからカカシの反応を上目で見ながら、熱心に吸い付く。カカシはとろけたような顔をしてイルカの髪に優しく触れてくれる。カカシが小さく声を漏らしたところは念入りに吸い付き、舌を使う。イルカの口の中でカカシはぐんぐんと育ち、イルカを息苦しくさせた。
 イルカの名を掠れた声でカカシが呼ぶ。
 ぐらりとカカシの体がかしぐ。後ろにあったベッドにつかえてカカシは倒れ込んだが、その拍子にイルカの口からでたものから白い液体がほとばしった。ぶるりと震えてイルカの顔やら胸、腹を汚す。いきなりの放出に呆然となったのはイルカも一緒で、カカシがベッドに後ろ手をつき息を整えているすきに、飛び散った液体を手のひらで拭うと、その手でそのまま高ぶったままの自身に当てた。ケモノが出した物。本当は彼がケモノであった時に舐めて、搾り取りたかったのかもしれない。それが今やっと自分のものになる。陶酔感に浸って、ほどなくしてイルカも一度目の放出をした。息をついて、カカシに近づいた。瞳を潤ませたままのカカシの頬に触れればひどく熱かった。
「カカシ先生、いきなり、ごめんなさい。嫌でしたか……?」
 カカシはふるふると首をふった。
「違い、ます。少し、びっくりしただけで……、俺は、嬉しい。イルカ先生に触れることができて、嬉しいんです」
 無邪気に微笑むカカシの手が伸びて、イルカの背に優しくまわされた。
「イルカ先生、俺のこと、抱きしめて。本当は、あの時、抱きしめたかったし、抱きしめて欲しかったんです」
 それはイルカも望んでいたことだった。ケモノの高貴な毛皮に手を伸ばしたかった。だからためらうことなくカカシの背を抱きしめると、イルカは体の内部から沸き上がる、歓喜という名の熱い本流に身をゆだねた。毛皮ではなく、少し汗ばんだすべらかな肌。ぬくもりは同じだ。これはケモノだ。
 ベッドの上で抱き合っていると、そのうちにカカシの手はイルカの性器に伸ばされてきた。なぞるようにして控えめに触れていた手も、イルカのものが力をもたげてくると、徐徐に大胆になり、甘い声をあげるイルカの顔に舌をはわせながらも熱心に放出を促した。
 イルカの潤む視界のすぐそばにはカカシがいて、イルカの白濁が溢れた手を取ると、ぞろりと舌を使って舐める。ミルクを飲む小さな動物のように一心に舐める。赤い舌がイルカに既視感を呼び起こす。あの時もイルカの飛び散った精液を、ケモノは長い舌で舐めた。あの舌にも食らいつきたかった。
 イルカはカカシの頬をはさむと、口づけた。互いの液で白く汚れた口元のまま舌を出して唾液を交換し、貪った。

 荒い息づかいと独特の匂いが部屋中を満たす頃、二人はやっとつながろうとしていた。ケモノから人に戻ってから初めての交わりだというカカシは、どうしてほしいかを直接イルカに聞いてきた。カカシの上になり下になり散々喘がされていたイルカは、泣きはらした目でしばしカカシを見つめ、掠れた声で願った。
 うしろから、貫いて欲しいと。
 イルカの願いに頷いたカカシは、イルカの体を返すと、後ろから横抱きにして、片手で前をいじりながら、もう片方の手で奥をほぐし出す。イルカが任務前に渡した傷薬をとりだし、丁寧に広げていく。カカシの欲はイルカの背にとうにあたっているのだが、決して急ぐことなく、イルカの準備が整うまで待とうとしている。イルカの感じる部分をすでに把握したカカシは的確に前と後ろでイルカを鳴かす。イルカは無理な体勢ながら首をねじってカカシに口づけを乞う。
 イルカが懇願して何度か放出してもそれでもカカシは攻め続け、イルカはぐったりとなってしまった。背中を向けて、腰を高く突き出してカカシをむかえる頃には奥はぐしょぐしょで、結構な質量のものがたいした圧迫感もなく入ってきた時には、信じられないと小さく言葉に載せていた。
 カカシはイルカの背にぴったりと体をつけて、がくがくと震えているイルカの両手を支えるように手を重ねる。すっかり力つきたと思っていた自身が、カカシの律動に合わせて徐々にもたげてきたのが視界の隅にはいり、イルカは浅ましい自分に苦笑する。
 首筋の辺りでカカシの呻く声がする。それはまるで本当に求めているケモノのようでイルカの官能は一気に加速する。咬んで、と乞う。カカシはイルカの求めるままに首筋に歯形をつけるほどに噛みついた。その、ぴり、とした痛みがまたイルカの欲に火を付ける。もっと、もっと咬んで欲しいとうわごとのように告げれば、カカシは首と言わず、肩や背や顎のあたりのも噛みついてくれた。顔をねじられて頬を甘く咬まれた時にはとうとうイルカは何度めかわからない欲を爆発させて、中のカカシのこともしめつけていた。
 カカシがケモノのようなくぐもった声をこぼし、イルカの中に熱いものをほとばしらせた。
 真っ白に弾けた脳裏で、イルカはやっと求めたものを手に入れたと、喜びが体中を満たしていくのを感じた。二人でベッドに倒れ込む。カカシがイルカをかき抱いて、切れ切れの息で睦言を囁く。手を後ろに伸ばしたイルカは、汗でしめったカカシの銀の髪に触れた。
 愛しいケモノ。イルカの元に戻ってきてくれた。
 奇跡を手に入れた気持ちで、イルカは泣いた。







 翌日、昼に近いくらいの時間に目を覚ませば、先に起きていたのかカカシが腕をついてイルカをのぞき込んでいた。シーツはさらさらで、イルカの体はある程度清められている。気絶するように眠りについてしまった後、カカシが処理をしてくれたということか。
 カカシのあけすけな幸せですといった顔にイルカは照れてしまい、つい横を向けばそこを追いかけて頬にキスを落としてくる。かわいい、と言われてまた温度が上昇する。
 昨夜、いや、もう朝がちかいくらいの時間だった。払暁の明るさが部屋に注ぎ込まれるくらいの時間まで何度も何度も交わった。後ろから何度か貫かれたあと、カカシは、人のように交わりたいと言ってきた。さすがにもう無理だと思ったが、カカシの欲はまだ収まりきれずにイルカを求めていた。イルカは仕方ないと仰向けになり、カカシの肩に足をかつがれてまた甘い息をこぼした。いい加減もう何も出ないほどに放出していたから少し余裕を持ってイルカを貪るカカシを見ることができた。
 人じゃないような綺麗な顔がイルカの体に快楽を感じて汗をしたたらせている。ケモノは、汗をかいていなかったなと思いながら、カカシの頭部を引き寄せてしがみついた。じゃれるように、カカシの耳朶や鼻先に噛みつく。左目の傷を舐め上げてやれば、感じたのかカカシが中で育った気がした。そこからはカカシは律動を早めたり動きを変えてみたりして、最終的にはイルカは翻弄された。そこで空っぽに出し尽くして、気絶した。
 カカシ先生、と口にしようとしたのに、全く声がでなかった。呼気が漏れ出るような音しかしない。一体自分はどれくらい声をあげ続けたのだろうかと、正気に戻った今、隣人に申し訳ないやら恥ずかしいやらで心中複雑だった。
「ねえイルカ先生。俺の家で暮らしましょうよ」
 イルカを胸におさめたカカシは鼻に小さくキスしてきた。
「俺の家、郊外だし、隣近所がないから、いくら声だしても大丈夫ですよ」
 にこやかに告げるカカシを睨み付ける。イルカの機嫌に敏感なカカシは慌ててぎゅうと抱きしめてきた。
「違います。そうじゃなくて、一緒にいたいから。イルカ先生と片時も離れたくないんです」
 顔中に口づけられて、願われて、怖い顔を保つことができずにイルカは吹き出した。と言ってもやはり声はかすれたままだったが。
 承諾の意味を込めて、イルカは自分からカカシの唇にちょんと触れた。目を見開くカカシに頷いてみせれば、熱烈に抱きしめられた。





 

 

  
 
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