「イイイ、イ、ル、カ、せんせい・・・」
 ぽかんと開いたカカシの口。そのショックを受けた様子にイルカのほうこそますます気持ちが沈んでいく。だが、ここで気持ちを奮い立たせて、告げるべき事をさっさと告げてしまうのだ、と黒いイルカは悲壮な決心をしていた。
 そう。今のイルカは黒い。
 昼間カカシを怒鳴りつけたあと、駆け込んだ先は日焼けサロン。一時期ブームを起こしたガングロだが、今はすっかり下火。その店もやっと営業を続けているような風情で、駆け込んできたイルカに目を丸くした。受け付けにでた若い男はこんがり焼けていて、イルカのまっちろな様子に勝手に得心したのか、愛想よく応対してくれて、イルカは素っ裸で部屋に放り込まれた。
 ゆったりとお茶など飲みながらじりじりと焼かれた。
 体はじりじり、心もじりじり。イルカの肌を惜しむカカシの心ない対応に少し泣いた。
 こんがりうまそうに焼けたイルカは、決意も固く、カカシの家を訪れた、というわけだ。
「カカシ先生。俺、もうこんな真っ黒だし、ニキビできたし! だから、カカシ先生とはこれ以上つきあえません。まあ別に恋人とかじゃあなかったし、どうでもいいでしょうけどね。これからはもう・・・」
 頑張ってカカシの目を見て喋っていたのだが、だんだんと伏し目がちになり、語尾は消えていく。情けないことに、こうなってカカシのことをかなり好きになっていたのだと自覚する。チクショウ、詐欺だ、と心で毒づく。もしもカカシがすぐに新しい恋人なんて作りやがったら、嫌がらせで報告者は必ず突き返してやる。
「ということなんで! サヨウナラ!」
 身を返そうとしたのに、腕を引かれた。カカシの腕の中におさまっている自分。きつくきつくカカシに抱きしめられていた。
「ちょっと! 離してくださいよ!」
「ごめんねイルカ先生〜。本当にごめんなさい〜」
 後ろでドアが閉まる。痛いくらいにカカシにぎゅうっと抱きしめられている。呆然としたままのイルカの耳にカカシは唇をよせてくる。
「死ぬほど反省してます。イルカ先生探したけどどこにもいなくて。待ってる間もう気が気でなかったです。捨てられたらどうしようってそればっかり考えてました」
 カカシの甘く響く声。なんとなく、懐かしいな、とイルカはぼんやりと考える。
「イルカ先生からのチョコ、もったいなくてまだ食べてません。俺のためにほっぺたニキビ作ったんですよね」
 少し体をはなしたカカシは繊細な手つきでイルカの頬に触れてくる。少し震える指先の理由が知りたいなと思う。
 黙ったままのイルカに困った顔をしたカカシは伺いをたてるような口づけをしてきた。久しぶりの感触にイルカは心臓をどきんとはねさせた。
「イルカ先生のこと好きですよ。誤解させちゃってごめんね。黒くても、ニキビがあっても好き」
「・・・でも、俺、今は確かにつるつるだけど、きっと年とったら」
「ああ、ほんとにごめん。でもね、イルカ先生、わからない?」
「何がですか?」
 微笑んだカカシは急にイルカの体を反転させると玄関の上がりがまちに座らせる。その前に跪いたカカシは慣れた仕草でイルカの下肢をまさぐり出す。
「ちょっと! カカシ先生!?」
 イルカの性器を取り出したカカシは、少し乱暴な手つきでイルカの官能を引き出そうといじり始める。情けないが、イルカはご無沙汰だったためにたいした時間をかけずに勃起させてしまった。かあっとイルカの顔に朱が上る。そんなイルカをカカシは嬉しそうに見上げる。
「ね、イルカ先生。俺たち男同士だよね?」
「そんな、訊くまでも・・・・・んっ」
 鼻から抜けるような声がでてしまう。
「そうだよね。訊くまでもなく俺たち男同士でさ、普通に考えて、絶対女抱きたいわけじゃない?」
 イルカは硬度を増していく自身に耐えきれずに目をつむってしまう。すると見えない分快感が高まり結局また目を開ける。丁度カカシがイルカの滲みだしたものを舐めとったところだった。そのもどかしい感覚にますます体は熱くなる。
「イルカ先生、日サロ行ったんでしょ? あそこ裸で放り込まれるんだよね? ここも焼けちゃったね。でもかわいい。おいしそう」
「ヘ・・・ン、タイ・・・」
「失礼だなあ。それより、他に客居なかった? もし他の男と一緒だったなら俺暴れるよ?」
「は・・・。一人、ですよ。でも、俺なんかの、裸・・・・・んぁっ」
 カカシはとうとう口に含んでしまった。根本を指で擦りながら口のなかでわざと音をたててしごいている。イルカを真っ直ぐに見つめる目はそらさない。とろりと脳がとろけそうな感覚にイルカはぼんやりとしてくる。
 カカシはもう片方の手を自らの下肢に持っていき、おもむろに手をつっこむと動かし出す。イルカを口にして、自慰をしている。うっとりと、気持ち良さそうな顔をして。カカシの目はうすく細められ、ほどなくしてくぐもった声を上げて達した。きゅうっとイルカを含む口もすぼめられ、先端に意地悪く舌をねじ込まれた時にはイルカも放ってしまっていた。
「ごめ・・・! カカシ、先生。出して・・・」
 イルカがのろのろと手を動かしてカカシの口を開けようとするが、身を乗り出したカカシは、イルカの目の前で、音をたててイルカの放ったものを飲み干した。唇に散った白いものも舐めとる。イルカは発熱したように赤くなった。
「ど、して、いつも、そんなもの、飲むんですか・・・!」
「イルカ先生のだから。イルカ先生のこと、愛しちゃってるからね〜」
 なんてことなく言ったカカシに頬にキスされて、舐め上げられた。イルカはびくりと身を竦ませてしまう。
「ねえ、イルカ先生。俺がイルカ先生の肌だけが目当てならさ、こんなことできないよね? 同じ男のアレ舐めたり精液飲んだり。相手をいかせただけで我慢とかさ、普通、できないよね?」
 顔中にキスをされながらカカシはまたイルカの急所を乗り上げた膝で押してくる。放ったばかりだがイルカはまた快感が集まってくるのを感じていた。
「俺は、付き合いとか、よくわからないんです・・・。でも、カカシ先生に、触られたりするのは、嫌じゃあ、ないです・・・」
「同じ男同士なのに? それもヘンタイじゃない?」
「ヘンタイ、なんかじゃ・・・」
「そ。ヘンタイじゃないよ。それはね、俺のことが好きだから」
 宣言して、カカシはイルカの唇に触れてきた。
 上唇をはさみこむように甘咬みし、すぐに舌を入れてくる。イルカの舌を絡め取って、唾液を注ぎ込むようなねっとりとしたキス。くらくらとなったイルカは無意識のうちにカカシ頭部を抱え込み、自らもむさぼるようにしてカカシの口に触れていた。角度を変えて息を継ぐ合間に、やっと口にした。
「ん。好き。好きです、カカシ先生!」
 はあっと息を吐きだしながらイルカは告げた。潤んだ視界の中で、カカシが幸せそうに笑う。
「やっと聞けた」
 気づけば再びカカシの腕のなか。痛いくらいの力が心地いい。イルカも素直に両手に力をこめた。

 

「じゃあ、脱いでもらいましょうか」
 恋人として足を踏み入れたカカシの家。お茶を飲みながらイルカがうっとりと幸せを噛みしめていたら、片手に余る大きさの筒型の缶を持ってきたカカシが告げた。
「脱ぐ? は?」
「そ。脱いで下さい。そんなに日焼けしちゃって肌にいいわけないでしょ。ちゃんと薬塗っておかないとシミになったらどうするんです」
 お茶をおいたイルカの目はすわった。
「肌なんて関係なく、俺のこと好きなんですよね〜?」
「勿論です。でもそれとこれとは話が別。ささ。脱いで脱いで」
 帰宅しようと立ちあがったイルカはあっという間の早業で床に引き倒されていた。カカシが乗ってくる。その完璧な笑みにイルカは背筋が震えた。この男、本気だ。
「じゃあ、それ、もらいます。家で、自分で・・・」
「だーめ。背中とか塗れないでしょ? 俺が、すみっずみまで、塗って差し上げます」
 イルカはごくりと唾を飲む。カカシの頭部に二本の角が見えた気がした。

 

 いったいどれくらいの時間が経過したのだろう。息も絶え絶えに、素っ裸のイルカが床に横たわり、ご満悦なカカシはそんなイルカを抱きしめて、胸のあたりを撫でさすったり口で吸い付いたりしていた。
「う〜ん。やっぱりサイコー」
 何回吐精させられたかなど考えたくもない。とっつかまったイルカは裸に剥かれて、薬を体中に塗られる過程で、カカシの指や口で何回もイカされた。フローリングの床には吐き出したものがところどころ溜まり、目にすると自己嫌悪に陥る。
 カカシはイタズラめいた仕草で胸を撫でたり性器も撫でさすっていたが、急に立ち上がるとキッチンの方に行き、戻ってきた時にはイルカがあげたチョコの小箱を持っていた。
「イルカ先生、いただきますね」
 イルカが口につっこんだせいでいささか歪んだ箱。カカシは器用な手つきでラッピングをほどくと、指先につまんだ。
「おお〜。イルカだ」
 カカシはぱくりと口にすると、おいしいです、と頷く。もう一つ食べたあと、残りの一つをイルカの口元にもってきた。イルカはのろのろと口を開けて食した。疲れ切った体に甘さが心地いい。吟味に吟味を重ねただけあって、ほどよい甘さでまろやかな口溶けだった。
 チョコの小箱を脇にどけたカカシは再び片肘ついてイルカと向かい合うように横たわった。イルカの肩の丸い部分に手を置いて、感触を楽しむように撫でる。
「白いイルカ先生もいいけど、こんがりチョコレート色のイルカ先生もいいね。バレンタインにぴったりだ」
 手のひらは移動して胸の飾りを指先でつつく。
「なんか今のイルカ先生やらしいかんじ〜。俺が塗ってあげた薬でテカってて、もう食べて下さいと言わんばかり」
 カカシはぐふふと呟いてイルカの乳首をいじり続ける。
 もうさすがにイルカの体はカカシからの刺激に反応しないくらい疲れ切ってきた。部屋の中も独特な匂いがたちこめている気がして、早く風呂に入りたい。
「というわけでイルカ先生。今日は、せっかくのバレンタインだし、最後まで、しちゃっていい?」
「・・・・でも俺、もうくたくたです。ご期待にそうことできませんよ」
「あ、いいのいいの。とりあえず今日は入れてみるね。ゆっくり慣らしていきましょう」
 言いざま、カカシの指がイルカの後を撫でてくる。体中が弛緩した今のイルカの中に入るのは確かに容易なことかもしれない。
 カカシのことは好きだし、最後までしてしまうことにもう今更否やはないのだが、それでもどこか冷静な頭の奥では思う。あんな場所に入れたがるカカシはやっぱりヘンタイかもしれないと。
「でもその前に、風呂、入りたいんですけど・・・」
「風呂! そうだ!」
 身をおこしたカカシは、有無を言わさず、イルカのぐったりとした体を強引に抱えるようにして引っ張り上げた。あせったのはイルカだ。裸で女のように抱えられるなど、屈辱だ。
「っカカシ先生!」
「しょうがないでしょ。イルカ先生動けないんだから」
 カカシが連れてきたのは風呂場。くもりガラスを開けるとそこには。
「うわあ・・・」
 イルカは素直に感嘆の声を上げていた。
 そこはイルカが知っているカカシの風呂場とは違っていた。
 窮屈に身をたたんではいっていた今までの風呂場ではなかった。イルカの家と同じように、大の男二人がゆったりと体を伸ばして横たえることができる広さ。温かそうなクリーム色のタイルと湯船。どうやらお湯は24時間循環タイプのシステムバス。保温効果も抜群。いつでもどんな時でも入ることができる。イルカは相好を崩した。
「すごい、カカシ先生!」
「喜んでくれました? イルカ先生の為に改築したんです」
 カカシはイルカを抱えたまま湯船に入る。そこで二人長々と横たわる。頭をおける位置にはサウナで見かけるような、銀色の枕。なかは水が循環しており、ひんやりと気持ちがいい。にこにことしているカカシを見ていたら、イルカの中になんともいえない愛しさが溢れて、自分から抱きついてキスしていた。
 抱き返してきたカカシは、後ろから不埒な指先でイルカの奥を探ってきた。知らない感覚が恥かしく、イルカはすがりつくようにしてカカシに口づけを続けた。
 指が一本、二本、と増えていく。溶け出しそうな体が素直にカカシの指を受け入れているのがわかる。
 足を伸ばしたカカシは体の上にイルカを抱え直し、恥ずかしいくらいに足を広げさせた。ふと下を見れば、やはりイルカの性器は項垂れている。だがカカシのほうは臨戦態勢で、二人顔を見合わせて苦笑した。
「いいですよ、カカシ先生。多分、大丈夫ですよ・・・」
「じゃあ、お言葉に甘えて、手合わせ願います」
 律儀に頭を下げたカカシは自らに片手を添えて、もう片方の手でイルカの腰を支えて埋め込んできた。
「うーん。異物感ー」
 ぬるりとしたものがめり込んでくる。イルカは弛緩した体のまま、不思議なくらいにカカシの猛ったものを従順に受け入れた。
 何度か腰を揺さぶって、カカシは全てを納めて息をつく。その顔が少し苦しそうで、イルカはカカシの頬を撫でてやった。
「だい、じょうぶですか? カカシ先生」
「ん。少しきついけど」
「辛そうですよ?」
 イルカの心配をカカシは一笑した。
「辛いよ〜。でもね、イルカ先生の中がきつくて締め付けてきてくれて気持ちイイの。もっていかれないようにしてるのが辛いの。イルカ先生は大丈夫?」
「俺は、とにかく異物感が・・・」
 下肢をみればなんだか間抜けな光景がある。
 項垂れたまま、イルカの性器はカカシの下腹に載っている。カカシが撫でさすってくれるが反応は、ない。
 イルカはカカシの手を止めて、カカシに抱きついた。
「今は、こうしてましょう。ゆっくりいくんでしょう?」
「そうですね。まあそのうちにイルカ先生のことひいひい言わせちゃいますから安心してください」
「・・・ひいひいなんて言いませんよ」
「大丈夫大丈夫」
 イルカはカカシのとんちんかんな応対にあきれながらも、下肢にある異物感を受け入れたまま、目を閉じた。
 きっとこの人となら幸せになれるだろう。