■ザ☆中忍 6






「アニキ?」
「……まいった」
「なにが、まいったんですかい?」
「ちょっと、もっかい座ってくれる?」
「ええ」
 イルカを座らせて、カカシはソファの上で正座してイルカと向かい合う。するとイルカもカカシをまねて、ソファの上で正座した。カカシの強ばった表情がイルカにも映ったのか、生真面目に見つめ返された。本当は言わなくてもいいのかもしれないが、誠実なイルカに対して嘘をつくのは申し訳ない気がした。
「この間さ、夢精したって言ったよね」
「あ、ああ、そのことですかい」
 さすがに恥ずかしいのかイルカは顔を赤くする。
「いや、面目ないと言いますか、俺も修行が足りないと言いますか」
「夢精じゃないよ」
「いやあ、そんな、慰めていただかなくてもいいっすよ」
「だから夢精じゃないの。俺がやったことだから」
「へ?」
「イルカ先生覚えてないかもしれないけど、クナイに塗られた毒で夜中相当痛かったみたい。気を紛らすために自分でマスかこうとしたんだけど、うまくできなくて俺に頼んだの。俺は別に断ってもよかったし本当だったら断るべきことだと思うのに、俺、寝ぼけているイルカ先生のあそこをいじった」
「な、なに言ってん、すか、アニキ。そんな、馬鹿なこと、あ、あるわけないじゃないっすか」
 イルカは焦ってしどろもどろになる。
「少しでも気が紛れるならって思って触ったんだけど。当初の目的よりも、イルカ先生がかわいくて、夢中になってしまって……」
 とうとうイルカは叫んだ。
「う、嘘だ! 泣いてませんよ俺は。それにかわいくなんてないっ」
「泣いてたの。でもねイルカ先生、俺はどうやら、あなたのことが、なんていうか好きなのかな〜ってとこなんです。だから、あの女と、付き合って欲しくなかった。だからあんなこと言っちゃいました。卑怯者でした。ごめんなさい」
 イルカではないが、カカシは土下座した。
「もう俺なんてあなたのアニキである資格なんてないと思うけど、あの女と付き合うならアニキをやめるなんて卑怯な事はいいません。だから今からでも、あの女のことが好きなら」
 イルカに罵倒されアニキのお役ご免になるかもしれない。けれど、それでもカカシは、まずはきちんと謝りたかった。
 頭を下げたまま待つことしばし。しかしいくら待ってもイルカの怒りの声は降ってこない。
 カカシはおそるおそる顔を上げた。するとそこには、顔を真っ赤にしたイルカがいた。
「アニキが、俺のこと、好き……?」
 イルカは独り言のように呟いた。
「アニキが、俺のこと」
「そうです! 好きなんです!」
 カカシは勢い込んでイルカに詰め寄った。間近に迫ったカカシにますます顔を赤くしたイルカだったが、胸にこぶしを当てて身をかがめて目をつむり、ううん、と唸った。
「イ、イルカ先生?」
「ちょっと待ってくだせえアニキ」
 遮られて、カカシは大人しくイルカの沈思黙考を見守る。いったいイルカはどんな結論を出そうとしているのだろう。
 鳴りやまない鼓動をかかえるカカシをよそに、顔をあげたイルカはにかりと晴れやかに子供のように笑った。
「わかりましたアニキ。どうやら俺もアニキのこと好きみたいっす」
 あっさりと言い切ったイルカにカカシはぱかりとアホみたいに口が開く。
 イルカは照れているのか、鼻の傷をかきながらちらりとカカシのことをうかがう。
「なんていいますか、今ね、こう胸がね、きゅーんって感じがしたんですよアニキに好きだって言われた時。あいつに好きだって言われた時も嬉しかったは嬉しかったんですがね、きゅーんとはこなかったんですよ。けど今、俺ちょっとばかり心臓が痛くなりました。これって、好きだってことっすよねアニキのことが」
 イルカの言葉に、カカシはぼうっとなる。なんだこの思いがけない展開は。
「アニキ? どうかしましたか?」
「イルカ先生。俺のこと、思いきり殴ってくれるかな」
 棒読みでお願いすればイルカはくわっと目をむいた。
「な、なにをおっしゃるんすか。アニキを殴るなんてできませんよ」
 さっきは怒鳴り散らしたくせにいきなり殊勝なことを言う。
「うん。でもアニキ命令。殴って」
 重ねて口にすれば覚悟を決めたのか、イルカはひとつ息をつく。そして立ちあがると、拳を振り上げた。
「申し訳ありませんアニキィ!」
 こぶしが打ち下ろされる。いいパンチだ。それでも吹っ飛ばされることはなかった。けれど痛みに頬というか顔全体がじわあんとなる。
 痛い。間違いなく痛い。
 ということは、夢じゃない。
「イルカ先生!」
 がばっと両手を広げてイルカを抱きしめようとしたが、その前にイルカはカカシの腕をすり抜けていた。
「じゃあアニキ。ちかいうちにアニキのお宅にうかがいますんで、よろしくお願いします」
 礼儀正しく深く頭を下げてイルカは去っていった。
 取り残されたカカシは事態の急展開にいまいちついて行けずに、ただ間違いのない頬の傷みだけを頼りにイルカからの告白を何度も何度も反芻したのだった。



 うろうろうろうろとカカシは狭い我が家で落ち着きなく歩き回っていた。
 あの日から一週間、もうすぐイルカが来る。しかしイルカは一体何をしに来るのだろう。とりあえず家の掃除をして、適当に総菜を買って酒も用意した。ただの宴会となってもそれはそれでいいかと思っていた。
 とりあえずよくわからないうちにではあるが両思いになったのだ。焦る必要はない。
 ほどなくして、浮かれ立つカカシの元にイルカがやって来た。戸を叩かれ迎え入れようといささか緊張しつつドアを開けた途端、カカシの笑顔はひきつった。
「ちょっ……と! イルカ先生! なんですかっ。この」
 と言ったところでごほごほと咳き込む。イルカは三白眼をきゅうとしぼってカカシのことを愕きで見つめてきた。
「ちょっ、イルカ先生! あんた、この匂い、なんともないの? おかしいって!」
 そしてまた咳き込む。
「匂い?」
 イルカはそこでやっとふんふんと鼻をうごめかした。
「これ、おすすめの香水って、店の人から薦められたんすけど。コイビトの家に行くならって」
「だからね、それはかすかにさりげなく香る時のことを言ってるの。これっ、明らかに瓶ごとぶっかけたくらいの勢いだけど?」
「そうですかあ?」
 イルカは麻痺しているのか手近な腕のあたりをかいでいる。
 カカシはたまらずイルカをひっつかんで服を無理矢理脱がせて風呂場に放り込んだ。
「まずその匂い落としてっ。話はそれからっ」
 有無を言わさずに風呂場の戸を閉めた。
 咳き込みつつもカカシは窓を大きく開けはなって換気する。一体イルカはなにを考えているのだ。こんな、悪臭にまでなってしまっている匂いを振りまいて街中を歩いてきたというのか。
 香水というのはつけている本人はその匂いがよくわからないというがまさにそうだ。
 外にでてアパートの周りにかるい風遁を起こして空気を拡散する。部屋の中も同じ要領で匂いを追い出しやっと一息だ。
 窓から体半分つきだして体中で新鮮な空気を吸い込んで、そこでカカシはさきほどのイルカの言葉を思い返す余裕がでてきた。
 しっかり聞いた。イルカは、『コイビト』と言った。間違いなく言った。
 にまりとカカシの鼻の下は伸びる。
 恋人。イルカが、恋人。アニキから恋人になってしまった。
 うふうふとカカシが気持ち悪く笑っていると、風呂場の戸が開いた。そういえばバスタオルしか置いてなかったと思い返してくるりと振り返れば、そこには、下半身にバスタオルを巻いたイルカがいた。
 着太りするタイプなのか、知っている姿よりも結構細いような気がする。腹のあたりにちゃんと筋肉はあるが、触り心地が良さそうな感じでつるりとしていた。
 じっとイルカの姿を見ていると、イルカはなぜか頬を赤くして、ちらちらとカカシのことを伺ってくる。
 その熱い視線に気づくと、急にカカシの心臓はどきんと高ぶった。妙に、艶めいてみえるのはやはりイルカが恋人になったからだ。ちょっとした視線や仕草がなぜか媚態となって映る。
「あ、あの、アニキ……」
「はははは、はい! なんでしょうか?」
「あの、俺、実は。実は俺……」
「はいはいはいはい!」
 見つめ合うことしばし。いきなりイルカはくるりと背を向けた。そしておもむろにカカシに尻をつきだすとバスタオルをぺろりとはがした。
「これが俺なんです!」
 イルカは、叫んだ。
 イルカはトランクスを履いていた。あお色のトランクス。そして形のいい尻のところは『俺、童貞なんです!』と白く染め抜かれていた。

 ごくりと喉を鳴らしていた。尻をつきだしたままでイルカは顔を向けてきた。うるんだ黒い瞳に問いかける。
「童貞、なんですか?」
 こく、とイルカは頷く。
「でもイルカ先生、ヤンキーだったんですよ、ね?」
「アニキはヤンキーを誤解しているっす!」
 真っ直ぐに立ったイルカは両の拳をぐっと握りしめてぎらつく三白眼を見せた。
「そりゃあ確かにとんでもない奴らもいますよ。けど俺が所属していた木の葉の赤い稲妻は硬派で有名だったんす。厳しい規律の下、女なんて軟弱だと俺たちはひたすらに強さを、風を追いかけました」
 イルカは懐かしい風を感じているのかパンツ一丁で拳を作ったまま目をつむりしばし感慨に耽る。
「はいはい。まあとにかくこっち来て座ってくださいよ」
 イルカを促してベッドに座る。イルカは縮こまっていた。
「まあ、それで、童貞で、だから、なにが言いたいんです?」
 だんまりのイルカに問いかければ、イルカはちらとカカシに視線を流す。それがなんというか無意識の媚態とでもいうのか、カカシはかあと脳が焼けた。
「……俺、二十五です。それで、童貞って、気持ち悪くないですか?」
 ぷっとカカシは吹きだしてしまった。
「アニキ!」
「ごめん、でもイルカ先生、かわいくて」
「か、かわいくありません!」
 心外だ、とばかりにイルカはむくれる。イルカの表情やら仕草全てがかわいく映って仕方ない。
「いいじゃない童貞でも。俺だって童貞だし」
「えっ?」
 カカシの告白にイルカはベッドから立ちあがった。
「まさか、アニキがそんなわけないっすよ。アニキめちゃくちゃかっこいいじゃないっすか。俺、アニキの素顔を初めて見たときほれぼれしましたぜ」
 イルカが力をこめて言ってくれる。確かに己の容姿は整っているほうなのだと、それくらいの自覚はある。中身はあまり男らしくないのだが、好きな相手がかっこいいと思ってくれていることは気分がいい。
「ありがと。でも本当だよ。俺も童貞。童貞な俺は嫌かな?」
「い、嫌だなんて滅相もありません!」
 イルカはぶるぶると首を振った。
「俺、いい加減な気持ちでってのは嫌だったから、こうと決めた相手と初めてはしたいと思ってたんすよ。アニキもそうだったんすね!」
 目をきらきらとさせたイルカは同士を見つけた喜びに打ち震えている。だからカカシは続く言葉を言いそびれてしまった。
 男は初めてなんだ、と。
 意外にも乙女ちっくなイルカの発想に頭が下がる。もしかしたら、キス、もしたことがないのかもしれない。
 そこまで考えがおよぶと、腹の底からじわりとこみあげてくるものがある。
 これは、嬉しさだ。特に今まで相手の貞操を考えたことなどなかったが、それはもしかしたら心から好きな相手ではなかったからかもしれない。大好きなイルカのなにもかも初めての相手が自分だという実感にめちゃくちゃ酔いそうになる。
 その気持ちのままでカカシはイルカの手を引っ張ってベッドの上に押し倒そうとしたのだが、イルカは急に立ちあがった。
「いやあ、安心しました。じゃ、そういうことで」
 そう言って、あろうことかイルカは帰り支度を始めるではないか。服を探してきょろきょろと視線を動かすイルカの右の二の腕を強く掴んだ。
「ちょっと待ってよイルカ先生」
 イルカの体をくるりとこちらのほうに向けて、がしりと両肩を掴んだ。
「このまま、帰るつもりですか!」
「そのつもり、ですけど……」
 さすがにカカシの剣幕にイルカの声はしぼむ。カカシはそのまままくしたてた。
「俺、イルカ先生のこと好きだって言いましたよね。イルカ先生も俺のこと好きなんだよね。好きな相手が目の前で裸になったら、誘っているかと思います。思われても仕方がないですよ! それなのにのこのこ帰るなんて、新手の嫌がらせですか? 俺を焦らして楽しんでるんですか!」
「じ、焦らすなんて、そんなんじゃないっす。成り行きでこうなってしまっただけで……」
 焦ってイルカは声を上げるがちょっと普通でない心持ちになっているカカシには聞こえない。
「そうですかイルカ先生がそのつもりならこちらにも考えがあります。焦らすだけ焦らしたらいいんですよ。そしたら俺すごいことになりますからね。もうその時がきたらイルカ先生が泣きはいっても絶対にやめません。ぐっちょぐちょになるまでやりますから。やらせて頂きますからね!」
 ふん、と鼻息も荒く告げた。
 イルカは青ざめて、らしくなく不安げに瞳を揺らす。
「ぐちょぐちょってなんすか〜」
「ぐちょぐちょはぐちょぐちょです。体中互いの体液でぬるぬるプロレスができるくらいのぐちょぐちょです」
 きっとよくわかっていないだろうがカカシの剣幕にイルカは怯える。
「だって……」
「だってもくそもありませんっ」
 そこでとうとうイルカもしおれていた様子から立ち直った。カカシの手を払うと持参してきたカバンにかけより、そこから雑誌をとりだすとカカシの前にかざした。
 なんだと思って目をこらすと、そこには『アニキ』というタイトル。屈強な男にうっとりとしなだれかかるかわいい感じの少年という構図。二人とも上半身裸だった。
 タイトル以外に、初めての夏とか、HOW TO SEXなんて文字が見える。
 あきらかに、その手の雑誌だ。カカシはいかがわしいものを見る目でイルカを見つめた。
「イルカ先生……」
「パンツも、この本も、恥ずかしいから通販で買いました。お、俺、とにかくなにもかも初めてだから、男同士がどうやるのか勉強しようと思って端から端までじっくり読みました。そしたら、お、男同士は、ケツの穴に入れるって書いてあったんすよ!」
 がーっとイルカの顔が赤くなる。そして次には青くなる。
「ケツの穴ですよアニキ。入るわけないじゃあないですか。俺、標準サイズだと思うけど、でもそれ以上に俺のイチモツなんかをアニキのケツにいれるなんてそんなだいそれたこと……」
「ちょっと待ってイルカ先生」
 カカシは慌ててイルカを止めた。はあはあと息を荒げるイルカをまじまじと見つめる。わざとらしく耳をかく。
「今、なんて言ったかな? 俺の聞き違いじゃなければ、俺に、イルカ先生が、入れるって言った……?」
 イルカはためらうことなく大きく頷いた。カカシは思わずその場で倒れそうになった。
「どうしたんすかアニキ」
 カカシは落としていた肩を上げて、イルカに思い切りよく唇をぶつけた。
「!」
 もがくイルカを押さえつけて、そのままベッドに倒れ込む。今まで培ってきた技術を総動員させてイルカの口を吸う。逃れようと首を振ったイルカは息継ぎがうまくできずに口を開ける。そこに舌を差し入れ、口の中を嘗め回し、舌をからめとり、唾液が落ちるキスをした。
「っは……、ア、ニキ……」
 唇を光らせ、口の端から唾液を垂らしてぐったりと肩で息をするイルカの赤い顔を満足とともに見下ろす。
 痛みを堪えるように細めた目の潤んだ三白眼がまた色っぽかった。
「イルカ先生、俺に入れる気なら、最低限これくらいのことはして、俺のこと気持ちよくしてくれなきゃ。男同士は入れられる方に特に負担がかかるから、入れる方はそりゃあ気を遣うんですよ。相手のことを思い切り気持ちよくしてから、入れさせてもらうんですよ。イルカ先生、童貞なのにできるの?」
 うっと言葉を返せないイルカだが、拗ねたように口を尖らせた。
「アニキだって……」
「そうです童貞です。でも俺はずっと勉強してましたから。この本で!」
 カカシはばばんと伝家の宝刀『イチャイチャパラダイス』をかざした!
「これはですねえ、男女だけではなく、男同士でも役立つハウツー本としても使える名著なんです。俺は常日頃からこの本を熟読玩味していますからばっちりです!」
 イルカはおお、と目を輝かせる。
「さすが、さすがっすアニキ! 俺も、俺も読みます!」
「イルカ先生はあの雑誌で勉強したんですよね」
「いや、でも、自信ないんで……」
「端から端まで読み込んだんですよね!」
 たたみかければイルカは観念して頷いた。
「……読み込みました」
 その瞬間カカシはにこおと満面の笑顔になる。
「じゃあ問題ないね」
「でも俺、俺俺俺、ほんっとうにわからなくて、お、男同士がどうやるかなんて、知らなかったんす」
「はあ、まあ、そうでしょうね」
「俺のケツなんかにアニキの大事なあれを突っ込んでいいんすか? だってケツなんて、出すところで入れるところじゃないんすよ? いや、ガキの頃は座薬入れたことはありますよ。でもそれは風邪だったからで本当は排泄のための器官なのに! 俺のケツになんてっ」
「ケツケツうるさいなあもう」
 往生際の悪いイルカは視線を定めることができずにカカシを見たり天井を見たりあらぬほうを見たりあわあわと忙しい。カカシはさすがに鼻息が荒くなりはじめ、下腹のあたりがもやもやとしてくる。いい加減にしろと凶暴な気持ちになりかけた時、その同じタイミングでイルカが不安そうに瞳をゆらしつつも真っ直ぐにカカシを見上げてきた。
「本当に、アニキが入れるんすか?」
「そう。俺が、イルカ先生に、入れたいの」
 力をこめて告げる。
「でも、ケツの穴っすよ?」
「ケツの穴どころかイルカ先生のものならあそこだって嘗め回すことができます!」
「アニキ!」
 ぼんっと沸騰したイルカは、じっと瞬きもせずにカカシを見上げていたが、頬を染めたままか細い声をあげた。
「わかりました。俺なんかのケツに、恐れ多いすけど……、入れてください」
 その言葉にカカシのテンションは一気に最高潮に達した。
 入れてください。
 なんというかイルカに他意がないことはわかっているが、まるでおねだりされたようで、燃える。
「イルカ先生! イルカ先生イルカ先生! 好きです。好きっ。大ッ好きです!」
 とんがった下半身を押しつけるようにぎゅうぎゅうとイルカを抱きしめる。
「苦しいっすアニキ。俺、消毒液持ってきたから、ケツの穴をちゃんときれいにしてから」
「いい! そんなのいい! 風呂に入ったから充分。どうしても消毒したいなら俺がしてあげる!」
「いや! それは遠慮します!」
「ねえ、もういいでしょ?」
 甘えるようにイルカの顔中にキスをする。
「アニキ! ちょっと、だから俺、よくわからないんですけど! こっ……」
「こ?」
「こ、こ……っ」
 体を離せば、ぐっと胸の前で両手のこぶしを握りしめたイルカはわあっと口にした。
「こんなの初めてって言ったほうがいいんすか? アニキ!」
 ばたんと思わずカカシはイルカの胸につっぷした。
「ア、アニキ?」
 さすがというかなんというか、イルカの思考には脱帽だ。いったいどうしたらそんな方向に考えが向かうというのか全くカカシには謎だった。
「アニキ、やっぱり、違いますか?」
「こんなのもそんなのも、イルカ先生、なにもかもが初めてなんじゃないですか」
 顔を上げて告げれば、イルカはぽんと手のひらを打った。
「そっか。そっすね。そうだ、俺童貞なんだからとにかく初めてなんすね」
 そうかそうかと緊張のとれたイルカは暢気に笑っているが、カカシはそうはいかない。イルカの天然の焦らし作戦に耐え難いところまで追いつめられていた。
「それで、俺のほうがイルカ先生よりレベルが高いってことはわかったよね。だから俺が、イルカ先生に入れさせていただきます。大丈夫、イルカ先生のことめちゃくちゃ気持ちよくしてあげるから」
 カカシは自信を持って告げた。自慢になるのかどうかわかららないが、今まで関係を結んだ女性たち、なんといっても色に長けたくの一たちにうまいと褒められた。だからきっとうまいはずだ。
 イルカはそれでもどうぞと言わずにぐずぐず言い出した。
「まだ、明るいし、おなかが、すいてます」
「じゃあ暗くなっておなかいっぱいになったらいいってことだね?」
 カカシはたたみかけるように問いかけた。なんだか恥ずかしいくらいの一所懸命な自分が新鮮でもある。座った目でイルカの返事を待つ。イルカはカカシの真剣さまるわかりのチャクラを感じとったのか、同じく生真面目な顔で、ぐっと頷いた。
「それなら、いいっす。俺だって男だし忍者です。段階ふんでだとかまどろっこしいことは言いませんよ」
 充分まどろっこしかったがカカシは起きあがるとあっという間の手際でテーブルに総菜を並べて酒も用意した。しかし酒はほどほどに。せっかくのイルカとの夜をきちんと覚えていたかったから。
「うまいっすねえ」
 と無邪気に笑うイルカはパンツ一丁のままであぐらをかいて食べている。その羞恥のなさに大丈夫かと思うが、カカシのほうはイルカの肌を舐めるように観察しながらぐつぐつと下腹の釜を煮えたぎらせていた。
 肌の触り心地が結構よかったのは覚えている。乳首の色はそんなに黒くない。あそこは慎ましやかな感じがした。
「アニキ?」
 ぎらぎらした眼差しで観察されたらさすがにイルカも居心地が悪いのだろう。さりげなく体をひねって背を向けようとする。いかんいかんとカカシは笑顔をとりつくろって味を感じる余裕もない総菜に箸をのばす。
 しかし、ふと思う。
 まさか恐怖とともに始まったイルカとの関係がこんなところに落ち着くことになるなどと、誰に想像できただろう。もちろん当事者であるカカシにもイルカにも想像できなかったことだ。
 ふふっと笑うと、イルカが首をかしげた。
「なんすかアニキ。にまにましてますぜ」
「いやあ、なんか、生きてるって面白いなあって思ってね」
 しみじみと口にした。イルカもいい笑顔を見せてくれた。
「そうっすね。やっぱ、生きててなんぼってことっすね」



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