テレビっこ



 1.ポニーテールと髪結い紐



 笑顔がとても美しく優しい人間がいると思う。
 ずっと見ていたいとつい目を奪われて引きつけられる笑顔というものがある。
 年齢、性差、容姿に関係なくそういう笑顔がある。
 うみのイルカを好きになったのはあの笑顔に引かれたからだ。上忍師の要請を受け久しぶりに常駐することになった里で、イルカとはナルトたちの引き継ぎで知り合った。それから受付所で目にするようになり、ナルトたちの担任だった縁でイルカのほうから気さくに挨拶される程度の仲だった。
 だがある時ナルトたちの様子を訊かれ実は少しばかり適当に答えてしまったのだが、イルカは照れつつも心に染み入るようなとてもいい笑顔を見せてくれた。
 ああいい笑顔だなあと思った。それから自然とその姿を目で追うようになり、会えた時はとても嬉しく、会えなければ残念な気持ちがとても大きくなり、あの男のことが好きなのかと自覚した。
 それなら友人でもいいではないかと思いはしたが、出会ったときから存在している階級差というものが邪魔をする。イルカはカカシのことを当然だが上官としてみているしそれは事実だ。人間というのは意外と初対面での関係性がその先も大きく左右することが多々あるのだ。それではきっと深く付き合うことが出来ない。イルカのきちっとした性格上、今更上官を気の置けない友達としては見れないのではないだろうか。
 それならば階級も立場も乗り越えることが可能な恋人になるのがいつもイルカのそばにいられるのではないのだろうか。
 そう思ったカカシは行動に移すことにした。
 命をはった仕事をしていると何事にもためらうことはよしとしない。それに、なんとなくだが色よい返事をもらえるのではないかと調子よく思っていたところもある。
 そんなわけでとある日のアカデミーの放課後、職員室にいたイルカを呼び出して、なんとなくベタな感じではあるが校庭の隅で告白した。
 そしてあっさりふられた。



「無理です。お付き合いできません。カカシ先生のことは普通に好きですけど俺は誰とも付き合いません。テレビ見る暇なくなっちゃうんで」
「…………」
 なんというか、間、髪を入れずの回答だった。
 カカシが、好きですつきあ……くらい言ったあたりでの一気にまくしたてる明確なお返事だ。
 そしてぺこりと頭を下げるたイルカはカカシを置いてさっさとその場からいなくなった。
 固まるカカシの目に、紫色の髪結い紐に結われたイルカの揺れるポニーテールが残像のように刻みつけられた。
「ええと……」
 取り残された校庭の隅には春の乾いた風が吹く。なんとなく頭に手をやって目線を下に向けてしまう。
 ふられたということはよくわかったが、イルカの言葉が頭の中で反芻される。
 普通に好きとはどういう意味だろう。特別ではないということか?
 しかしそれ以上に気になることは、テレビを見る暇がないと言ったことだ。
 それは要するに結論としては、テレビを見たいから付き合えないということか……。
「テレビ……」
 体の奥底からこみあげてくるものがある。口元がどうにも緩んでしまう。
 今まで付き合ったことのある女たちとは告白されるか、なんとなくで付き合ってきたことばかりだった。考えてみれば今回が生まれて初めての告白。それがテレビが理由でふられるとは全く想像だにしなかった。
 イルカに対する興味が今以上に俄然わいてくる。付き合うとか付き合わないとかはとりあえずおいておいて、イルカのことがもっと知りたいと思った。



「イルカのテレビ好きは仲間うちじゃ有名なんですよ」
 と気さくに教えてくれたのは受付所でよく目にする中忍だった。
 イルカと同じようにアカデミーと受付を兼任しておりイルカとは仲がいい。
「あいつはテレビ見るために基本的に残業しませんし、飲み会もテレビのために欠席するのはよくありますね。仕方ない時は録画セットするみたいですけど、オンタイムで見るってのが基本スタイルなんですよ。あいつテレビ見てる時に電話とかあっても絶対にでません」
「結構徹底しているね〜」
「そうなんです。そこまで好きならってもうみんな認めてますよ。まあちゃんと仕事はしてますし飲み会だって参加するべき時には参加しますからね」
 そんなにテレビテレビでは友人もいなくなってしまうのではと思うがイルカの人柄と要所要所はおさえているからそんなことはない。
 中忍はどうしてそんなことを訊くのかといたって当然の疑問を口にしたが、何回か飲みに誘ったら断られたからだと言っておいた。しかしそれもまた事実だ。イルカを飲みに誘ったことがあるがことごとく忙しいと断られていた。
 そうかテレビを見るのに忙しかったのか、とまた感心してしまう。
 カカシは自宅にテレビがない。きっと外回りが多い忍はそんなものだと思う。だから火の国のテレビ局がいったいどんな番組を作っているのか全く知らない。とりあえず本屋でテレビ番組が載っている雑誌を買ってみた。
 現在木の葉には3つのチャンネルが視聴可能だ。大陸の全体的な大きなニュースやスポーツの大会やらをメインに映す国がバックアップしているチャンネルと、他はドラマや歌やバラエティーやらとなんでも放送するチャンネルだ。
 雑誌にはひとつき分の番組表以外に次回のあらすじやら出演者のインタビューなども載っている。カカシにとっては全く知らない火の国の芸能人とやらだがきっとイルカはそのほとんどを把握しているのだろう。
 あるていどの勉強をしたあと、カカシはアカデミーの食堂でポニーテールを見かけた。単独の任務帰りで時間はある。カカシはトレイを持っていそいそとイルカに近づいた。
「イルカ先生はどんなテレビ番組見てるんですか?」
 目の前に座れば、ランチのカツ定食を頬張ったままイルカが顔を上げた。告白した日以来だからさすがにイルカもびっくりしたのか少しばかり目を見開く。
 カカシは安心させるように笑顔をみせた。
「俺は基本的にテレビみないから、イルカ先生が夢中になるテレビってどんななのかなあってちょっと気になりましてね、雑誌とかみてみたんですよ。テレビって24時間やってるじゃないですか。昼間みたい番組は録画してるんですか?」
 テレビの話題にはやはりイルカは飛びついてきた。咀嚼したものを飲み込むといきいきと語り出す。
「さすがに昼間の番組までは手をだしません。夜も全部チェックしているわけじゃないんですよ。流し見の時が多いです。でもとにかく帰ったらすぐにテレビつけちゃいますね。休みの日も起きたらつけるかな。毎回番組改編期はドラマの一話目は必ず見ます。それで面白そうだったら見続けますけどあまり面白くなかったらそれ以降見ませんよ。歌番組は好きなアーティストの時は絶対見ます。バラエティは深夜番組が結構面白くて寝不足になることもよくあるんですよ。あと2時間ドラマとかドキュメンタリーも面白いんです」
 イルカはまぶしいくらいの笑顔でとうとうと話す。
 やっぱりいい笑顔だなあと改めて思う。ずっと見ていたい、幸せな気持ちにしてくれる笑顔だ。イルカは特別に容姿が整っているわけではないが清潔感があるし、鼻の傷さえチャーミングに見せる無敵の笑顔が本当にいい。
 カカシはつられるようににこにことなってイルカの話を聞いていたが、自分ばかりが喋っている事態にはっとなったのかイルカはいきなり衣を正した。
「あの、カカシ先生。この間はすみませんでした。せっかく、す、好きとか言っていただいたのにあんな去り方してしまって。でもあの日は帰ってからどうしても見たい番組があって、ものすごく急いでたんです。でもさすがに失礼だったなあって思います」
 頭を下げられてカカシはかすかに笑う。
「ああ、そうだったんですか〜。気にしないでくださいよ。俺は気にしてませんから」
 鷹揚に返せば、イルカはまじまじとカカシを見つめた。
「でも、自分で言っておいてなんですが、ものすっごく失礼な理由じゃないですか? テレビのために急いでたって、子供かっ、みたいな」
「いえいえ。子供でも大人でもそんなの関係ないと思いますよ〜」
 イルカは驚いたような顔になる。
「すごい。カカシ先生って心が広いというか変わってますねえ。普通は中忍ごときにふられただけでもムカつきそうなものなのに」
「そのことですけどイルカ先生、俺のこと普通に好きだって言ってましたよね」
「はぁ。言いましたね」
「でもってテレビを見る暇がなくなるから誰とも付き合わないと」
「そうです」
 こくこくと肯くイルカにカカシは笑いかけた。
「それだけの理由なら、俺のこともう一度考えてみてくれませんか」
「いえ、考える余地はありません。俺の中でお付き合いとテレビを秤にかけたら絶対的にテレビに傾きますから」
 すっぱりと即答されてカカシは吹き出した。
「いいな〜イルカ先生。はっきりしていてすごくいいですよ」
 カカシにとってはイルカの返答は面白いのだがイルカはそうではないようで、不審者を見るような目を向けてくる。
「あの〜これまた自分で言っておいてなんですが、俺かなり失礼なこと言ってますよ? なんでそこで笑うんですか」
「そうですか〜? だって面白いですよ。イルカ先生ってすっごいテレビっこなんですねえ」
「そうです。俺めちゃくちゃテレビっこです。外回りから里内勤務になった時なにが嬉しかったかっていったらこれでテレビを見れるってことですから。もちろん任務とあらば外にも行きますけどあんまりないですし、俺はテレビライフを満喫しています!」
「どうしてそんなにテレビが好きなんですか?」
 素朴な疑問をぶつければイルカは生真面目に首をひねって考える。
「ありきたりな感じではあるんですけど、ガキの頃に両親亡くしましたんで家で一人になったんですよ。それまで結構うるさかった家の中がしーんってなるのが嫌だったんですよねえ。そんな時テレビがあることですごく救われたんです。だからテレビは俺の恩人みたいなものでもあります」
 うむ、とイルカは満足げに肯く。
「そっかあ、恩人には勝てないかあ」
「カカシ先生ならテレビとかふざけたこと言わないでゆうこときいてくれる素敵な女性がいっくらでも現れますよ。俺のことは一時の気の迷いだったと思ってどっかに投げ捨てたほうがいいです。俺も一切他言しませんから」
 そう言ってイルカはカカシの大好きな笑顔を見せるのだ。
 この笑顔をいつもそばで見られたらそれだけで幸せなのになあとカカシは思う。
「俺、イルカ先生のテレビの邪魔しませんよ? テレビ見たいならもちろん俺は後回しでいいし」
「は? 何言ってるんですか?」
「別に俺はゆうこと聞いてくれる人がいいなんて思ってませんよ。男に告られてキモイとかでないなら是非もうちょっと考えて欲しいな〜」
「いや、キモイとかはないですよ。俺柔軟な思考の持ち主なんで。それにカカシ先生ぼんやりしてますけど実はかっこいいし」
「じゃあどうして駄目なんですか。好きな人いないなら試しでもいいでしょう?」
「カカシ先生ってほんと変わってますねえ」
 カカシにしてみればイルカのほうこそ充分変わっている部類に入ると思うのだがイルカは肩を竦めてトレイを持つと立ちあがった。
「もうこの話はこれで終わりにしてください。お疲れ様でした」
 イルカは礼儀正しく去っていった。
「手強いなあ」
 しかしカカシはめげてない。だが断られてすぐにしつこくすれば心証を悪くしてしまうだろう。とにかくイルカにとってはテレビが生活の上位にあるのだからこの先他の人間と付き合うことはほぼないと言っていいだろう。それなら気長にいけばいいとカカシは思うのだった。



 しかしいきなりの展開が待っていた。
 カカシとイルカの関係は怒濤の勢いで進み始める。
 久しぶりの外回りの任務に出たイルカだったが、イルカを含むフォーマンセル全員が負傷して里に戻ってきた。決して油断していたわけではなく敵側の一枚上手の強襲を受けつつもなんとか任務は完遂させての帰還だった。
 全員が全治2週間から1ヶ月ほどの入院を言い渡された。イルカは2週間と仲間うちでは一番軽傷ではあるのだが、カカシが見舞いに訪れるとしょんぼりと項垂れていた。
 トレードマークのポニーテールの髪結い紐をほどき、下ろした髪のままでイルカは寂しそうな顔をしていた。
「どうしたんですかイルカ先生。たった2週間ですよ?」
 見舞いの果物の籠を差しだしたがおざなりな礼を返してイルカはうち沈んだままだ。
 なんとなくカカシはぴんと閃いた。
「もしかして、テレビですか?」
 イルカは顔を上げた。そして寂しく笑ってこっくりと肯いた。
「病院って、消灯時間9時なんですよ。俺が見たい番組はほとんど9時以降なんです」
 木の葉病院にはテレビ部屋があるから決められた時間であれば申請してテレビ用のカードを購入し自由に見ることはできる。だが消灯後に抜け出してテレビを見るなんてもちろん許されない。テレビつきの個室であっても患者の健康のことが考慮されて11時には電源が落ちることになっている。
「任務中の分はちゃんとセットしてあります。本当は昨日も見たいのあったんですけど諦めました。でも今日はどうしても見たい特番があるんです。懐かしのヒーロー戦隊モノ4時間スペシャルなんですよ。これは絶対録画しながら見ようってひと月も前から決めてたのに〜」
 イルカは布団の上に突っ伏して嘆く。
「あの、録画くらい俺がセットしましょうか?」
 カカシの提案にイルカは涙目で睨んできた。
「そんなのとっくに友達に頼んでます。そうじゃなくて、オンタイムで見たかったんです! 7時から11時なんですよ。たとえ9時までは見れても9時になったらテレビ部屋から追い出されて俺はベッドの上で続きを考えて涙にくれるしかないんです! あとこういう番組は途中で何回かキーワードだしたりクイズいれたりしてプレゼントの応募とかあるんですよ!」
 うわ〜とイルカは嘆く。カカシはオンタイムというこだわりにはオプション的な意味合いもあったのかと、ひとつ勉強になった。嘆くイルカに呆れるよりは感心する。テレビ番組ひとつでここまで一喜一憂する人がいることを火の国のテレビ局が知ったらさぞ感動することだろう。
 カーテンを引いてはいるが大部屋であることも気にせず悲嘆に暮れるイルカにカカシは別のことを提案した。
「じゃあイルカ先生。俺がなんとかしてあげますよ」
「へ?」
 しょぼくれたイルカの頭にぽんと手を置く。
「笑って笑って。泣いてたら幸せやってきませんよ〜」



 カカシは自分の使えるコネを駆使することにした。
 今晩だけイルカを外出させてほしいとストレートに交渉した。交渉相手はもちろん病院の責任者である医院長だ。暗部あがりの馴染みの先輩は入院2日目のイルカに外出許可などだせないと最初は突っぱねた。
 だがカカシがとっておきの秘蔵の酒での買収と過去のネタでにこやかに脅しをかければ医院長は意外とあっさりと陥落した。
 解毒は終わっておりカカシがついているということと夜間の4時間のみということ、そしてイルカのどうしても外出したい理由があまりに哀れで同情めいた気持ちも沸いたようだ。
「イルカ先生〜外出許可とりましたよ〜」
 イルカのいる大部屋をでたからわずか1時間。戻ってきたカカシの手にある外出許可証を目にしたイルカは驚きに目を見開いた。
「カカシ先生……。一体なにしたんですか? 俺がどんなに頼んでもおりなかった許可証が」
「ん〜? まあそれはほら、蛇の道は蛇といいますか、ね」
 イルカは震える手でもった許可証を食い入るように見て、そっと上目遣いでカカシを伺う。
 なんとなく小動物みたいな雰囲気のイルカがかわいいなあとカカシの心は温かくなった。
「あの、ご迷惑おかけしてしまいますが、いいんですか?」
「だってそれが外出条件ですから。むしろ俺はイルカ先生のおたくに行けるしそばにいられるしで大歓迎ですよ」
 自然体で告げれば、イルカの顔がほころぶ。柔らかく笑ってくれたイルカがカカシにとってなによりの褒美だった。
 イルカの八畳ほどの畳の部屋には42インチの、部屋の割には比較的大きなテレビがあった。
 テレビを見始めたイルカは傍らにいるカカシのことは一切眼中にいれず生き生きとさまざまな表情を見せた。その姿が実に楽しそうでカカシは始終にこやかにその姿を見つめていた。
 番組を堪能して病院に戻る道すがらイルカは興奮していかに楽しい時間を過ごせたかを語った。まくしたてるような話に時たま話を止めるのだがまたすぐに我慢できないとばかりに話ていた。
「じゃあイルカ先生。またお見舞いに来ます。他にもどうしてもオンタイムで見たい番組あったらあと1回くらいなんとかなるかもしれないから言ってください」
「カカシ先生」
 夜間緊急用に開いている病院の玄関から去ろうとしたカカシをイルカは呼び止めた。振りかえればイルカは神妙な顔をしていた。そして深々と頭を下げる。
「本当にありがとうございました。元気になったら一杯ごちそうさせてください」
「そうですか? じゃあ楽しみにしてますね」
 手を振って歩き出す。病院の門を曲がるところでなんとなく振り返ってみれば、イルカはまだそこに佇んでいた。カカシはもう一度手を上げる。イルカも笑って手を振り返した。
 夜目にもとても鮮やかな素敵な笑顔だった。





 それから任務がたてこんで見舞いに来れたのはちょうど退院の日だった。
 聞けば回復も順調で予定より早めの退院になったという。
 普段のごとくきりっと髪を結い上げたイルカだが、なぜか髪結い紐ではなくて、女性が使っている柔らかなくしゅくしゅな素材の水玉模様のものをつけていた。
 カカシの視線を感じてか、イルカが照れたように笑う。
「これ、シュシュっていうんですよ。実は入院中に彼女ができて、そのこから貰ったんです」
「うそっ!?」
 さらりと告げらてくれたがカカシは驚きに飛び上がりそうになる。
「え、だってイルカ先生テレビ見れないから彼女作らないって」
 慌ててまくしたてるカカシを制して、イルカは病室のほうを見上げた。窓から顔をだしている小さな顔。ナルトたちとそう年の変わらない子供が手を振っている。
「イルカせんせ〜。似合ってるよ〜」
「おう! ありがとな〜。見舞いにいくからな〜」
 イルカも大きく手を振り返せば女の子は嬉しそうに笑って満足げに肯いて窓から顔を引っ込めた。
「あのこ、もう半年も入院しているんですよ。でもやっと火の国のほうで手術の日程も決まったんです。最初は全然笑ってくれなかったんですけど、よかったなあ……」
 それはきっとイルカの笑顔に感化されたからではないかとカカシはひそかに思う。イルカは小さな彼女から貰ったシュシュをつけて意気揚々と退院だ。
「よかったですね。これでまたテレビを好きなだけ見ることができますよ」
 カカシはイルカの荷物を持った。イルカは遠慮したが少し強引に歩き出す。
「俺もねえ、テレビ買ってみました。結構面白い番組とか、ためになる番組もありますよね〜。思い切って最新式のもの買ったからな〜んと10局もチャンネルあるんですよ〜。よかったら今度見に来てくださいよ。そうだ、テレビのこと教えてください」
「カカシ先生」
 イルカがあまり喋らないからカカシが率先してテレビの話題をふった。そんなカカシを遮るようにイルカの声がかかる。そして足を止めるとカカシをぴたりと見据えた。
「どうしたんですか?」
「お付き合いお試しの件ですが、まだ有効ですか?」
 ずばりとイルカは言った。カカシは内心心臓を跳ねさせながら平静を装ってこくりと肯く。
「もちろんです」
「じゃあ、お互いお試しということでお付き合いしませんか? カカシ先生も俺のこと試したほうがいいです。それでお互いよしと思ったら正式にお付き合いしましょう。いかがでしょうか?」
 生真面目にイルカは提案してきた。カカシとしては特にイルカを試すようなことはないのだが、ここは素直に肯いた。
「わかりました。じゃあそういうことで、よろしくお願いします」
 手甲をとって右手を差し出せば、イルカも手を拭ってからぎゅっと強く握りかえしてきた。
「俺、本当にテレビっこですからね」
 それはとうに知っているが改めて笑顔で言われて、カカシも笑った。








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