僕忍(ぼくにん)−カカシ− おまけ






「ねえイルカ先生。僕んちに遊びに来ない」
 受付所で報告書を片手にカカシは上品に、にこやかに告げた。



 イルカは強い目でカカシを見上げつつ、口元には営業スマイルを強いた。
「いえ。俺なんかがはたけ上忍の家に行くなんて、おそれおおいことできませんよ」
 なんだかわからないどさくさでカカシに男の操を奪われた記憶は新しい。そんな変態オオカミの家にのこのこと遊びに行くほど馬鹿じゃない。
 カカシはイルカの返答にめげることなく更に微笑みを深くした。
「ええ。残念だなあ。今僕の家の冷蔵庫にね、火の国名産の幻の火影牛があるんですよ。以前任務でお世話した大名の奥様がお中元にって送ってくれたの」
 火影牛。
 ごくりとイルカの喉が鳴る。我慢のきかない腹も正直にぐうと鳴る。
「他にはね、生きのいい蟹も。これは木の葉ではあまり食べられない一品。この間寒い国のほうの任務にいった友達がおみやげに買ってきてくれたの。この季節に蟹だよ? 普段でもめったに食べられないんだよ?」
 蟹。ぐ、ぐ、ぐーとイルカの腹がまたまた盛大に鳴る。
 実はイルカは蟹のしゃぶしゃぶとやらを食べてみたいのだ。
「それになんと言っても極上のお酒。これもまた幻の銘酒だよ」
 がたんと大げさに椅子を倒してイルカは立ち上がった。
 柔らかく笑むカカシと、ぎりぎりと歯をくいしばるイルカ。
「はたけ上忍」
「なあに」
 その、間。受付所にいたまばらな者は皆固まった。
「行きます」
 イルカは90度に頭を下げた。



「うまいっ。うまいっすよはたけ上忍!」
「それはよかったね〜。でもカカシって呼ばなきゃ駄目でしょ」
「ふぁいっ。カカシさん」
 イルカはいつかの乙女ちっくなカカシの家でがつがつと肉に蟹にとその他よくわからないが上品な料理を一緒に口に放り込んでひたすらにがっついていた。
 ほどよく冷房のきいた室内。この間イルカが目にした部屋ではなく、木材のテーブルが置かれたダイニング。そこに所狭しと食材が並び、カカシはイルカの隣でせっせと給仕をしていた。
「ああ、ほら。全部イルカ先生が食べていいんだから、そんなにがつがつしないで」
「でも、俺、しばらく、まともなもの、食べてなくてっ」
 そんなちょっとしたことを喋る間も惜しいとばかりにイルカは咀嚼していた。
「最近元気なかったよね。夏バテかなって思って、僕心配だったんだ」
 ふふ、と優しく笑ってカカシはイルカの頬についているソースを拭ってぺろりと舐めた。夢中で食事にいそしむイルカを見ていると、カカシのほうの食欲も沸いてくる。
 下半身の、食欲だが。



 実はカカシはイルカがごはんでつられると確信していた。
 先日イルカはかの友人の結婚式の二次会で大盤振る舞いのあげく、その月の給料をほとんど使ってしまったのだ。それからイルカはあと半月、毎日毎日ごはんに塩のような生活をしていたのは調査済みだ。
 結構食いしん坊なイルカが、ごちそうで落ちないわけはないと踏んでいたら本当にあっさりと引っかかってくれた。
 イルカとなし崩しに関係をもったカカシだが、別につまみぐいのつもりは最初からなかった。あの時イルカに言った言葉は真実だ。かわいいなと思った。無防備にふにゃふにゃとした姿に食指が動いてついつい食べてしまったのだ。
 思ったよりイルカはうまかった。珍味、というかなんというか。これが? と思っていた食材に思いがけない味を見いだして感動したようなものだ。そして、得てしてそういうものは何回も味わいたくなる。味わうたびに違う発見、愕きがあるのだ。
 イルカにモーションをかけるのはこの先も続けるが、また久しぶりに味わいたくなったのだ。
「ごちそうさまでしたー!」
 完食したイルカは手を合わせてカカシに頭を下げた。
 一気に色つやがよくなったイルカはおいしそうだ。
「おなかいっぱいになった? よかったね」
 カカシが口元を拭ってやりつつ笑いかければ、イルカもつられて無邪気に笑う。
「あの、俺ばっかり喰っちゃって、はたけ、じゃなくて、カカシさんは」
「僕も食べるよ」
「え? でも」
 イルカは自らが食い散らかしたテーブルをじっと見る。そこには皿の残骸だけで何も残っていない。
 カカシは立ち上がってこっち、とイルカを導いた。イルカは素直にカカシの後に従った。



「ち、近づいたら、許しませんよっ」
 イルカは壁際に追いつめられていた。
 あの時、訳がわからないうちに致されてしまったあの部屋。天蓋つきの悪夢のベッドがすぐそこにある。カカシは涼しい顔をして、イルカに忍びよると、イルカの顔の脇に両手をついて囲ってしまった。
 イルカの目の前には整いすぎた顔がある。にこやかに優雅に微笑んでいた。
「許しませんって、じゃあどうするの? 僕もう近づいちゃったよ」
 余裕綽々でカカシは笑う。うーとうなったイルカはなんとか気力でカカシを睨み付ける。
「お、俺は、あの時のこと認めてませんからね。あんなの強姦じゃないですか」
「あのねえイルカ先生。強姦だって言うけど、じゃあどうして今日僕の家に来たの? これでなにかあっても誰もイルカ先生の言うこと信じてくれないよ。だって自分から来たんだから」
「それは、だって、ごはんが……」
「ごはんと自分の貞操はかりにかけちゃったんだー。カワイソー」
 馬鹿にしたように言われて、イルカはかっとなる。ポーチに手を入れると、術符をカカシに向かって突きつけた。
 イルカを追いつめてすっかり余裕でいたカカシは一瞬反応が遅れた。イルカが眼前にだした術符に攻撃のチャクラがないことは瞬時に悟ったが、体をひねることしか間に合わず、素早く印を結んだイルカとの間に舞い上がる煙。くらりと体の芯がかしいだ感覚のあと、それでも距離をとり、気力で目を開ければ、なぜか視界が低かった。
「イルカ先生……。やってくれたね」
 はあとカカシは息をつく。見上げたイルカは勝ち誇ったように笑っていた。
「これで、悪さできませんね」
 カカシは、アカデミーの低学年程度の体にされていた。
「火影様のチャクラが練り込んである術符ですから、簡単には解けませんよ。お、俺だって、こんなオオカミの家に無策でくるわけないじゃないですか!」
 イルカは胸をそらせて悦に入っているが、単純な思考にカカシは小さく笑ってしまう。そこを目ざとく見つけたイルカが近づいてきて、膝を折った。
「なんですか? 何がおかしいんです?」
「うん。だってイルカ先生ってやっぱりかわいいんだもん」
「かっ、かわいくなんてないっ」
 イルカは目を剥くが、カカシはますます面白くなってしまう。
「だってねえ、僕のこと子供の姿にしたら安全だって思ってるんでしょ。かわいいよねー」
 カカシは無邪気な姿でくすくすと笑う。イルカは何か感じるものがあったのかかすかに身を引くが、そこにカカシがすかさず顔を寄せてきた。
「僕ね、六歳で中忍になったんだ」
「知ってますよ、そんなこと。それが……」
 カカシは逃げるイルカの二の腕をぐっと小さな手で掴んだ。
「知ってるのとそれがどういうことかって本当にわかることは違うんだ〜よ。教えてあげるね、単純なイルカ先生に」
 にっと笑ったカカシの目の奥は鋭かった。



 ベッドの上で両腕を縛られたイルカは胸にしゃぶりつく子供をはがす気力をすっかり失っていた。
 カカシはとまどうイルカを目にもとまらぬ早さで縛り上げると、あり得ないくらいの力でベッドに放り投げた。混乱するイルカの服を剥くと、恐怖で縮こまったイルカのあそこを小さな口でぱくりとくわえたのだ。
 これが子供とは思えない技巧で(まあ実際中身は大人なのだが)、イルカのことをあっさり逐情させた。そこで息を整える間もなく、今度は片手で萎えたそこをいじりつつ、奥の方には指を入れてきた。これがまた一度しか体を重ねていないのにイルカの弱いところを過たず攻めてきて、続けざまの二度の吐精にイルカはぐったりと身を横たえた。
「もう、もう……やめてくださいよ〜。なんなんですかぁ……」
 イルカだけが裸で、服を着たままのカカシは飽きることなく母親の胸を吸うようにイルカの胸を攻めていた。くわえられたかと思うとちろちろと舐められて、時たまきつく吸う。すっかり赤くなって尖った先端は息づかいだけでも反応を返した。
「ああ。泣かないでよイルカ先生。ね?」
 伸び上がったカカシはイルカの目尻にちゅっと唇を落とす。イルカのことを見下ろすカカシはかわいらしい子供なのに、やっていることは鬼だった。
 ずずっと鼻をすすったイルカは情けなさに睨む気力もおきずにぷいと視線をそらす。
「もう、カカシさんなんて嫌いです。俺のこと、馬鹿にして」
「馬鹿になんてしてないよ? 僕イルカ先生のことだーい好きだもん」
 イルカの頬にちゅっちゅっとキスをして、唇を塞いだ。
「好き。本当だよ? 最初騙したみたいなことしたのはごめんね。でもイルカ先生すっごくかわいかったから、僕我慢できなかったの」
 優しくついばむようなキスを繰り返したあと、柔らかく唇をはまれる。
「ん……。や、です……」
「好き。好き好き」
 小さな舌が懸命にイルカの口の中で主張する。受け入れて欲しいと。
「ねえ、イルカ先生。イルカ。僕のこと嫌いにならないでよ」
 嫌いになられることを充分しているくせにかすれた声ですがるように言う。子供のなりをして、そんなふうに言われて、イルカが拒めるわけがないのだ。
「……手、解いてくださいよ」
「うん。ごめんね」
 起きあがったイルカが手首をさすっていると、カカシの手が伸びてきて、イルカの赤くなった手首に唇で触れた。
「! カ、カカシさん!?」
「ごめんねぇ」
 優しいいたわりについさっきまでされていたことも忘れて、かあっとイルカの全身が熱くなる。口元を押さえて背を向ける。
「イルカ先生?」
 カカシがのぞきこんでくるが、大きく跳ねる鼓動にイルカはとっさに言葉を紡ぐことも出来ずに、しばし息を整える。
「カカシさん」
 顔を見られたくなくて背を向けたまま告げた。
「術の効果が解けて元の姿に戻ったら、きちんと聞かせてください」
 何を聞かせて欲しいのか、それは口にせずともイルカの様子でわかってくれたのだろう。カカシはイルカにぎゅっと抱きついてきた。
「うん。い〜っぱい聞かせてあげる。あと、い〜っぱいエッチもしようね!」
「それは余計ですっ」
 調子にのる子供をイルカはぽかりと殴りつけた。