れぷりかんと   13    







 イルカは意識を失っているわけではないが紙のような真っ白な顔をして、呼吸もか細いものになっていた。
「イルカ先生。イルカ先生!」
 必死になってイルカをかき抱く。体温が低い。脈をとれば間違いなく鼓動は刻まれているが尋常でないイルカにカカシは青ざめる。
 とにかく火影の元に運ぼうとイルカを担ごうとした。
「カカシ、せんせい……」
 うっすらと目を開けたイルカがかすかな声を出す。
「喋らなくていいよ。すぐに火影さまの元に連れて行く」
 しかしイルカは力なく首を振った。
「違います。俺の、家に」
 囁くような声だがはっきりと告げてきた。
「でも……」
「お願いします」
 迷ったが、辛そうな息の下から言われたら従うしかないではないか。
 カカシはイルカを抱えると、大急ぎでとんだ。



 家に着いた時にはイルカは意識を失っていた。
 カカシは押入から布団をだすとそこにベストを脱がせたイルカを寝かせたが、その次に何をすればいいのかがわからない。熱があるわけでもないから濡れタオルを当てても意味がない気がする。冷えている体を暖めたほうがいいのかと何枚か毛布を取り出したがそれを重ねれば今度は重くて苦しいだろう。
 結局家の中をうろうろとして判断がつかない。
 医療専門の忍者ではないが基本的なことはひととおり習得している。だがこんな時どうすればいいかが全く浮かばない。
 眠るイルカは呼吸をしているのか怪しいくらいに静かで、そんなイルカを置いて火影を呼びに行くこともできない。戻ってきて、イルカがもし、死んで、いたら……。
 そこまで考えてぶるぶると首を振る。
 ぱん、と頬を叩いてしっかりしろと己を叱咤する。
 式を飛ばして火影に知らせればいいと思い立ち、震える足でよろよろと立ちあがった。
 その瞬間、いきなりイルカがむくりと起きあがったではないか。
「イルカ先生!?」
 上半身を起こしたイルカは真っ直ぐを向いているがどこも見ていない。瞬きさえもない、微動だにしない様子は確かにロボットのようだった。
 ごくりと喉を鳴らしたカカシは、おそるおそるイルカのそばに寄った。
「イルカ先生……?」
 イルカは立ちあがる。そのまま居間の棚の引き出しを開けて取り出したのは、大きめの注射器と、液体の入った瓶だった。
 注射器の先端には針ではなく細い筒状のものが取り付けられていた。瓶に先端を入れて、薬を吸い出す。
 透明な液体は注射器の中にいっぱいになった。
 いったいイルカがなにをしようとしているのかわからず固唾をのんで見守っていたカカシの前で、今度はイルカはズボンを脱いだのだ。下着も思い切りよく脱いで、カカシの前にイルカの下半身がむき出しになった。
「イ、イルカ先生?」
 なにが起きたのかわからないまでもカカシは焦る。焦って壁際に身を寄せてしまう。
 イルカはカカシにかまうことなく膝をつくと、震える手で注射器をおもむろに尻の穴に差し込もうとして、怪我をしている手のせいかそれが思うようにできずに取り落としてしまう。
 左手も使ったりと何度か試みて、それでもどうしてもうまく入らないことに苛立った様子のイルカは、いきなりカカシのことを振り返った。
「カカシせんせえ……」
 舌足らずにカカシに呼びかけるイルカの目は、濡れていた。頬も赤くして、体温があがったようにはあはあと息を切らしていた。
「俺、うまく、できない。お願いします。薬を、お尻に……」
 カカシは両手で口をおさえていた。いきなりそんな頼み事をされてもどうしていいかわからない。イルカが必死なのはわかるが、カカシは動けない。
「カカシ、先生……お願い……」
 ああ、と悩ましい声を出したイルカは、次には、カカシに向かってお尻を高くかかげ、畳に顔をつく。まるで、発情期の雌猫のように。その体勢で振り返ったイルカは、カカシのことを潤んだ目で射抜いた。
 まるで。まるで誘っているようではないか。
 カカシは一瞬の目眩を覚えた。
 喉がからからに渇く。その目に誘われ、操られたかのように、イルカに近づいた。少し震える手で注射器を掴むと、イルカの尻の穴にそれをあてがった。
「ああっっ」
 その瞬間、きゅうとイルカの尻が締まる。
 どきりと跳ねたカカシの心臓はそのままどどどどとドラムのようにリズムを刻みだした。
「う、ん。んんんー」
 ぐうっと注射器の先端を押せば、液体がイルカの体内に入っていく。イルカは苦しそうでいて気持ちのよさそうな、情事の時のような甘い声をあげ続けている。
 脳裏がぼんやりとなったカカシはイルカのことをまじまじと見つめた。液体が入っていくにつれ、イルカの性器がみなぎってくる。反り返った性器は腹にぴったりとつく。先端はすでに液体をしたたらせていた。
 イルカは怪我をしていないほうの手を己の性器に持ってきて、カカシの前で自慰をするようにそこをさすりだした。
「ん、ん。ああ、ああぁ」
  悶えるイルカにカカシの脳は焼ける。全て注入し終わった注射器を抜いて、イルカを抱き起こした。あぐらをかいた前でイルカを膝たちにさせて向かい合う。
「俺が、してあげるよ。イルカ先生はつかまってて」
 カカシが言ったことがわからないのかイルカは息をきらしたまま首をかしげる。その無垢なさまと下半身をみなぎらせたギャップにとっくに反応していたカカシの下肢は更に熱くなった。
 イルカの返事を待たずに、イルカの性器を掴んで、上下に動かした。
「なに? カカシせんせえ、俺、自分で……」
「いいから。させて」
 きゅっきゅっと動かせば先端からはぐずぐずと汁が漏れる。目の前で震える性器に舌をのばして舐め取れば、イルカは声をあげる。
「やぁっ! それは、毒、で、汚いって……」
 びくびくと震えるさまがかわいくて、カカシはじっととイルカを見上げる。
 熱を逃そうと必死で息を継ぐ姿がかわいくらしてうっとりとなる。
「かわいい、イルカ先生。服、汚れると困るから、上着めくってくれる?」
「でも……」
「片方の手は俺の肩に載せて、ほら、早く。ね」
 優しくお願いすれば、イルカは困惑したまま、それでも片手を使って服をあげてくれた。現れたのは胸の突起。薄い茶色のそれは感じ入ったようにすでに尖っていた。カカシはそこに吸い付いてみた。
「ん!」
 のけぞるイルカの体。愛しくて舌でつついて甘く噛んでみる。
「や……っ、なに?」
 びくびくと震える体を片手で抱き寄せる。乳首を愛撫しながらイルカの性器をいじる。優しく、時に激しく、緩急をつけてなでさする。
「カ、カカシ先生! もうっ! 早くぅ、出してぇ!」
 イルカはただ毒を出したいと思っただけなのだが、カカシの耳には淫らにねだる声に聞こえた。乳首から口を離してびちょびちょに嘗め回してみた。
「あっ、や、だっ……」
 イルカの性器を下からねろりと舐めあげる。同時に袋も揉みこんでやればイルカの先端から勢いよく液体が噴き出した。
「んんんー!」
 その瞬間、のけぞったイルカの姿にカカシは恍惚と目を奪われる。勢いよく飛び出した欲望の証はカカシの顔を汚した。
 イルカの口をうすくあけてうっとりと目を閉じるさまが、どん欲に快楽をむさぼったような姿が、とても美しかった。
 一瞬の残像を残し、イルカはくたりと力をなくしてカカシにもたれかかってきた。カカシの肩に顔を乗せてはあはあと息を整えている。
「イルカ先生、大丈夫?」
 小さな声で訊いてみれば、イルカはこくりと頷いた。そしてカカシに顔を向けてきた。
 瞳は潤んで少しせつなげに揺れていた。口の端からは唾液がしたたっている。カカシがなにか言う前にイルカの手がのびてきて、カカシの頬に触れる。
「ついちゃった。すみません」
 イルカの指先に顔を撫でられて、カカシは頬が熱くなる。イルカの手をとると、その濡れた指先を口に含んだ。
「カカシ先生。だから、これは、毒なんです」
「毒なんかじゃない。甘い、ほんとに、甘いよ」
 それは嘘ではなかった。イルカのものだからというわけではないだろう。とまどいに動けずにいるイルカの前で指をきれいに舐め取る。さらにイルカの手を使って他に顔にかかったものを拭って舐めてきれいにした。
 イルカにじっと見られていると胸のあたりがざわざわとして、体中が熱を持つ。
 たまらずにゆっくりとイルカを押し倒した。畳の上に転がったイルカの上を膝をついてまたぐ。顔の両側に手をつく。赤い顔をして潤んだ瞳で見上げられるとそれだけでますます胸がざわついて仕方ない。
 唾液で濡らした後、そっと、震える指先をイルカの奥に持っていく。つぷりと少しだけ差し込んでみれば、途端にイルカの体が反応する。ぴくりと震える体。食い入るようにカカシのことを見上げてくる。
「そこは、さっき、薬を……」
「イルカ先生、好き。大好きだよ」
 くっともう少し力をこめれば、イルカはゆるゆると首を振る。そしてかすれる声で呟いた。
「こわい」と。
 その声に、カカシの表情はすうっと青ざめた。
「ごめ、俺、ごめんね、イルカ先生」
 けれどカカシの高ぶり自体は収まってはくれず、放出することを願っていた。かといってこのままイルカに突っ込むことなどできはしない。
 しばしの黙考で結論をだしたカカシはイルカの手をそっととると、己の手を上から重ねるようにして、性器に導いた。イルカは問いかけるようにカカシのことを見つめた。
「お願い。触っていてくれるだけでいいから。お願い」
 震える声で懇願する。イルカはじっとカカシのことを見つめて、こくりと頷いてくれた。ほっとしたカカシはイルカの手にこすりつけるようにして、腰を動かす。
 カカシの欲はイルカの手の中にいるというだけで興奮はいやましていく。
「ん……。イルカ先生、気持ちいいよ」
 熱い息を吐き出せば、イルカはなにを思ったのか、もう片方の手も添えて、さすったり、先端をくるんだりしてくれる。
「イルカせんせー」
 カカシはうっとりと呟いて、イルカの顔をひたすらに見つめて動いた。ほどなくして、臨界まで達した欲が弾けとぶ。イルカの手の中に、吐きだした。そのまま、くらくらとする気持ちよさに耐えきれずにイルカの上に倒れ込む。
 はあはあと息をつきながら、イルカの頬に口づける。唇に吸い付く。
「ありがとイルカ先生。ごめんね、嫌だったでしょ。でも俺、最高に気持ちよかった」
 カカシは嬉しくて、イルカに顔をすりつける。イルカはぼんやりとした表情だが嫌そうではない。まるで動物たちがじゃれあうようにイルカになついてみる。そうしていると体中が暖かくなって、とてもとても幸せな気持ちがした。
 暖かなイルカ。ロボットだろうが人間だろうが、大好きなイルカの体に触れることができるなんて、なんて、幸福なことだろう。
 心地よさに眠気が押し寄せる。ぴたりとイルカにすり寄ったまま、まるで睦言のようにイルカにずっと囁き続けた。
 大好き、愛してます、と。

 

 

 

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