■ザ☆中忍 4






 一週間後に中忍試験を控えて、時たまアカデミーやら本部の詰め所で見かけるイルカは忙しそうに立ち働いていた。
 カカシが姿をみせれば気を遣わせると思い、イルカを見かけた時は気配を消すようにしていた。痛めつけられた傷は癒えていることに安堵する。相変わらず横暴上忍への対応はしているようだが、イルカの存在がそれなりに浸透してきたようで、ここ最近大きなトラブルはなかった。
 先日の夜の乱闘騒ぎもあり、カカシもさりげなく危険そうな上忍には釘を刺した。実はもめ事は嫌いで本来は小心者なカカシだが、こんな時ある程度の実力を持っていることがものをいう。写輪眼だしビンゴブックにも載っている。この看板は結構有効に使えた。
 だからカカシにとってその知らせは寝耳に水と言えた。
「カカシよ。イルカが刺されたぞ」
 上忍待機所で茶をすすってアスマと紅と適当に話をしていたところにガイがやって来た。俺もまぜろと相変わらずの暑苦しい顔で、設置されたサーバーから紙コップに茶を淹れつつ、そういえばと、まるで天気の話でもするような口調でとんでもないことを言い出したのだ。
 カカシは思わず紙コップをぐしゃりと潰して残っていた茶を顔にひっかけた。
「ちょっとカカシ。わたしにもかかったじゃないのよ」
 紅の声が聞こえたがそんな場合ではない。カカシはガイに詰め寄った。
「イルカ先生が、刺されたあ?」
「おう。なにやら刃傷沙汰があったようでな。アカデミーの職員室が騒いでいたぞ。まったく、試験前に困ったことだな」
 ガイはあくまでも暢気にしている。カカシはかっとなりガイの胸ぐらを掴んだ。
「お前なにへらへらしてんの。イルカ先生は弟子なんだろ? 心配じゃないのかよ!」
 ガイは奇異ものでも見るような不思議そうな顔をしていた。
「お前が熱くなるとは珍しいな」
「そんなことはどうでもいいんだよ。それよりイルカ先生のことだよ」
「イルカならけろりとしていたぞ。早速見舞ってきたからな」
「へ?」
 胸ぐらを掴む手から力が抜ける。ガイはさっさとソファに座ってうまそうに茶をすする。
「馬鹿な上忍がイルカを待ち伏せてな、クナイで襲いかかってきたそうだ」
 聞けば、またあの中忍の女が関わっていた。カカシが最初に裏庭でイルカの制裁を見たときにボコにされた上忍。あの男が報復の機会をうかがっていたと言う。
 しかし遅れをとるようなイルカではなく逆に返り討ちにしたが、男が襲撃してきたのが生徒たちとアカデミー裏山で訓練をしている時だった。しかも低学年の子供達。他にも教員がいたが、逃げ遅れた生徒をかばってイルカは刺された。
「とは言っても足をかすった程度だからな。命の危険はない。ばか上忍はイルカの水遁で溺れかけて全身を殴打して重傷だが誰も同情はしていないな。早速火影さまの判断で上忍の地位を剥奪、里から追放だ。その前にイビキに引き渡されるらしいぞ」
 里の中での刃傷沙汰。しかも子供達を巻き込むような浅はかさ。もしかしたらその上忍はイビキの元で不幸な事故ということで片付けられるかもしれない。
 いい気味ね、と紅がカカシの気持ちを代弁した。
「あの男は本当に胸くそ悪い奴だったわ。あたしも知り合いの中忍の子に相談受けたことあるもの。見境ないったらありゃしなかったんだから。どんなに注意してもきかなくて、本当にどうにかしなくちゃってとこまできてたのよ。イルカ先生には申し訳ないけどこれで厄介ごとがなくなったわ」
 結果的には中忍選抜試験という重大な行事を控えて、問題を起こしそうな人物を排除できたということだ。
 しかしイルカだけがこれでは貧乏くじではないか。
 カカシは憤る気持ちを抱えて病室を訪れた。
「アニキ。どうしたんすか」
 イルカは慌ててリクライニング式のベッドに預けていた体を起こした。傍らのパイプ椅子に座っていた中忍女も立ち上がる。こいつが諸悪の根元か、となんとなく不穏な空気を醸し出してしまう。
 零れ落ちそうな大きな目が庇護欲をそそる風情だ。だが気弱そうな表情が作りこんだものに見えなくもないのはカカシが否定的な感情を持ってしまっているからなのか。
「どうしたってのはこっちの台詞です。刺されたんですってね」
「はあ、まあ。面目ないっす」
 イルカは今夜一晩入院で安静を命じられたという。病室も空いているとのことで、四人部屋にはイルカしかいなかった。
「ちょっとイルカ先生に話があるんで、席はずして貰っていい?」
 体面上は卒のない笑顔で、しかし心の奥には煮えたぎるものを抱えて女に告げる。女はイルカをちらりと見て、イルカが頷くと頭を下げて出て行った。なんとなく目元が赤かった気がする。しかし泣けばすむことではない。
「あいつのせいじゃないんですけど、泣かれちまいましてね」
 いやいや、あのこのせいでしょ、と言いたいのをなんとか堪える。イルカが猛然と否定するのは目に見えていたからだ。
 イルカがいちいちそんなことを言ってかばうのも勘に障る。考えるまでもなくあきらかに発端はあの女ではないか。パイプ椅子にどかりと座ったカカシは腕を組むとイルカに剣呑な眼差しを向けた。
「だから言ったでしょ。馬鹿な奴はこういう報復にでてくるんですよ。軽傷だったからよかったようなものの、運が悪ければ殺されていたかもしれないんですよ。クナイには毒が塗ってあったって聞きましたけど?」
 そうなのだ。さすがに馬鹿な上忍も猛毒を塗りこめるようなことはしなかったが、しびれ薬を塗っていたという。素早い処置のおかげでなにもなかったが、もしもということを考えると恐ろしい。
「ちょっとイルカ先生聞いてるんですか」
 どうしてかイルカはにこにこと笑っているではないか。カカシが目を尖らせるとイルカは更に笑みを深くした。
「アニキに心配かけて申し訳ないのはもちろんなんですが、でも、こんなに心配してもらえてやっぱ嬉しいっす。本当に、嬉しいっす」
 しみじみとイルカはかみしめるように口にした。
 いつもいつも他人の為に立ち働いているイルカのことは、つい誰もが大丈夫だと思ってしまうのかもしれない。実際にイルカは強いし、強面だから、人間なら誰でも持っている弱い部分があるだなんて、みな忘れてしまうのかもしれない。
「アニキのおかげでもう元気いっぱいです。ご心配おかけしました」
 にこにこ笑うイルカは確かに元気そうだ。なんとなく拍子抜けしたカカシはなにを慌てていたのだと、気恥ずかしさも手伝ってぼそりと呟いた。
「じゃあ、お大事に」
「お待ちくだせえアニキ」
 背筋を真っ直ぐにして、イルカは三白眼をぎんと尖らせた。
 久しぶりに見た視線はやはり迫力満点で、カカシもつい姿勢を正す。
「つきましては、今夜一晩付き添いをお願いしたいのですが」
「つきそい?」
 予想だにしない申し出にカカシは裏返った声を上げてしまう。
「今回のことでわかりやした。俺あ自分で思っている以上に上忍共の恨みをかっているようなんすよ。俺が動けないのをいいことにこれ幸いと病院でしかけてくる馬鹿がいるかもしれねえ。そんな時アニキがいれば病院に余計な面倒かけなくてすみますでしょう」
「いや、でも、ここはほら、忍用の病院だから基本的に警備とかちゃんとしているし……」
 イルカが微動だにせずに視線を据えてくるから声が先細りになってしまう。病院に迷惑をかけないようにという気持ちは殊勝だが、カカシへの迷惑はどうでもいいのだろうか。なんとなく面白くなくて、ぽろりと口にしていた。
「それは、俺だから、頼むの? 俺が特別で、アニキだから?」
「もちろんですよ! アニキだからです!」
 ためらいもなく言い切られて、返事を渋っていたカカシの気分は浮上する。イルカは深々と頭を下げた。
「ここはアニキを男と見込んで頼みます。どうぞ今夜一晩! お願いします!」
 腹からの声で気合いを入れて頼まれて、仕方ないなあとカカシは小さく呟く。照れくささから、決して喜んで受けるわけではないという気持ちをため息に乗せた。
「わかりました。今夜一晩、面倒見ますよ」簿  イルカの顔がぱあっと輝いた。
「では、よろしくお願いします」



 イルカの病室の外には念のために結界を張り、空いているベッドに横になった。
 夕飯を食べに外にでて戻ってくると、イルカは浅い寝息をたててすでに眠っていた。まだ眠るには早い時間だが、治療の際に睡眠作用のあるものでも使われたのだろう。
 穏やかな、寝顔。起きている時はくせのように寄せられている眉間のしわが今はなくて、どこかその顔は幼い。つきそいなど必要ないのかもしれないが、もしかしたらイルカも内心不安なのかもしれない。まあとにかく無事でよかったと思う。カカシも隣のベッドに入って枕元の灯りで愛読書を楽しんでいたが、そのうちに眠ってしまった。
 しかし熟睡はせずに、忍者の常として、なにか異変があった時にはすぐに飛び起きることができるくらいの緊張感はあった。だからイルカのベッドからうめき声が聞こえた時にはすぐに起きあがりしきりのカーテンを開けた。
「イルカ先生?」
 イルカは苦しそうに歯を食いしばって、うめき声を我慢しようと努力していたが我慢しきれずにうんうんと唸っていた。
「ちょっと、イルカ先生。苦しいの?」
 汗を滲ませる額に触れればそこは少しばかり熱を持っていた。案の定、熱がでたわけだが高熱ではなく、イルカは痛みを堪えるような顔をしていた。
「イルカ先生」
 そっと名を呼んでなんとなく眉間の皺をさすれば、イルカはぱかりと目を開けた。
「アニキぃ……」
 どきりと咄嗟に心臓が大きく跳ねた。
 潤んだ瞳。舌足らずな声。熱い息。妙に艶めいてみえるイルカに ごくんとカカシが喉を鳴らすと、イルカはむくりと起きあがった。
「痛いっす」
 ぎゅっと、口を引き結んでカカシのことを訴えかけるような目で見る。
「刺されたところが、マジすごく痛いっす。はっきり言ってやばいっす」
 うううううと呻いたあと、だばあとイルカは泣き出してしまった。カカシは慌ててイルカの足下に寄った。
「右足、だよね、どのあたり?」
「太ももの、膝の、上あたり、です」
 えっえっとイルカは子供のような泣き声をあげる。
 布団をめくって、パジャマを下ろす。右足の大腿部には包帯が巻かれている。刺されたとおぼしきあたりにそっと手を当てれば、どくんどくんと強く脈打ち、まるで溶鉱炉のように燃えているかのようだ。これは医者を呼んだほうがいいかと思案していると、イルカが小さな声で話しだした。
「医者が、今夜は痛いって、言ってました。だから、明日にはおさまります。でも、こんなに痛いなんて、俺、知らなかった……。アニキィ、痛いっすぅ……」
 顔を上げればカカシをうかがうイルカとばっちり目が合った。
「!」
 イルカのうるうるとすがりつくような小動物のようなつぶらな瞳がカカシにまっすぐ飛び込んできた。
 腹の下あたりがざわざわしたカカシはイルカのことをなぜか見ていられなくて不自然に視線を動かす。するとイルカのパンツに目がいってしまった。
 なんてことのない紺色のトランクス。
 だというのに。
 カカシの眠そうな目がまるで戦闘中のようにくわっと開いた。
 やばい。よくわからないがやばい。なにやらやばい。
 心臓が不整脈のように騒がしい。
「イイイ、イルカ先生。痛いなら我慢せずに、医者呼びましょう。うん、それがいいそうしましょう」
「いえ、それには、およびません」
「いやあ、でも、ね!」
 痛みを堪え脂汗をかきつつ、イルカはふっと苦い笑いを見せた。
「ちょいと、失礼させていただきます」
 するとイルカはおもむろに、己のトランクスの中にずぼりと右手を差し入れたではないか。
「はあっ!?」
 カカシは一気に向かい側のベッドまで後退する。なんだ? いったいなにが始まるんだ?
「イイイイイイイ、イルカ先生?」
「ちょいと気を紛らすのに、かかせていただきます。申し訳ないがアニキ、少しの間外に出ていただけますか?」
 なんてことを冷静な声で、ただ顔だけは赤くして言うのだ。かくって、絵でも描くのかなあとつい逃避しそうになったがぶるぶると首を振る。
 やばい予感は的中だ。
「イルカ先生、そんなことより、やっぱり医者を呼んだ方が……!」
 カカシの焦りをよそに、はあ、とイルカの口から悩ましくも熱い吐息が漏れる。始めちゃったよオイ! 強張った体をなんとか移動させて退散しようとしたカカシだが、ドアを開けようとしたところで「アニキ」と引き留められてしまった。
 イルカは手を止めて、カカシのことを見つめて、うるんと涙をこぼした。
「手が、うまく動かないッす。しびれて、痛くて……。俺、俺、どうしたらっ」
 だから医者を呼べと言っているだろうが! 
 と叫べばいいのに、カカシはふらふらとイルカのそばに寄っていた。
 まるで見えない何かに引き寄せられるように、ふらふらと。
 カカシならなんとかしてくれる。イルカの目がそう言っている。全面的に己のすべてをゆだねる信頼。そこまで頼られて悪い気はしない。でもそれとこれとは違うだろう、という思考とはうらはらに、カカシはイルカのベッドに乗り上がり、背中からイルカを抱えてしまっていた。
「俺が、やりますよ。やらりゃあいいんでしょうがコンチクショーめ。いいですか、非常事態だからですよ? こんな、男のこんなもの本当は触りたくないんですからね!」
 声を荒げるカカシと対照的にイルカは頬を濡らしたままこくりと頷く。
 ぴとりとカカシに身を寄せる。
 薄いパジャマから感じとれるイルカの体は熱い。覚悟を決めて、トランクスの中からイルカの手をどかし、己の震える手を入れた。イルカだと思わなければいい。なにか別の動物だと思えばいい。
 そっと握ってみると、自分のものよりサイズは小さいようだ。そのことにちょっとばかりの優越感を得て、安堵してやわやわと揉んでみる。
「ん……」
 イルカの鼻からの吐息に一瞬手が止まる。目を開けたイルカは、細めた目でカカシのことを見上げた。
 なんだかかわいい、かわいい生き物がいる、などとぼうとした意識が思う。
 もう思いきって手を動かした。イルカのそこをかわいがる。
「んんん!」
 ぎゅっと目を閉じて、体をねじったイルカはカカシにしがみつく。口を引き結ぼうとしつつも吐息が漏れ、頬を赤くしてふうふうと息をつく姿にカカシは喉がからからになる。
「イルカ先生、足たてて。そう、ゆっくりでいいから」
 なぜかそんなことを言っていた。イルカはもちろん素直に従う。もしかしたら痛みで意識が正常ではないのかもしれない。けれどそれはカカシも一緒だ。こんなのおかしいと思いつつ、思考も、行動も、止められなかった。
 右足に注意して、そろそろとトランクスを脱がす。感触だけではなく視界でも楽しみたかった。
 カカシの愛撫で中途半端に立ち上がったイルカのそこは、きれいな色をしていた。小振りなのがまたかわいらしい。
「かわいいね、イルカ先生」
 ちゅっとイルカのこめかみのあたりにキスをした。
 片手で擦って片手で揉みこむ。緩急をつけてやるとイルカのそこは完全に立ち上がった。
「あ、ん。アニキィ……!」
「気持ちいい?」
「う……ん。気持ち、いい」
 とろんとしたイルカの半開きの口にたまらずに吸い付いていた。ん、ん、と喉を鳴らすイルカの口を吸う。熱くてとろけそうだ。その間も手は止めずに動かせば、先端から水っぽい音をたてて溢れる液体。
「イキそう? イルカせんせ……」
「うん。……うん。気持ちいい。イキたい、アニキ」
「じゃあ、アニキじゃなくて、カカシって呼んで。そしたらイカせてあげる」
 今のイルカの舌足らずな甘い声で名を呼ばれたらそれだけでカカシもイケそうな気がした。実はさっきからカカシのそこもたちあがってイルカの尻のあたりをつんつんしている。
「ね、早く、呼んでよ」
「でも、アニキのことを、そんな……あっあっ、や、だ」
 素直でないイルカの根本を押さえて思い切り感じている裏側を擦ってやればそこはびくびくと震え、イルカはやだと首を振る。
「や、めて、意地悪しないでぇ、アニキィ……」
「だからアニキじゃなくて」
「カカシさんっ!」
 ぎゅっとしがみつかれ、泣かれた。そこが限界。どくんと跳ねて弾けさせるイルカ。カカシも情けないが同時にイってしまっていた。
「はあ、はあ……。ん、んん」
 必死で酸素をとろうと口を開けて呼吸するイルカの熱い息。時たま唇を舌で舐める姿がまた扇情的で、カカシはごくりと喉を鳴らすが、イルカが怪我人だということを思い出し、己を戒めて、ポーチから取り出したガーゼでイルカのそこを拭ってやった。
 イルカから離れがたくてしばらくそのままで抱きしめてイルカの頭部やら頬にキスしていると、そのうちにイルカから規則正しい寝息が聞こえてきた。
 結果よしと言うべきか、あっちのほうに気が向いて、確かにイルカは痛みを忘れたようだ。
 イルカが熟睡した頃に身支度を整えてやり、そっとベッドを抜け出す。己のそこも適当に拭ってから、隣のベッドに潜り込んだ
 嵐のような一時が過ぎると、どっと疲れが押し寄せる。頭もぼうっとする。
 いろいろと考えねばならないことがあるような気がするが、とにかく明日だと思い定めて、カカシも眠ってしまったのだった。



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