少年上忍中年中忍 第二部 L





「カカシさん、いい加減にしてください」
 家に着いた途端、開口一番イルカはカカシを叱りつけた。
 カカシは神妙に正座しているが、ちらりとイルカを見て、すぐにまた目を伏せる。
「なんですか。なにか文句でも?」
 むかっ腹がたっているイルカが剣呑な声で問いつめると、カカシはゆっくりと顔を上げた。
「俺、イルカさんに怒られるようなことしてません」
 カカシはきっぱりと言い切った。イルカは呆れかえって首をふる。
「魚屋で、無駄にチャクラ放出したでしょう」
「それはイルカさんが悪いんです」
 カカシは思いがけない反論をしてきた。
「俺のなにが悪いっていうんですか」
「俺のこと恋人だってちゃんと言ってくれないからっ」
 そのことか、とイルカはがくりと力が抜ける。カカシは、一歩も引くものかという様子でイルカのことを強い目で見つめ返している。やれやれだ。正直、子供は面倒だと思うのはこんな時だ。子供だから許される真っ直ぐな心情は大人にとっては傲慢としか思えない時がある。子供であることの特権を無意識に、無邪気に行使している。ただ突き進んではいけない大人の事情を忖度しようとしない。逆に大人の傲慢だと責め立てる。大人はわかってくれないという。しかしイルカの心情としては、子供はわかってくれない、だ。
「カカシさん。俺言いましたよね。大人には世間体があるって」
「わかるよ、それくらい。でもそれのなにが俺が恋人だってことを隠すことに関係してくるの」
 カカシは、興奮している。だからイルカはゆっくりと話して聞かせた。
「忍者なら、まだわかってくれると思いますよ。でも、一般の里の人たちは、俺が20も下の子供と付き合っているなんてことを知ったら、どう思うか少しは想像してみてください。しかも俺は教師です」
「子供じゃないよ! 俺は、上忍師で、俺だってナルトたちの先生だ」
「そうですね。カカシさんだって教師です。それならなおさら、わかるでしょう」
 子供じゃないと言うのなら、と言外にその気持ちを込めた。イルカの会話のずるさをさすがにカカシは気づいたようだ。ぐっと詰まって、右に左に視線を動かして、無言で立ちあがった。
 きっとこのまま今日は自宅に戻るのだろうと思いきや、カカシは台所でごそごそとしだす。
「カカシさん?」
「残っているもので、適当に作ります。イルカさんは休んでいてください」
 カカシは必死に感情をおさえているようだ。作るというなら無理に止める理由もなく、イルカは居間でごろりと横になる。無言の空気が重くて、特に見たい番組はないがテレビのスイッチを入れた。
 きっとカカシの中ではいろいろなことが渦巻いていることだろう。
 教師だとか子供だとか世間体だとか。そんなことどうでもいい、互いが好き合っていれば他人の目なんて気にする必要ない、と。
 イルカとて、そう思う気持ちはあるのだ。人の目を気にして生きたって、それでなんだというのだ。人生は一回きりだ。誰かに迷惑をかけなければ、究極のところ自分がしたいようにすればいいのだ。他人の目を気にしても何も始まらない。
 けれど、心のままにそうするには、生きてきた年数が邪魔をする。よくも悪くもまといついたしがらみが、縛り付けてくる。
 仕方ないではないか。アカデミーの同僚や忍者の仲間たちとは違って、普通に考えればカカシとの関係は公言できるものではない。その辺りのことをカカシはわかっていない。
 イルカは、好きだ嫌いだだけで生きていけるような年ではないのだ。周囲とのバランスをとって、社会生活を営まなければならないのだ。
 せめて、せめてカカシがあと5年、いや、3年でも年をとっていれば、と思うのだが。
 ついついため息がでてしまう。カカシに聞こえるだろうが、そこまで気遣えるほどの心の余裕はイルカにもなかった。
 その日の夕食時はまるでお通夜のようだった。買い物もできずに家にあった残り物で炒め物を作ってごはんにみそ汁という食卓になった。
 カカシはだんまりを決め込み、イルカが気を遣って話しかけても、頷くくらいで言葉を返してこない。これでは会話になるわけがない。仕方なくイルカはテレビと向き合って食事を終えた。きっとカカシはとっとと帰ると思ったが、風呂の準備を始めるではないか。カカシの気持ちがわからずに、勝手にしろとイルカもむきになった。
 カカシが先に風呂を使ったあとでイルカも風呂に入り、あがって自棄気味にビールを続けざま2本飲んで部屋に戻ればすでに布団が敷かれ、カカシは休んでいた。
 今夜は風もなく、少しばかり蒸し暑い。
 風呂上がりと腹がたっていることでついついエアコンのスイッチを入れてしまう。涼しさにほっと息をつきつつ、ちらりとカカシをうかがう。
 カカシが怒っているのはわかる。恋人と見られなかったことに憤り、イルカが堂々と訂正しないことに怒っている。
 イルカは年の割には精神が子供だと己で自覚もあるし周囲も認めるところだから、カカシと話していても普段は年の差をそんなには感じないが、こんな時に深い溝を意識する。
 適当に髪を拭ったイルカは、ため息が落ちそうになるのを堪えてベッドに倒れ込んだ。



 夢の中をたゆたっていた。内容はよく覚えていないが熱くて、苦しくて、けれどとても気分のいい夢だった。浮き立つような落ちるような気分のままゆるやかに覚醒すれば、イルカの下肢にカカシいた。
 その一瞬の映像は、記憶したくなくても、イルカの脳裏に焼き付いた。
 パジャマと下着を膝あたりまでずり下げられ、押さえつけるように足の上にカカシが乗っている。体を丸めて、完全に立ちあがったイルカ自身を小さな口をせいいっぱい開けてくわえていたのだ。
 わけがわからないながらも、イルカはごくりと喉を鳴らして起きあがる。気配に気づいたのか、カカシは顔をあげて一旦イルカのそこを口からだした。
 に、と口をつり上げたカカシ。濡れた唇。闇の中で光る色違いの目。
 ぼうとした思考で、夢、かなと思う。だってあまりに現実感がない。こんな夜中に、どうしてカカシがイルカのペニスをくわえているのだろう。だってカカシは子供で、子供はこんなことしてはいけないはずだ。
「カカ、シ……?」
 かすれた声で名を呼べば、カカシは嬉しそうに笑う。そして今度は根本を押さえて、下から上へと見せつけるようにれろりと舐める。イルカのことをじっと見つめたまま。ざらりとした感触が快楽をあおる。
「ぁ……」
 漏れてしまった声。慌てて片方の手で口を押さえる。もう片方の手で体を支えるが、がくがくして力が入らない。カカシは何回も舌で嘗め回したあと、またくわえてしまった。闇の中で、じゅ、じゅ、と音をさせてカカシの口の中でイルカの分身は暴れる。気持ちがいいとびくびくと震える。
「や、めろ。だめだっ、カカシ。こんなこと、しちゃ、だめ、だ」
 必死で言葉を紡いだが、力無く頼りない。沸き上がる強烈な快楽に思考能力が拡散する。
 カカシは上目遣いにちらりとイルカの方を見たが、無言のまま、必死になって口を動かす。その姿が苦しそうでいて嬉しそうなのが背徳感を増長させる。好物のものを口にしているように、カカシはうっとりとしているのだ。
 はあはあと、イルカの息はどうしようもなく乱れる。片方の手ではおさえることかなわず両手で口を塞ぎベッドに倒れ込む。ぎゅっと目をつむれば、それは逆効果でカカシの口の中の熱さをダイレクトに感じてしまう。
「はっ……ああっ」
 きゅうと吸い付かれて、とうとうイルカは射精した。それでもカカシの口は離れない。それどころか、カカシの喉から嚥下する音がする。
 飲んだのか、と思うとたまらずイルカは息が整わないままにもう一度からだを起こした。
 カカシはイルカの濡れたペニスを丹念に舐め取っていた。かあっとイルカの頬が熱くなる。頭ががんがんとする。
 イルカのそこから顔を上げたカカシと目が合った。
 カカシは陶然としたまま、口の端からは飲みきれなかった白い筋が落ちる。
 己が放ったものを目にして、イルカは羞恥と怒りで頭が沸騰しそうになる。なにか言いたくてもわななく口からはちゃんとした言葉がでない。
 何度かからからの喉で唾液を飲み込んで、やっとイルカは泣き声のようなかすれた声をだした。
「な、んでっ! なんで、こんな、こと……。ふざけるな! ふざけるなよっ!」
「ふざけてないよ」
 興奮するイルカとは違って、カカシの声は冷静だった。
 口もとを拭って、イルカに顔を近づける。細められた目は鋭く、イルカを縫い止める。
「俺、あなたの恋人だから。生徒でも子供でもないよ。勘違いしないで」
 赤い顔をしたカカシは、パジャマの裾をするりとあげる。下肢はすでに脱ぎ去っていた。危うい姿のカカシの中心は天を向き、先端は泣いていた。
 イルカは咄嗟に目をそらしてしまう。
 カカシは片方の腕をイルカの首に巻きつけて、残りの手はイルカの手を掴む。導かれた先はカカシの中心。熱くて固い感触にびくりと手を引いたが、カカシはそれを許さず、イルカの手ごと、己自身を握りこんだ。
「貸して、イルカさんの、手」
 耳元に熱い息を吹きかけられてイルカの体から力が抜ける。
「ん……んんっ」
 イルカの手を使って、カカシは己を高める。振りほどきたいのに、カカシのイルカよりも小さな手はたいした力をいれているとも思えないのにイルカをそこにとどめる。
 熱い息と共にうわごとのように名を呼ばれ、耳を嬲られ、首筋に吸い付かれる。放出したばかりだというのに、イルカは下肢にまた熱が溜まっていくのを感じた。無論、それをカカシが見逃すはずがなく、くすりと小さく笑った。
「ね、イルカさんも、もっかい、いこ?」
 カカシは、イルカのものも一緒に握りこむと、ぐちゃぐちゃに、痛いくらいに刺激しだす。
「っカカ、シ……。やめ……」
 制止の声は弱々しくて説得力はなかった。一度だしたばかりだというのに、イルカはカカシの手の中で大きく震えて再びの高まりに熱く熱くなる。
「気持ち、い? イルカ、さん」
 カカシの大人びた低い声がイルカの耳の奥底に落ちた時が我慢の限界だった。
「っ!!」
 イルカは体を弛緩させた。ぶるりと震えてくずおれそうになるが、カカシが抱きついてきた。抱きつき、首の後ろに歯をたてた。
 おってカカシも放出する。
 はあはあと全力疾走のあとのような二人分の息が部屋を満たした。
 カカシはぎゅうとイルカに抱きついたまま、噛んでしまったところを舌で舐め取る。動物が傷を癒すように、丁寧に、執拗に。
 続けざまの高ぶりに意識を乱されていたイルカだが、かすみがかっていた視界が徐々に輪郭を取り戻すにつれ、イルカの中で今の状況が鮮明に認識される。手の中にあるカカシと己の中心。濡れて重い。その重さがそのまま心にのしかかる。
 イルカは重い腕を動かし、カカシのことを押しのけた。
 そのまま力無くベッドに倒れて、無言のまま背を向ける。濡れたところが不快で、タオルケットで適当に拭う。両手を頭の後ろで組んで目をつむる。
 なにか言わなければと思うのだが、口を開けば意味をなさない罵倒の言葉しかでてこない気がして、ただ、唇を噛んだ。


 カカシは、何も言わずに部屋を出て行った。






K。。。M