れぷりかんと   17    







 イルカのことをカカシは自宅に連れてきた。
 手をつないで急ぐ道すがら、心ここにあらずな状態だった。自宅に帰り着き、落ち着けと己に命じて薬缶を火にかけたところでやっと冷静な気持ちが戻ってきた。
 イルカが一歩を踏み出す決意をしてくれたことは嬉しい。だが、イルカのことを丸め込んでしまったのではないかという懸念がある。そう考えたらひどく落ち着いた。
 紅茶を用意すると狭い部屋の中、ベッドの上にぼんやりと座ったイルカにカップを差しだした。
「イルカ先生。俺、さっきはどうかしてました。もう大丈夫ですよ」
 イルカの隣に座って切り出せば、イルカは顔を向けてきた。
「大丈夫って、どういうことですか?」
「だから、イルカ先生に無理はして欲しくないっていうか」
「無理なんか、してません」
「でも」
 いいわけを重ねようとしたカカシの手に、イルカの手が触れる。
 ぴくりと震えてイルカを伺えば、イルカは落ち着いて微笑んだ。
「怖くないって言ったらウソになるけど、でもそれ以上に、確かめたいって思うんです」
「なにを? イルカ先生はなにを確かめたいの?」
 イルカはうすく口元に笑みを敷く。カカシの手に重ねられたイルカの手が、熱い。
「カカシさんにとって俺が特別だってことを、確かめたいんです」
 その言葉はカカシの奥深いところにすとんと落ちた。
 なんだ、と思う。それが答えだったのか、と。
 ロボットだというイルカ。たったひとつの存在ではなく、オリジナルのイルカの代わりだった事実。愛されていたことを信じたい気持ちがあっても実際にそれを実感することは別のことだ。
 きっとイルカは不安を抱えていたのだろう。
 イルカを抱きしめてやれば少しでも不安を拭ってやれるのだろうか。
 イルカの手を握り返す。じっと見つめて伝えた。
「言ったよね? 俺は、イルカ先生のロボットだって。イルカ先生と共にあることが、イルカ先生に従うことが、俺の喜びです。ここにいるイルカ先生のことが、好きです」
 真剣に、真っ直ぐに告げれば、イルカは頬をうっすらと染めて、こくりと頷いた。



 探るように指と口でたどった肌。イルカはびくびくと反応する。ぎゅっと目を瞑って肌を赤くして身をよじらす姿がたまらなく艶めいて映る。
 深い口づけでイルカの目は潤んだ。触れてしまったあの時にも思ったがイルカは感じやすい体をしている。
 胸の突起に吸い付けば大きく体が跳ねる。
「嫌だったら、言ってね。イルカ先生が気持ちいいことしてあげたいから」
 安心させるように笑いかければイルカはかわいらしく頷く。だがカカシはそんなに自分が余裕を持てないこともわかていた。ずっと焦がれたイルカと全裸で触れあっているのだから興奮しないほうがおかしい。
 胸に交互に吸い付きながらイルカの局所に触れる。そこはまだなんの反応も示していなかった。カカシは自分ばかりが大きくしてしまっていることが恥ずかしく、体をずらすとためらうことなくイルカの柔らかなものを口に含んだ。
「やっ、なに!?」
 イルカは肘をついて体を起こす。ばちりと目が合うと、面白いくらいに顔を赤くした。
「そんな、とこ、嫌です」
 べそをかきそうになる姿にかわいそうだと思う反面、ぞくぞくとするような感覚も覚える。かわいがりたいのに、鳴かせたいとも思ってしまう。
「ごめーんね。でもこれはやめないよ。だって気持ちよくなることだから」
 一旦口を離してから丁寧に舐めしゃぶる。それでもなかなかかんばしくない反応に、カカシはふと思いついたことを試してみた。
 奥に指を差し入れてみた。すると案の定イルカの半立ちだったものがぐんと力を得る。
「ああっ……ふ、んん!」
 やはりと言うべきか、イルカは治療で尻の穴に注射を入れる後に性器を立たせていた。だからきっとひとつの条件反射になっているのだろう。ほんの少し指先を入れただけなのに力が漲っていく。
「や、やだ。やめっ……カカシさん!」
「どうして? 気持ちいいよね?」
「でも、そこはっ、だって、治療に使う、とこで……ああ!」
 奥に指を押し込んで動かすとイルカはたまらないというように首を振る。
 先端は震えて快楽の証を流し始める。イルカを見つめたまま見せつけるようにそれを吸ってやればイルカはほろりと涙をこぼした。
「イルカ先生?」
 さすがに慌てて口をはなしてイルカを抱き起こす。
「ごめんね、そんなに、嫌だった?」
 髪を優しく撫でて問いかければ、イルカは首を振る。
「そうじゃ、なくて。き、汚いから。毒だからっ」
 乱暴に目元を拭う姿が子供のようでかわいらしい。イルカは治療に固執しているようで、かわいいやら呆れるやらだ。
「あのね、イルカ先生。そりゃあ、きれいなものではないし飲んだりするものでもないんだけどね、イルカ先生が特別な人だから俺は嫌じゃないし、いくらでも飲みたいって、ヘンタイみたいだけど、思うんだよ」
 ちゅっとこめかみに口づけて目尻の涙を嘗め取る。イルカは鼻をすすってカカシをじっと見つめてきた。
「大好き。大好きだよ、イルカ先生」
 顔中にキスをすれば、嫌がるそぶりを見せながらも、イルカはゆったりと微笑んでくれた。
 その顔にカカシの脳は焼ける。
 大事にしたい。優しくしたい。でもどろどろに交わって、めちゃくちゃにすがりついてほしい、乱れて欲しいとさまざまな思いが体を巡る。
 その気持ちに突き動かされて、かぶりつくようにイルカにキスしていた。
 荒々しく舌を入れてイルカの唾液をすする。イルカは必死になってそれでもカカシについてこようと懸命に息継ぎをしている。口を離した時にはイルカの唇は真っ赤に染まり、端からとろりとこぼれる唾液にそそられる。イルカを押し倒して、抱きしめる。
 すき間もないくらいにきつく抱きしめて、イルカの鼓動をダイレクトに感じれば、じわりと沸き上がる温かな思いに満たされる。
 深い息が漏れていた。
「イルカ先生を抱きしめることができて、すごく、嬉しい。イルカ先生あったかいし、ロボットとか人間とか、そんなのどうでもいいよ。イルカ先生はイルカ先生なんだよ」
 笑いかければ、イルカはかすかに首をかしげて見つめ返してきた。そんなイルカの手をとってカカシは漲っている己の下肢に触れさせた。
「ね、触って。俺、イルカ先生が欲しくて、ばかみたいに大きくなってる」
 イルカは目を伏せて、カカシのものに手を絡めてくれた。それだけでカカシは嬉しくなる。それ以上は求める気はなかったが、イルカは手を動かして、カカシの快楽を引き出そうとしてくれる。
「気持ちいい、イルカ先生」
 うっとりと呟けば、イルカは恥じらうように笑む。
 カカシはイルカの後ろに手を回すと、濡らした指先で奥をほぐす。イルカの中は柔らく息づく。治療をしていたせいなのか、もう十分にイルカの中はほぐれていた。
 イルカを仰向けにして、股の間に体を割り込ませて、入り口に固い先端をあてがう。見つめてきたイルカの赤い頬にそっと触れた。
「イルカ先生、これは治療じゃないからね。イルカ先生と溶け合いたいから、ここに入れるんだ。俺のこと、愛して欲しい。愛してくれる?」
 ここで、と言ってぐっと入り口を押す。
 最初は指でいかせてやったほうがいいのかもしれないが、一緒に乱れていきたいから、敢えてカカシはそれを選ばなかった。
 イルカはごくりと喉を鳴らし、唇を舐め取った。そして、腕を広げて、カカシのことを包み込むように抱きしめてくれた。
「カカシさんを、愛します」
 囁かれた言葉に目眩がした。たまらず、ぐっと腰を進めた。
「ああっ!」
 無意識にずり上がるイルカの体を押さえつける。先を押し込めば、イルカの中は躊躇うことなくカカシを招き入れる。
「は……っ」
 思わずカカシも喉の奥から喘ぐような声がこぼれる。そこに意識が持って行かれそうになる。イルカの中は従順でいながらどん欲にカカシを飲み込んでいく。一気にもっていかれそうで、最後まで押し込んでそのまま少しの間呼吸を整えた。
「カカシさん? 苦しいんですか?」
 ふと髪に優しくさしこまれた手。目を開ければ、イルカが下から心配そうに見上げていた。イルカのほうこそ、額にびっしりと汗をにじませ、辛そうなのに。
 イルカのそこは挿入の衝撃にも萎えずに張っていた。そっと手を絡めてやわやわと揉みこんでやれば、とろりと泣く。そして内部をぐうっと締め付けた。
「あぁっ」
 甘い声を上げるイルカの反応が嬉しくて、カカシは微笑む。視界のイルカが潤んで、カカシは自分が泣いていることを知った。
「すみません、痛いんですか?」
 眉ねを寄せて気遣うイルカに首を振る。
「違うよイルカ先生。嬉しいから。俺のこと、イルカ先生が愛してくれてるから、嬉しくて」
 本格的に動く前に、イルカに尋ねた。
「イルカ先生の特別に、俺はなれるのかな?」
 潤んだ目を見開いたイルカは、言葉もなく、ただ、頷いてくれた。



 鳥の声に覚醒を促される。
 重いまぶたを開ければ、腕の中には愛しい人が安らかに眠っていた。
 歯止めがきかずに無理をさせた。どろどろになって、落ちるように互いに意識を飛ばした。少し汚れているイルカの頬をそっと拭ってやる。かすかに身じろぎしたがイルカは起きない。そのままカカシに身をすり寄せてきた。
 その瞬間、わあっと体中、心中に広がった愛しさを生涯忘れることはないだろうとカカシは思った。

 

 

 

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