少年上忍中年中忍 第二部 P





「カカシさん。なんで最近へんな行動にでないんですか? なんで大人しくしているんですか?」
 イルカに寄り添っていたカカシが、体を起こす。ちらりと目線だけをイルカに向けたが何も言わない。イルカはたまらず言葉を続けた。
「おかしいですよ。今までのカカシさんからは考えられないです。俺がカカシさんとしたいって気持ちにならないって言ってからですよね。絶対カカシさんのことだから変な道具とか薬とか用意して実力行使にでるところじゃないですか。なのになんか調子狂うっていうか。とにかくおかしい。一体なにたくらんでいるんですか」
 ぜえぜえと肩で息をつく。
 イルカが言い終わるとカカシは無言で立ちあがる。そのままクローゼットを開けると、段ボールを持ってきた。それをイルカの前に置いて、イルカとカカシは段ボールをはさんで向かい合う。
「なんですか?」
 カカシは封はされていない段ボールの蓋を開けた。のぞきこんだ中には、実際には見たこともなかった目もくらむようなあやしげなグッズがぎっしりと入っているではないか。心の自主規制でモザイクまで入るほどだ。
 だがそれを目にした途端、なぜかイルカは安心して強ばっていた力が抜けた。息を吐き出すと共に自然と口元に笑みが浮かんだ。
 やはりカカシはこうでなくてはいけないと思っているあたり我ながらどうかと思うが、仕方ない。突飛なカカシに慣らされすぎたのだ。
「やっぱり、用意してたんですね。ああよかった。やっぱりカカシさんだ」
「よかった?」
 イルカの不用意な言葉にカカシが反応する。イルカを見つめる目は若干細められ剣呑だった。
「よかったってことは使って欲しいってこと……?」
 低い声で問われイルカは慌てて大きく手を振る。
「違う違う! 絶対だめです! 使うの反対!」
「じゃあなにがよかったんですか」
 カカシはたたみかけてくる。
「だって、ほら、こういうの用意してせまってくるのが俺の知っている今までのカカシさんなんですよ。だから安心したんです。それだけです。でも使うのは断固反対」
 あはは、とイルカは暢気に笑うが、カカシはふうと大人びたため息を落とした。
「本当は、使おうと思いましたよ。次の日暗部の仲間に連絡つけてすっごいの用意してもらって、夜になってイルカさんのアパート前まで行ったんです」
 さらりと言われてイルカは「うそっ」とのけぞる。次の日はイルカなりにカカシの強襲を予測して部屋の中で身構えていたが、外にカカシが来た気配など全く、これっぽっちも気づけなかった。
 さすが上忍と感心するやら己の未熟さに呆れるやらでイルカは口元がひきつる。
「暗部の特別の道具とか薬だからイルカさんイチコロになるのはわかってたんです。でもねえ、俺なりに考えたんですよ。そんなの使ってイルカさんとしてもそれは違うだろうって。薬のせいでイルカさんがしたいって言って俺にせまってくれても、それはイルカさんの本当の気持ちじゃないでしょう」
 薬を使われカカシに迫る己など想像するだに恐ろしい。イルカはぶるりと体を震わせた。危ない危ない。もしカカシが思いとどまらなければ大変なことになっていた。
 だからイルカは声を大にして主張した。
「そうですよ。そんなもの使っちゃあ駄目です。カカシさん、大人になったんですね」
 アカデミーの生徒を褒めるような気持ちで笑いかければ、カカシは苦笑した。
「成長期ですからね。日々悩みつつ成長してるんです」
「はあ。そうですよね。俺なんか停滞期って感じですからね」
 結構長い時間を一緒にいるはずだが、カカシの内面外面の少しずつの変化にあまり気づかずにいた。いや、近くにいすぎて気づかないのだろうか。それともイルカの感性が鈍くて気づかずにいるだけなのか。
 まあ己が鈍いことは今に始まったことではないかとイルカは自嘲気味に笑った。
 とにかく最近の疑問が解けて安心した。爽快な気持ちで帰宅するかと立ち上がりかけたイルカだが、カカシがすすすっと再びイルカの傍らに腰を下ろした。
 イルカの二の腕をぐっと掴む。
「カカシさん?」
 声をかければカカシが柔らかく笑う。
「マラソンだって思いだしました。俺とイルカさんは付き合っているんですもんね。あせりません。じっくりいきます」
 カカシの言葉にイルカは大きく頷いた。
「それはいいことです。恋愛っていうのはステップアップしていくのが大事だって俺思いますよ。最近の若い奴は出会った日にはやるみたいな奴らもいるじゃないですか。そういうのはいかんです」
 イルカの暑苦しい主張にカカシはひっそりと微笑んだまま頷く。その表情が今までと違って妙に大人びて見えた。
「今までも好きだって言ってきましたけど、もっともっと言葉にしようって思います。とにかく言葉にしようって、何百回でも好きだって言おうって決めました」
 声も、なんとなくだが以前より低いような気さえしてくる。変声期はとうに終わっているだろうに。
「イルカさん?」
「そ、そうか。それで最近挨拶代わりに好きだーって感じだったんですね」
「うん。好きだって言うたびに俺も幸せな気持ちになります」
 かすかに頬が染まるカカシにイルカはどぎまぎしてしまう。気恥ずかしさを隠すためになんとなくイルカの手は伸びてカカシの頭を撫でた。
「俺も、ちょっと恥ずかしいけど、嫌な気分でなはいですよ」
「そっか。よかった」
 くすぐったそうに笑ったカカシはさりげなくもう片方の腕をのばしてきてイルカのもう一方の二の腕も掴んでソファの上で向かい合う形となった。
「焦らないって決めました。でもね、やっぱりたまには触れたくなるんです。しばらく、会えなくなっちゃうし……」
 え、と思う間にカカシの顔が近づく。暗くなる視界。イルカはキスされていた。
 一度かるく触れて、離れて、すぐにまた触れる唇。目を閉じるのも忘れて焦点が合わないほど近くにいるカカシを凝視する。ぼうっとしていれば口の中にぬるりと入り込む舌。そこで慌ててカカシを突き飛ばそうとするが、がっちりと抑えられてそれもかなわない。必死で顔をそらそうとするがカカシはたくみに顔の角度を変えてイルカの唇を逃さない。イルカは息を継ぐこともままならずそのうちに酸欠のようになりぐったりしてしまった。
 力が抜けたところでソファの上に横たわることになる。見上げるカカシは上気した顔でうっとりとイルカのことを見下ろしていた。
「好き。なんか、めちゃくちゃ好き。頭おかしくなりそうなくらい、好き」
 イルカの頭には一気に血が登る。恥ずかしさに心臓がばくばくと音をたてる。
 カカシにはさんざんに好きだと言われてきた。だがここ最近、真摯に、体中に染み渡るように囁かれ続けたことでイルカの中にはカカシの気持ちが降り積もっていたようだ。カカシのことを直視しているのも恥ずかしく、つい顔を逸らしてしまう。
「イルカさん。こっち向いて」
 そう甘くねだられても見れたものじゃない。
「ねえ、イルカさん」
 耳の近くでカカシが囁く。そのまま耳に唇が触れ、ぞろりと舐められてぞくぞくとイルカは体を震わせた。
「ちょっ、やめてください、よ……!」
 さすがに体を縮こまらせるが力をこめてカカシを押すこともできない。
 カカシはイルカの耳たぶをはむはむと唇で噛んだり舌でつついたりする。カカシは楽しんでいるようだがイルカはそれどころではない。「あ……っ」と弱々しい声があがってしまった。
 カカシは一旦耳から口を離すと、横を向いたままのイルカの顔をのぞき込んできた。楽しそうに、猫のように目を細めている。
「顔真っ赤だよ。気持ちいい? 今すごくかわいい声でた」
「かわ、かわ、かわ……」
 言葉が続かない。
 ぱくぱくと金魚のように開閉する口にカカシが音をたててキスをする。いちいち固まってしまうイルカをおいてカカシはイルカの首筋に顔を埋めてきつく吸い付いてくる。
「い、いてっ! 痛い!」
 イルカの抗議の声などものともせずにカカシは今度は噛みついてくる。噛んだり吸われたりで翻弄されているうちに今度は下肢に伸びてくる手。
「あれ」
 と言うカカシの声にイルカも悟る。
 ゆるくではあるが、勃ってしまっていた。
「イルカさん。ねえ、勃つってことは感じてるんでしょ? それって俺としたいってことでしょ?」
 艶めいた低い声が脳に直接響き背筋から震えがくる。もっとカカシが必死で、なりふりかまわない感じでいてくれたならイルカはこんなに動揺しないのに。
「そ、そう単純なことじゃなくて! したいしたくないに関係なく勃っちまうのが男の生理ってやつなんですよ!」
 カカシの若干乙女な思考はなんとか否定する。男の体は気持ちをおいて突っ走ってしまうことが多々あるのだ。
 だがカカシはイルカの叫びなど意に介したふうはなくためらうことなく直接イルカの性器に触れて、イルカの耳の奥に熱い吐息を落とした。やわやわと揉みこまれてそこはどんどん力を得る。
「ん……、固くなってきたよ、イルカさん。熱い」
 カカシの方がよほど気持ちよさそうな顔をして甘い息を吐き出す。下肢への直接の刺激よりもカカシの表情や熱の方にイルカは感じ入ってしまう。
「ね、イルカさん」
 顔中にキスをしながらカカシは熱い息をイルカの耳に吹き込んだ。
「舐めたい……飲みたい……。いいでしょ? お願い……ねぇ……」
 ぞくぞくっと止めようがない波がうねりのようにイルカの体を駆け抜ける。
「え……。あ、あ、あ! んんんー!」
 ぐんと性器が力を増すのがわかった。そこを刷り上げられて、イルカは先端から勢いよく吹き出させていた。
「あ、はあ、は……」
 口を大きく開けて胸を上下させて息をつぐことしかできない。
「いっちゃったね、イルカさん」
 いちいち言わずもがなのことを言われてイルカは立つ瀬がない。しかもカカシの声は喜びに満ちている。勃起したあそこをすられたらそうなるのは当然だと開き直るには、快楽が深かった。どうしようもない衝動を晴らすためだとは言い難い、それ以上の欲があった。
 早くどいてくれないかと気怠い体で思っていたイルカの前に下肢から引き抜いた手をカカシが見せつける。そこは今だしたばかりのもので白く汚れていた。イルカは眉間に皺を寄せる。そんなもの見ていられない。さっさと拭き取ってしまおうと手をのばすが、それより先に、カカシはイルカに見せつけるようにべろりとそれを舐め取った。イルカは目を逸らせずにじっと見つめてしまう。カカシの舌の動きになぜか体が熱くなる。
 赤い、舌。淫らな舌。
 あの舌で舐められたら、きっと……。
「!」
 うわーとなる。なんてこと、なんてことを考えてしまったのだ。
 舐められたら、舐められたならきっと、気持ちいいことだろうと。舐めて、欲しい、と……。
「駄目だ駄目だー!」
 叫んで、イルカは顔を突っ伏す。
「イルカさん?」
 さすがに驚いたのかカカシが体をのけて身を離す。
「イルカさん、どうしたの?」
 肩に手をかけられただけでびくりと体が反応する。耐えられんと判断したイルカは衣服を整える間もあらばこそ、カカシを突き飛ばして家を飛び出した。






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