ワカゾー君
おどおどとしていながらも真っ直ぐな目をして辺りをうかがっていた。黒々とした目がカカシが大事にしている忍犬のようで、好感を持った。そいつは、カカシが真ん中に置かれた椅子に座っているというのに誰かをさがして、そのあげくに見かけだけで副隊長の忍を隊長だと勘違いして礼をした。
そしてカカシには、子供だから違うと思った、と。
自分だって子供のくせに。せいいっぱい背伸びして、意地をはる。喜怒哀楽に正直なよくかわる表情がいい。こいつとは仲良くなれるかな、とカカシは笑いながら内心思っていた。
アスマはその日病院に向かっていた。
ここは火の国の辺境の街。この間のいくさで怪我を負ったカカシは療養後そのままリハビリをかねて街の警備にあたっていた。
傷はすっかり癒えたと聞いていたのに、入院した、と聞いた。生意気なチビだがさすがに心配で、アスマは非番のこの日、街で唯一の小さな病院に足を運んだ。
「おーい、脳でも沸いたかあ?」
冗談に紛らせアスマは病室に入ったが、忍用に用意されている個室の中で、カカシがベッドに入って俯いていた。その力のない姿はまるで捨てられた子供のようだった。
「なんだよおい。元気ねえじゃねえか」
パイプ椅子を取り出して、アスマはベッドの横で腰掛けた。
この間の怪我は完治したことは間違いないが、なんと言っても頭も打ったから、今になって何か見つかったというのだろうか・・・・。
「あのさ、アスマ。この間の雨隠れとのいくさにやってきたイルカって、覚えている?」
アスマが悪い想像で頭を膨れあがらせていたら、不意にカカシが聞いてきた。
「ああ。あの元気な小僧か」
「そう。俺さ、最近あいつのことよく考えるんだけどさ、そうするとちんちんが固くなって、なんかむずむずするんだよ」
アスマはぎこちない動きでカカシを見た。
「で、夢にもよくでるんだけど、どうしてか裸のことが多くて、あいつの毛が生えてたちんちんのあたりとかがよく出てくるんだ。朝起きると、絶対ちんちん固くなってるし、たまに、パンツが濡れていることもあってさ。俺、病気かな?」
アスマは病室だというのに無意識に取り出していた煙草をぽろりと落としていた。
カカシはどうしよう、俺病気だ、と暗い顔をしている。
「それでさ、ぼーっとしてるといつもイルカのことが頭に浮かんで、心臓がすごいドキドキして、苦しいんだよ。イルカのことぎゅうってしてる幻術みたいなのも浮かぶし、その時なんでか裸だし。俺絶対やばい・・・」
「カカシよ。お前は6才で中忍になったってことは、アカデミーには通っちゃいないな?」
「うん? なんだよ藪から棒に。そうだよ。いつも火影のにーちゃんが俺にについていたから」
「火影のにーちゃん? ああ、四代目か。四代目が亡くなったのは九尾の時だから3年前、お前は8才か・・・・・」
うーんとアスマは考え込む。8才。しかもカカシは物心つくかつかないかの頃からの根っからの忍。四代目も多忙だっただろうから、忍としての戦い以外の教育を施す余裕はなかったのだろう。多分・・・。
「なんだよアスマさっきから。俺やっぱり悪い病気なんだろ? 死ぬのかなあ。そしたらもうイルカと会えないよな。俺の手下のあいつらとも遊べないよな・・・」
カカシは普段の生意気さはなりをひそめて普通の子供のように不安に小さくなっている。
「あのな、カカシよ。お前は病気じゃねえよ」
「嘘だ。病気じゃないならこんなに心臓が苦しくなるわけない」
カカシは頑なだ。カカシの症状は確かにある種の病気だが、入院が必要な病気ではない。必要なのはイルカなのだが、あいつは里だ。アスマに性教育をぶる気は全くない。
「カカシ。医者には診てもらったのか?」
「診せたけどやぶなんだよ。病気じゃないって」
だから病気じゃねーんだよ! と怒鳴りたいのを我慢して、アスマは告げた。
「確か、半年後くらいだったと思うが、里で中忍選抜試験があるだろ? イルカも受けるって言ってたよな?」
「ああ。でも、俺は病気だから会えない」
「けどよ、里から試験管の要請がカカシにも来てたぜ? 何かと人手不足だからな」
「でも俺はそれまで生きていないから」
けっ、と笑い飛ばしそうになるのを必死で堪えてアスマは適当なことを言った。
「試験管ぎりぎりだからもし一人でもかけたら試験自体開催されないかもしれないんだぜ〜? そしたらイルカは実力があっても中忍になれないよな」
意地悪く告げれば、カカシはすがるように顔をあげた。
「そんなの、ひでえよ」
「ひどかろうがなんだろうが決まりだ。試験受けられなかったらイルカはもう忍をやめて一般人になるって言ってたぜ。それくらい覚悟してるんだ。そしたらもう一生会えないかもな〜」
「そんなのいやだ!」
よしよしのってきた、とアスマは内心でガッツポーズを作った。
「それなら意地でも次の試験までは生き延びろ。イルカの為にな」
指を突きつけてすごめば、カカシは泣きそうに顔を歪ませて、それでもこくりと頷いた。
「俺、生きてみせる。イルカのために、それまでは絶対に生きる」
両手を組合わせてカカシは祈るように遠くを見つめている。
アスマは呆れて病室を出る時に一度振り向いた。
「そうだカカシ。生き延びて里でイルカに会えたら、今の症状について聞いてみろ。きっとイルカならどういう症状かわかると思うぜ」
「なんで? イルカは医療忍術でも習っているのか?」
「んー、ま、そんなとこだ」
面倒くせえと部屋を後にしたアスマは、病院の事務に行って強制退院の手続きをしてしまうことにした。
がんばれワカゾー。
オシマイv