涯を鎮む 0







 月がきれいだ。
 天高い場所に鎮座して里を照らす。
 柔らかく、それでいて涼やかな明かりに包まれていると、体の深いところからじわじわと染み出してくるものがある。それに身を委ねていつまでも空を見上げていたら、とうとう傍らの存在につつかれた。
「イルカ先生、いつまで見上げてるんだってばよ。首疲れないのか?」
「疲れるけど、きれいだろ。お前ぇもちったあ見てみろよ」
「やーだね。俺はこっちのほうがいいの」
 そう言ってナルトは片手にビールの缶をかかげた。
 幼い頃からかわらない無邪気な笑顔にイルカも笑みを誘われる。イルカもワンカップを手に乾杯した。
「おめでとう、ナルト」
 今夜はナルトの18回目の誕生日だった。





 ナルトの誕生日ということはイコール里が九尾の災厄をおさめた日だ。四代目の命日でもある。終わりで、始まりの日。九尾を腹に宿す存在として忌み嫌われていた子供も今では18。里では大人として迎えられる歳だ。その記念的な日を、ナルトはイルカと過ごしたいと言ってきた。
 里中が今日はしめやかに鎮魂の火を灯している。そんな中二人は火影岩を見渡せるアカデミーの屋上に上って、二人きりの宴を催していた。
「あのさ、あのさ、俺ってば18になって最初の酒はイルカ先生と飲もうって決めてたんだってばよ」
 あたりめを銜えたナルトはやけに高揚していた。まだ350の缶ビールを2本しか開けていないのに。どうやら酒はそんなに強くないのか、これからということか。ナルトの金の髪はきらきらと月の光を弾く。弾かれた光はまるで陽の光のように輝いた。
「サクラやサスケと過ごさなくていいのか? ちょうど二人とも里に戻ってきているんだろ」
「うん。でもさあ、俺ってばお邪魔虫になりたくないし」
「なんだ? あいつら付き合っているのか?」
「そうじゃないけど、久しぶりだから、サクラちゃんはきっとサスケと二人でいたいかなあって思うんだってばよ。それに、イルカ先生と二人で飲みたかったのは本当だし」
 ナルトは唇を突き出してそっぽを向く。
 今よりずっとずっと幼い頃と変わらず、ナルトはいつまでも不器用で優しい。
 何となくイルカは手を伸ばしてナルトの頭を乱暴に撫でていた。
「なんだよ、俺もうガキじゃないっでばよ!」
 ナルトは嫌がるが顔は笑っている。イルカは構わずぐしゃぐしゃと撫でているとそのうちにナルトは大人しくなり、俯いたままぼそりと口にした。
「……ありがと、イルカ先生」
 か細い声にイルカが顔をのぞき込もうとしたら、ナルトは急にイルカの胸元に顔を押しつけてきた。
「俺、今日は本当にイルカ先生といたかったんだ。あのさ、あのさ、俺ってば、九尾飼ってるだろ? だから、みんなに嫌われて、すっげー嫌な思いすることいっぱいあって、なんか、むかつくこともいっぱいあって、里なんかなくなっちまえって思うことあったんだよな」
 ナルトの両手がイルカのベストの端をきゅっと握る。
「でもさ、火影のじっちゃんとかサスケとかサクラちゃんとかカカシ先生とか、シカマルとかチョウジとかヒナタとかキバとか、俺の正体知っても関係なくダチでいてくれる奴らいっぱいできて、俺ってばそんでもってもう上忍になっちゃってさ、絶対火影にもなるしさ、だから、俺って、すごいじゃん?」
「ああ。そうだな。お前ぇは頑張ったな」
「うん。でもさ、でもさ、俺のこといっちばん最初に見てくれて、認めてくれたのは、イルカ先生なんだってばよ! イルカ先生がいなかったら、俺もしかしたら……」
「俺がいてもいなくても、ナルトは今みたいになっていたさ」
 ナルトの言葉を奪うようにイルカは言葉を重ねた。
 ナルトの両肩をぐっと掴むと、顔を上げさせる。青い目は心なしか潤んでいた。
「もっと自信持てよ。お前ぇ、そんなんじゃ火影になれねえぞ」
 イルカが額を小突くと、ナルトの表情が明るくなる。照れからか、しきりに鼻の下を指でこすって口の端を上げた。
「へへ。俺が火影になったらイルカ先生は老後心配しなくていいってばよ」
「おお。そりゃ楽しみだ。せいぜい面倒見てくれよ」
「まかせろってばよ!」
 軽口をたたきあった二人はとるにたらない日常のことを喋りながら、スーパーの大きなビニール袋二つに用意した酒類やつまみをほぼ空けてしまった。ござの上にごろりと横になったナルトは、頭の下で腕を組んでほうっと白い息をついた。
 月が空の端に追いやられ、いつの間にやら星がそこら中に散っていた。
 月の清浄な明かりと、星の輝き。尊い夜が美しく彩られていることが嬉しい。師弟はしばし無言のまま見入った。
「なあイルカ先生…」
「んー? どうした?」
 空を見上げたままイルカが返事をすると、ナルトは不意にイルカの左腕を掴んできた。
「俺さあ、イルカ先生のこと父ちゃんみたいだなって思ってんだ。俺に、父ちゃんがいたら、イルカ先生みたいな人だったんじゃないかなって…」
 夜の空気に溶けていきそうな静かな声に、咄嗟にイルカは軽口を返すこともできずにナルトを見た。ナルトは真っ直ぐにイルカのことを見ていた。
「ホントにありがとうってばよ」
 ナルトの顔に表れた笑顔には微塵のかげりもなく、ナルトが九尾を腹に飼いながらもいかにまっすぐに育ったかの証のように思えた。思えば、昔からナルトの笑顔は清々しく明るかった。一部の心ない里の者たちにどんなに悪意をぶつけられて、嫌な思いをいっぱいしても、それでも結局ナルトはいつでも前を見て、希望を追い続けてきた。諦めずに、前だけを見て。
 イルカはこんな時どんな言葉を告げればいいのかわからずに、夜空を向いたまま、ふさふさのナルトの髪をゆっくりとなで続けた。





 屋上の手すりから見下ろす里はところどころに火が灯り、ゆらゆらと移動をしていた。今夜は鎮魂の送り火が里中を巡る。手にもった火は道々で出会った者と交換して、人々は慰霊碑を目指す。慰霊碑に着いた人々は順次火をくべる。そこで今年1年の息災を祈って里の人々が忌むことを書いた短冊が燃やされるのだ。
 火を扱うということで、いつもの年ならばイルカは里の警備に借り出されるのだが、今夜ばかりははずしてもらった。
 遠くを見れば、慰霊碑と思われる辺りから煙が立ち上っている。煙は一体どこに向かうのだろう。人々の祈りを包んで、どこで鎮まるというのだろう。
「カカシさんは、どう思います? あの煙はどこに行くんでしょうね」
 背中に近づく気配にイルカは聞いてみた。
「う〜ん。煙は見ての通り空にむかってますよね〜。イルカ先生にはどこに向かっているように見えるんです?」
「俺には……」
 イルカは目を細めて煙を追う。
「俺には、果てに向かっているように見えます」
「果て?」
 カカシはイルカの隣に並んで同じように煙を見た。
 そんなカカシの横顔をイルカはじっと見つめた。イルカからカカシ、カカシから夜空へ。視線は連鎖する。
「カカシさん、いつ里に戻られたんです?」
「ついさっきですよ。火は、もう投げ入れてきました。俺はひっそりと参りたいんです。こういう時は苦手です」
「俺も、いつもは警備に走り回っているので、火を投げ入れることはあまりないんです。今夜も、ここでナルトと話してました」
 振り向いたイルカの目線の先にはござの上で毛布にくるまるナルトがいた。夕方、Aランクの任務から戻ったそうそうイルカの元にやってきて、そのまま屋上に上った。ろくな休みもとっていないのだから、さぞ疲れていることだろう。酒の力も手伝って熟睡だ。
「若手ホープの上忍が、イルカ先生の前だと無防備ですね〜」
 おかしそうに呟いたカカシはナルトに近づくと、まだ子供のままの丸い頬を軽くつついた。ナルトは身じろぎもしない。
「おや〜? 本当に熟睡ですね」
「昨日はナルトの誕生日だったんで、初めて、酒飲んだんです。と言っても、こいつはビールを数本空けただけですけどね」
 イルカもカカシの傍らにしゃがんでナルトの首元に毛布を引っ張り上げてやった。
「ねえカカシさん。ナルトは本当に頑張ったと思いませんか? こいつには全然責任のないことなのに一部の里の人から憎まれて、ガキの頃から嫌な思いいっぱいしたのに、でもちゃんと上忍になって、里を守っている。俺は本当にナルトのこと、誇りに思います」
 にこっと笑ってイルカはカカシを振り返った。
 いつの間にやら口布を下ろしていたカカシは、覗く青の片目を和ませるように細めた。その目の奥にある色にイルカの笑顔は剥がれ、カカシの視線の意味を問いかけるように瞬きを繰り返した。その隙に、近づく気配。唇に触れたのはカカシの唇だった。
 すぐに離れて、目を見開くイルカにカカシは笑いかけてきた。
「柔らかいね、相変わらず」
「…カカシさん、30男にいきなりするようなことじゃないですよ」
「ま、お互い年をとりましたね」
「そうですよ。ナルトたちが育つ分、俺たちは年老います」
 さりげなく、カカシから距離をとろうとイルカは身を引こうとしたが、ぐいと手を引かれてカカシの胸の中に引き込まれた。
「カカシさん! ナルトが起きます!」
 小さいながらも鋭くたしなめたイルカに頓着することなくカカシは苦笑した。
「起きないよ。昔から、イルカ先生のそばだとナルトは熟睡だ」
 また、カカシの顔が近づく。両手を上から押さえられて、イルカには顔をそむけるしか拒みようがないのだが、久しぶりに見る暗い藍の瞳に捕らわれる。
 上唇と下唇を柔らかくはまれ、緩んだ隙間に差し入れられる舌。決して強引ではないが、舌の熱さがイルカの心に直接触れてくる。だからイルカは拒めずに、ただ気恥ずかしさに耐えかねて、ぎゅっと目をつむった。
 混ざり合う唾液と脳の奥に直接響くような音が鼓動を高める。鼻から抜ける息。カカシの息づかいも荒い。手甲をはめたカカシの手が首筋に触れた。固い肌触りと冷たい指先にイルカは目を見開きカカシから顔をそむけていた。
 すぐには息も整わずに、手の甲で口を拭う。熱さと濡れた感触にまた羞恥が襲う。
 赤い顔のまま横目でカカシを睨めば、カカシは決まりが悪そうに頭をがりがりとかいていた。
「そんな、睨むことないじゃないですか。かりにもいい仲だった男に」
「そういう、問題じゃないでしょう、カカシさん」
「あのさあイルカ先生」
 イルカの口元にあった手が不意に取られる。思いがけず強い力で掴まれてイルカの体は強ばる。
 しかしカカシは子供のように唇を尖らせていた。
「俺たち、別れたんでしたっけ? 俺、別れてない気がするんですけど」
 まさかそんなことをカカシが言い出すとは思っていなかったから、イルカは面食らった。
「カカシさん、なんですかいきなり」
「確か大蛇丸の一件から里が大変になって、イルカ先生も俺も忙しくなってなんかよくわからないうちに自然消滅していただけですよね。俺はこれっぽっちもイルカ先生と別れる気なかったし、今も、ないんですけど」
「だから、カカシさん。30男に言う言葉じゃないです」
「男は30からです。俺はイルカ先生とまたきちんと付き合いたいんですけど?」
 イルカが間近で目にしていた頃とは少し違って精悍さを増した上忍の顔が、照れたように駄々をこねるように頬を膨らます。イルカのことを真剣にうかがう様子になんとなくイルカは脱力してしまった。
「もう、カカシさん、相変わらずですね。子供みたいですよ」
「それは違います。イルカ先生の前だから子供みたいになれるんです。普通好きな人の前だとそんなもんでしょ」
「でも俺は、カカシさんの前だときちんとしないとって思うことのほうが多かったですよ」
 イルカの言葉に途端にカカシの眉が寄せられる。イルカは安心させるように笑いかけた。
「好きな人の前では、少しでもいいとこ見せたいし、かっこつけたいものですからね」
 カカシの顔が輝く。
「え、じゃあ、イルカ先生、オッケーってこと?」
 その質問には答えずに、イルカは目を伏せた。
「なんとなく終わってから3年くらいたってるじゃないですか。その間、カカシさんは何もなかったんですか? どうして今更俺なんです?」
「そりゃあ俺だって女を抱くことだってありましたよ。男なんでね」
「でしょうね。俺もそうです。それが普通です」
「そ。男が女を抱く。普通だよね。でもね〜、俺さあ、やばいなあとは思ってたけど、どんないい女を抱いたとしても……」
 声をひそめたカカシはイルカの耳元に唇を寄せた。
「イルカ先生とのセックスよりいいことなかったよ。ちょっと気分がのらない時もイルカ先生のこと思い出すだけで、イケた」
「カカシさんっ!」
 かっとなったイルカは声を荒げたが、カカシは余裕でイルカの口をふさいだ。
「声大きい。ナルトが起きちゃうよ」
 イルカはナルトの変わらぬ寝顔を確認してから、カカシを引っ立てるようにして柵のほうに連れて行った。
「もう、そういうこと言うのやめて下さい。だいたい、俺たち数えるくらいしかセックスなんてしてないでしょう」
「そ。その数回のセックスが強烈で、俺を骨抜きにしてしまいました。すごいねイルカ先生。ひょっとしてテクニシャン?」
 イルカは調子にのるカカシの頭に無言で拳骨を落とした。大袈裟に沈んだカカシを腰に手を当てたイルカが見下ろす。
「だいたい! あなたは昔からそうですよ。強引にせまってきてなし崩しに関係作って、なんかねちっこくて俺ははっきり言って恥ずかしくて恥ずかしくて憤死もんでした!」
「え〜? 気持ち良くなかった?」
「カカシさんっ!」
 ふざけたカカシの言動に、たまらずイルカは腹の底からの大声を上げてしまった。カカシが素早く視線を走らせた先にいるナルトは、もぞもぞと動いて、むくりと起きあがってしまった。
 目をこすって、しばしキョロキョロと辺りを見回して二人に視線を定めた。
「んー…。……あー!! カカシ先生だってばよ!」
 ナルトは跳ねるようにして二人の元に転がり込んだ。その勢いのままカカシに抱きつく。
「ひっさしぶりー! 1年ぶりくらいだってばよ」
「こらこらナルト。お前ねえ、いつまでガキのつもりだよ。そのでかい図体で体当たりするな」
 柵に縫い止められるような形となったカカシは渋面のままナルトの体を引きはがした。
 すくすくと成長したナルトの身長はカカシとほぼ同じ。3人のなかでは僅差でイルカが一番低かった。
「いつ? いつ戻ったんだ? 砂のほうに行ってたんだろ?」
「昨日の晩。そういやあナルト、18になったってな。おめでとう」
「へへ。俺ってばもう大人だからなー。カカシ先生とイルカ先生はおっさんだけど」
「そうかそうか。それなら大人になったナルトを近いうちにきえいなお姉さんがいる店に連れていってやろう」
「げげっ。それってエロ仙人の好きなとこだろ? 俺はいらねーよ!」
「遠慮するなって」
 猫なで声でカカシがにじり寄ると、ナルトはイルカの後ろに隠れた。
「俺、俺、なんか買ってくる! 宴会第二弾やろうぜ!」
 手を大きく振って満開の笑顔で、ナルトは素早く消えた。
「いやあ、若いですね〜。さすが十代」
「ええ。立派な上忍です」
 ナルトが去った向こうを見つめたままイルカが頷くと、カカシに手を引かれた。
 カカシはイルカを緩く抱きしめて、イルカの肩口に額を載せたままくぐもった声で問いかけてきた。
「俺がどうして呼び戻されたか知っているよね」
 イルカは無言で返すことで肯定を示した。カカシの腕に少し力がこもる。
「これからはずっと里にいることになる。イルカ先生のそばにいられる。だから、本当に、もう一度ちゃんと付き合わない?」
 頼りない様子にイルカはカカシの背に手を回していた。
「カカシさん。らしくないですよ。そんなんで里を引っ張っていけますか」
 カカシは小さく笑った。
「正直、あんまり自信ないよ。だって俺イルカ先生一人も引っ張れないんだから」
 イルカは空を見上げた。
 先ほどより煙の量が多くなっている。質量を感じるわたあめのような煙が夜空にかぶる。その向こうに星はある。今は煙に遮られているが星はいつだって瞬く。
「カカシさんが、カカシさんにしかできない仕事をやり遂げたら、俺、もう一度付き合いたいです。俺は、ずっとカカシさんが好きだから」
 カカシから身を離したイルカは、今度は自分からカカシに唇を寄せた。触れてすぐに離れるぬくもり。本当にかわらない。カカシの唇をイルカも覚えている。
 驚いたように目を大きく開いたカカシは次には吹き出した。
「やり遂げたらって、イルカ先生、火影に終わりはないでしょ。俺どうしたらいいの」
「大丈夫カカシさん。そんなに遠くない未来にあなたは自信を持って火影をこなすことになりますよ」
 イルカは心の底からの気持ちを込めて笑いかけた。それが今のイルカにできる精一杯だった。







 翌日、木の葉の里は新しい火影を決めるための議会が開かれた。
 会議場の部屋では五代目火影ツナデを中心に、左右にはご意見番のうたたねコハルと水戸門ホムラが座り、3人の前には上層部の忍たちが半円で座っていた。ナルトもサクラも、そして暗部の面を被ったサスケも見えないところでひっそりと部屋のどこかにいることだろう。
 ここ1年病がちで伏せることが多いツナデは火影の笠にベールをかぶせて、顔色の悪さを隠していた。額のチャクラで若い姿形を保っているが、それも辛くなっていることだろう。傍らに立つ付き人のシズネはツナデを気遣っていた。
「さあ、さっさと決めて、あたしを休ませておくれよ。あたしもそろそろ引退したいんでね」
 大蛇丸の事件で打撃を受けた里の復興を手がけた女傑ははりのある声で告げた。その声が合図のように、忍たちは一斉に振り向く。その視線の先には、カカシがいた。
 カカシは溜息ひとつ落として立ち上がると、猫背の姿勢のままで前に進み出た。
「久しぶりだねえカカシ。ちったあいい面構えになったじゃないか」
「ど〜も。ツナデ様は変わらずお美しいですね」
「言うようになったじゃないか」
 苦笑したツナデは肘をついて組んだ両手の上に顎を載せて、カカシを見上げた。
「あんたを呼んだのは他でもない、火影の補佐をお願いしたいと思ってね」
 補佐、とはっきり告げられた言葉にどよめいたのは集まった忍たちのほうだった。内々に、はたけカカシが次の火影になることは暗黙の了解となっていたのに。
 しかしご意見番たちは表情ひとつかえずことの成り行きを見守っていた。
「ツナデ様、俺はてっきり、火影にされるのかと思ってましたよ」
「まあそのつもりだったんだけどね。ちょっと事情が変わった」
 カカシが素直な言葉で告げれば、ツナデも笑って返す。
「まあ別に俺はかまいませんが。正直俺が火影ってのは自分でもどうかと思っていたので」
 肩を竦めたカカシにツナデはかるく頭を下げた。
「よろしく頼む。至らない奴だからな」
 ツナデは傍らのシズネに目配せした。意を汲んだシズネは脇の扉に向かう。


 扉から入ってきたのは、イルカだった。





 

 


 
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