中忍、上忍にむちゅう







 遠くのほうから呼ぶ声がする。ぺちぺちと音がでているのはどうやら自分の頬からのようだ。
 うっすらと目を開けたイルカの視界には蛍光灯の明かりを背にしたカカシがいた。
「カカシ、さん…?」
 イルカが声を出すとカカシは明らかに安堵して息をついた。
「びっくりしたよ。イルカ先生、気づいたら気失ってるんだもん」
 ああ、びっくりした、とカカシは頭をかく。
 カカシは上半身裸のままで、普段は隠されている素顔が今は晒されている。それはそうだ。
 なぜって、二人はさきほどまでセックスをしていたのだから。
 かーっとなったイルカは慌ててがばりと起きあがる。
 目に入った下腹部はイルカ自身がはなったもので濡れていた。
 見ればシーツにもなにやら汚れている形跡がある。
「ご、ごめんなさい、カカシさん!」
「ああ、いいよ。洗えばいいでしょ」
 カカシは慌てず騒がず、丁度いいとばかりにシーツを摘むとイルカの下腹部を拭ってくれた。
「あ、ごめんね。ちょっと血が出たみたいだ。ホントにごめん」
 カカシは秀麗な眉をひそめつつも淡々とイルカの下半身を検分してきれいにしてくれている。ころりとベッドの上でかたまったままのイルカは、さっきまでカカシのものを受け入れていた場所を拭われそうになって思わず起きあがる。
「い、いいです、大丈夫です! 俺、丈夫なだけが取り柄だから!」
 カカシから身を離したイルカはよろよろする足を堪えて、早業でベッドの下に脱ぎ捨てられた服をまとうと、どろんとカカシの部屋から消えた。



 初めて見たカカシの素顔はイルカが今まで目にしたなかで一番整っていた顔だった。
 木の葉では珍しい色の銀の髪が綺麗だなあとは思っていた。だが、いつもゆったりと構えた物腰と半眼の目からは、素顔がこんなにも鋭く整っているとは考えもしなかった。すっと伸びた鼻筋も、薄い口も、意外と長いまつげも、そりゃあ反則だろ、と思うくらいにうまいこと配置され、カカシという造作を形作っていた。
「もう本当に、素敵でしたよ〜。超かっこ良かったです〜。ああ、俺ってば幸せものです。あんな素敵な人、そうそういませんよ〜」
 両手で頬杖ついたイルカは斜め前方を見上げてきらきらと瞳を輝かせて語っていた。
 イルカの前にはガイ。二人は木の葉の赤ちょうちんで酒を酌み交わしていた。
「そうか! とうとう男にしてもらったかイルカ! 俺は奴のライバルとして嬉しいぞ!」
 ガイはきらりと白い歯をきらめかせて親指をたてるいつものポーズを決めた。
「ガイ先生のおかげです。ガイ先生が取り持ってくれなかったら俺なんてカカシ先生に告白なんて絶対できませんでしたよ」
 イルカが頬を両手ではさんでギャーと叫んぶと、ガイは顔の前で大きく手を振った。
「何を言う! 俺は何もしていないぞ。ただカカシに、イルカがお前とセックスしたいと言っていたと伝えただけだ」
「そうです! それが大事だったんですよ。カカシ先生はああ見えて鈍いところがあるから、それぐらいばしっ! と言わないと伝わらなかったんですよ。さすがに俺は恥ずかしくて自分じゃあ言えなかったですからぁ」
「イルカ…、お前って奴は…」
 ガイは目の前の大ジョッキを手に取ると一気に飲みほした。
「俺は本当に嬉しいぞっ。カカシはいい奴だ。お前が幸せにしてやってくれ!」
「そんなっ。幸せにしてもらうのは俺のほうですっ」
 生にちょう! と元気に注文してイルカはあわあわと手を振った。
 昨日、カカシと初めて寝た。
 初めてのイルカに気を遣って、電気を消したカカシは、オレンジ色の豆電球だけでイルカにかぶさってきた。イルカとしてはカカシの顔を飽きるくらいに間近で見ていたかったから、皓々とした明かりの下でセックスをしたかったがさすがにそんなこと男の恥じらいとして言えなかった。
 だからその代わりかっと目を見開いて、カカシのことを睨み付けていたのだ。そうしたらカカシに、嫌なんですか? と誤解されて慌てて目を閉じることになったのだが。
 そして目を閉じたらあっという間だった。
 なんだかよくわからないうちに脳裏にお花畑が広がり、ふわふわとそこを飛行して、気を失っていた。
 意識を飛ばしてしまったから、おかげでカカシに迷惑をかけてしまった。
 自宅に飛んで帰って、風呂場でじっくり愛された証とやらを確認したら、あったのだキスマークが!
「ほら、ほら、ガイ先生ここ! ここに赤い痕あるでしょ? ここね、昨日カカシ先生がつけてくれてキスマークですっ。あとですね、ちょっとここじゃ見せられないんですけど、股、股のきわどいところにもあったんですよ〜」
 首筋をぐいと近づけてガイに見せつける。ガイはどれどれと大きな目を更に見開いて確認する。じっと検分したガイは、くらりとよろめく。
「でかしたイルカ! カカシの情熱の証をゲットしたんだなお前は。俺は猛烈に嬉しいぞ」
 ガイは涙を流して今度は熱燗を注文しようと手を上げれば、二人のテーブルの横に立ったのは、何をあろう、噂の猫背の上忍だった。
「カ、カカシ先生!」
「カカシ!」
「ど〜も。イルカ先生…と、ガイ」
 困ったような顔で、カカシは片手を頭にもっていって笑った。
 公衆の場だから忍服で、写輪眼と口布で顔のほとんどを隠したいつもの姿だが、その中身を知ってしまったイルカはぽや〜となってカカシに見とれてしまう。イルカの眼前からはガイは吹き飛んだ。カカシとマンツーマン。居酒屋は二人だけの世界となった。
「イルカ先生? どうしたの? 顔赤いけど……」
 カカシが顔を近づけてきたからイルカは大きくのけぞる。
 カカシの体温にぬくまって、匂いやらを嗅いでしまったらイルカはあそこを大きくさせてしまうかもしれないのだ。
「あ、いえ! 飲み過ぎちゃって! カ、カカシ先生こそどうしたんですか?」
「ん〜。イルカ先生のこと探していたの。そしたら、ここにいるって聞いたから、ね」
「え? お、俺に何かご用ですか?」
 何かミスをやらかしたか? それともナルトたちのことか? とイルカは意気込んで席を立つ。
 しかしカカシは困った顔をますます困らせて、目尻を下げた。
「用っていうか、ほら、昨日の今日だし、会いたかったんだよね。イルカ先生に無理させちゃったかなって思って」
「む、無理なんてっ」
 カカシの顔が曇るからイルカは慌てて声をあげた。
「俺こそ、カカシ先生に体拭かせたりして、申し訳なかったです。でもカカシ先生うまいから、俺すぐいっちゃってごめんなさい。俺はすごく気持ちよかったんですけど、カカシ先生はどうでしたか? 俺の体よかったですか? 俺のあそこいけてましたか!?」
 イルカは、握り拳を作って大声で叫ぶように言ってしまった。
 さきほどからでかい声で話していたイルカとガイは周囲に注目されていたのだが、カカシの登場でそれは更にエスカレートした。皆が耳をそばだてて口を噤んで聞いている気配はありありなのに。こんな静かな居酒屋ないだろう、というくらい、ナツメロの曲さえ店員がボリュームダウンしているというのに、イルカはそれどころではない。
 愛するカカシとのこれからがかかっているのだから!
 カカシはあ〜とかうーんとかなにやら呻いていたが、意気込むイルカの頭にぽん、と手を載せた。
「イルカ先生は、かわいいですよ」
 そしてなでなでと撫でてくれたのだ。
 かーっと全身に一気に血が駆けめぐったイルカは、そのおかげで酒が回ってばたんと倒れてしまったのだった。




 温かくて、ふわふわと脳裏が気持ちいい。しかも鼻腔からは大好きな人の匂いがする。鼻の穴を広げてくんくんとかげば、くすぐったいですよーと笑われた。
「! カ、カカシ先生!?」
「起きましたね〜。びっくりしましたよいきなり倒れちゃうから。駄目ですよ飲み過ぎたら。お酒はほどほどにね」
 イルカは今カカシの背中で揺られていた。
 夜道を照らすのは月明かり。静かな住宅街を二人きりで歩いていた。
 イルカはカカシの背に揺られているという鼻血もんの状況にゆるやかだった鼓動がどんどんと速度を増すのを意識した。
 背中から覗くカカシの横顔は口布をしていても端正なことがわかる。と言ってもイルカは実際を見たから中身が想像できてわかるのだが、カカシはよくもてる。きっと察しのいい者は中身のよさを察知してカカシにまとわりついているのだろう。
 こんな素敵な上忍が、今やイルカの恋人。しかもばっちり体も繋がった。
 えへへへと頬がだらしなく緩む。ぎゅーとカカシにしがみついて、ついでとばかりに唇を尖らせてカカシの頬に、口布の上からじゅうーと吸い付いた。
「イルカ先生〜俺は食べ物じゃないですよ〜」
 カカシの柔らかな声がイルカの下半身にずきゅんとダイレクトに響いた。
「・・・イルカ先生、なんか、固いものがあたりますが」
「わあ! ごめんなさいカカシ先生!」
 正直で素直なイルカの局部は忍服を押し上げてしまっていた。慌てて身を離すがカカシにおんぶされている状況なのだから、のけぞって気づけば視界が回り逆さまの夜空が見えた。星が散らばって綺麗だ。きらきらと、まるでカカシの銀の髪のように。
「カカシせんせーい。俺、カカシ先生のこと、大好きですぅ」
 ぽろりと口をついてでる言葉。
 そこでまた視界がぐるりと回り、イルカは地面に足をついて、目の前にはカカシがいた。
「イルカ先生」
 カカシは至極真面目な顔をしてイルカの肩に手を置いた。
 愛の告白か、キッスでもされるかと思って、イルカはん〜と唇を突き出した。
「どうしたの、イルカ先生? たこみたいだよ」
 噴きだしたカカシの返答にがくりとイルカが肩が落ちるがこんな事でめげたりしない。えいやっとばかりにカカシの口に熱烈なキッスをしようとしたところ、がっしと頬を両側からはさまれた。
「カ、カカヒへんへい、なんれすか?」
「イルカ先生。今日・・・」
「きょう・・・?」
「餃子食べたでしょ?」
 にんにく臭いよ〜とあははーと笑うカカシが恨めしい。思わずイルカはよよよと手ぬぐいを噛んで、いけずな恋人に食べましたと告白しておいた。そして心のメモに書き留める。カカシにせまる時は歯磨きして、臭いのきついものなど言語道断。
「あ、それでね、イルカ先生」
「はいっ」
 ずいと顔を寄せられてイルカは飛び退く。二人の間2メートルほど。イルカは住宅街の壁にぶち当たっていた。
「おおお、俺臭いですから、ちょっと遠めでお願いします」
「ええ〜? 大丈夫だよ〜? 俺餃子好きだから」
「じゃあ、じゃあなんでさっき俺のキッスを拒んだんですか!?」
「え!? キス、しようとしてたの?」
 本気でびっくりしているカカシにイルカはきーっと歯をむく。
「ば、ばかにして! 俺、俺・・・! むごっ」
 言葉は途中で塞がれて、イルカはカカシからキッスされていた。しかもベロまで入れてくれる熱烈なやつを。イルカは咄嗟にちゅうちゅうと吸い付いてしまい、カカシに痛いですよーとはがされて笑われた。
「イルカ先生吸い付きすぎ。舌痛くしたらしばらくキスなんてお預けですよ?」
「えええ!? 俺キス大好きなのにっ。ヤダヤダ! カカシ先生といっぱいキスしたいっ」
 びーとわめくと、カカシは慌ててイルカの口を塞いだ。
「イルカ先生、もう遅いですから」
 イルカはこれ幸いと舌を出してカカシの手のひらをくすぐるように舐めた。
「イールーカーせーんーせーいー」
 カカシは困ったような顔で笑ったまま、それでもしっかりイルカの首根っこをつかまえて猫のように吊り上げた。
「だって〜。カカシ先生が意地悪言うから……」
 きゅうと丸くなったイルカのほっぺたにごめんね、とカカシはちゅうしてくれる。
 それだけでイルカは幸せな気持ちになってだらしなくえへへと笑えば、優しい笑顔のままカカシは告げてきた。
「イルカ先生。実はね、俺たちまだエッチしてないんですよ」
 ぴきっとイルカの顔は固まった。




 衝撃、なんて生ぬるい言葉では表現できない。
 カカシの優しい顔がお空に浮かんで大きくなって イルカの頭上に落下してイルカの体をミジンコレベルどころか細胞レベルにまで細かく砕いてしまった。
「エエエエエエエ、エッチしてないって、そんな、うそ、ですよね!?」
 それでもイルカはミジンコに立ち直ってカカシに詰め寄る。
 カカシは形のいい眉をへにょりと下げて、頭をかいている。
「嘘じゃあないです。ごめんね」
「ううううそですっ。ななな、なんで? どうしてですか? だって俺の体にキスマークいっばいあったし、俺、出血してたじゃないですか! 処女の血ですよ? 俺のバージン奪ってくれたんじゃないんですか!?」
 イルカは地声がでかいのにさらに声をはりあげて叫んだ。
「だからイルカ先生、もう遅いですから。ね、落ち着いて。でもイルカ先生は男なんですから処女じゃないですよ」
 カカシは困った顔をしつつもつっこみは忘れずになだめてくるが、これが落ち着いていられるかとイルカはさらにヒートアップした。静かな住宅街でどんな騒動になろうとしったこっちゃない。
「絶対うそ! 俺のこと無理させたんじゃないかって言ったじゃないですか。それに俺のあそこ、ちゃんと異物感ありましたもん! 俺カカシさんの為にあそこに物入れて広げて練習したもんっ。だからわかるもんっ」
 うわーんっとイルカはほえる。
 カカシの家にお泊まりが決まってからの数日の間にイルカなりに予習したのだ。男を喜ばせるにはとハウツー本も読んだ。ネットでホモのひとたちのブログを読んで夜の営みを学んだのだ。
 それもこれもすべてカカシとのすばらしき初体験の為に。
 泣いているイルカの頭をカカシはよしよしと撫でてくれる。イルカはたまらなくなって抱きついた。
「カカシ先生ー。俺とエッチしましたよねー? 俺の体で気持ちよくなってくれたんですよねえー」
 鼻水をカカシの服で拭いながらあきらめきれずに問いかける。子犬のようにつぶらな目と確信している仕草で小首をかしげてカカシをじっと見上げる。
「えーっと……」
 カカシの目は優しく細められる。まるで子供をなだめるような、優しい顔。
「きいてイルカ先生。俺ね、イルカ先生のことは大好き。そりゃあ俺だってエッチしたかったんだけどね、でもイルカ先生とじゃできなかったんだ」
「俺、いけてなかったですか……?」
「ううん。すっごいいけてたよ。でもイルカ先生さ」
「わかりました」
 イルカはどんとカカシの胸を押した。
 ずーっと鼻水をすすってきゅぽん、と飲み込んだ。涙を袖口でがしがしと拭う。
 そのまま地面に座って、カカシに土下座した。
「今までありがとうございました! 俺、たった2週間でしたけど、カカシ先生とおつきあいできて嬉しかったですっ。俺は、もう誰も好きになりません。一生カカシ先生との思い出を胸に一人で生きていきます。たとえホモと後ろ指さされてののしられようと、カカシ先生への愛を貫きます! 今まで本当にありがとうございましたっ」
 地面にごりごりと額を押しつけて、断腸の思いで告げる。
 このままどろんと消えればかっこいいのだと思うが、最後に大好きな人の顔を目に焼き付けたくて、がばっと顔を上げる。
 焦点の合わないくらいの間近にカカシがいた。しゃがんで、イルカの目の前にいた。
「イルカ先生、額、擦り傷になっちゃったよ」
 きれいな指先がささっと砂を払って、温かいベロでぺろりぺろりと嘗めてくれる。
 そんな優しさに、ひっこめたはずの涙と鼻水がふたたびぶわあっと溢れ、ついでに急所が窮屈になる。カカシの体臭、イルカにとってはかぐわしい匂いが間近でする。まるでパブロフに犬のようにこの先この匂いで勃起してしまうかもしれない。
 それもまたよし。カカシのせいでヘンタイとののしられても痛くもかゆくもない。
「イルカ先生、ここじゃなんだから、俺の家に行きましょうか」
 イルカの手をとってカカシは立ち上がらせる。その視線が下に降りてふくれあがったイルカの中心で止まる。カカシは喉の奥で笑った。
「イルカ先生〜、も〜う。盛りのついた猫じゃないんですからね、いちいち押っ立ててどうするんですか」
 イルカは慌てて股間を押さえて背中を丸める。
「だ、だって、俺、カカシ先生のこと、大好きだから、しょうがないんです!」
「俺もイルカ先生のこと大好きですよ〜」
 カカシの声は柔らかく優しくて、イルカはすぐに気を取り直した。
「やっぱり俺のこと、だ、抱いてくれたんですよね? ね?」
 えへへとだらしなく顔がゆるむ。カカシの顔も優しい。でもきっぱりと告げた。
「だから、エッチはしてないんですって。あ、でも。イルカ先生のことは気持ちよくしてあげましたよ。おなか、汚れてたでしょ? 俺がしごいてあげたんですよ」
「それだけですか!? く、く、く、口でやってくれたとかじゃないんですか!?」
 イルカは丸まったまま驚きにカカシに体当たりする。イルカの体を受け止めてカカシはげらげらと笑い出す。
「いきなり口〜? イルカ先生、それはもっと上級レベルでいいんじゃないかな? ゆっくりいきましょうよ」
 カカシは楽しそうだがイルカは楽しくない。カカシの為ならイルカは最初からいけいけGOGO! で、上にだって乗っちゃうぞってな勢いなのだ。
 そう思うと、やっぱり、愛はないのかもしれない……。
 ぴゅーっとイルカの中心も萎えた。悲しみに、萎えた。
「カカシ先生、さようなら」
 イルカは涙を払って走り去った。




「俺のオカズはこれから一生カカシ先生です!」
 そう叫んで涙でくらむ視界のままに走り出したらお約束のようにすっころんだ。べしゃりと顔面を打った頭部にだめ押しのごとくに小さな固いボールがぶつけられる。「うるせえぞ!」と怒鳴られる。
 絵で描いたような踏んだり蹴ったりな状態にイルカはこのまま地面にずぶずぶとめり込んでいきたい気持ちに覆われた。
「イールカせんせー」
 愛しい人が呼ぶ声にそれでものっそりと起きあがれば、カカシは遠くで手を振っていた。
「イルカ先生の体にあったキスマークは間違いなく俺がつけたものですからねー。あとねー、おしりにの穴もほぐしてみたりしたんですよー。でー、それをちょっとやりすぎちゃってー、イルカ先生のこと出血させちゃったんですよー。ごめんねー」
 カカシはにこにこ笑ってすごいことを告げている気がする。イルカは座り込んだままとりあえず一番気になったことを聞いてみた。
「俺のケツの穴は何でほぐしたんですかー?」
「巻物ー」
「巻物って、どんな忍術が載っているのですかー?」
「そりゃあイルカ先生のおしりに入れるんだから、特別なやつですよー。上忍の敵で、任務レベルもA以上の時にしか使えないやつですよー」
「オオオ、俺って、じゃあ、かなり特別ですかっ?」
 イルカのしゃがみこんでいた体は一気に力を取り戻した。がばりと立ち上がって胸の前で拳を作る。
 カカシは遠目にも素敵にきれいな笑顔で頷いてくれた。
「もちろん! 俺イルカ先生のこと大好きですからねー」
「じゃあじゃあやっぱり抱いて……」
「でもやってないからねー。次は頑張ろうねー。またねー」
 最後に投げキッスを寄越して、カカシは去っていった。拳を固めて彫像のようになってしまったイルカの頭に「いい加減にしろっ」とバナナの皮が飛んできた。
 イルカの頭の中はぐるぐると混乱の極みになる。
 そろそろと手を伸ばして、おしりの穴のほうに持っていってみた。つん、とつついてみる。そう、確かに、ちょっと、痛い。これはカカシとの愛を確かめ合った為と思っていたが、巻物だったとは。
「……ビンゴブックに載るような敵と闘う為の巻物だったらいいなー」
 さすが上忍はやることが違うなあと感慨深く思いながらも、とりあえずは巻物がただの雑魚用でなくてよかったなあと思うイルカだった。




「でねーガイ先生。カカシ先生は俺とセックスしてなかったんですよー。どうしてだと思いますぅ?」
「ふむ……」
 ちゃぶ台と仲良くなってへべれけなイルカの横でガイは逆立ち親指立てをしていた。
 カカシが去った後、イルカは元いた酒場を目指してガイと合流した。そのままガイに絡んで今度はガイにおんぶされてガイ宅へと連れてこられた。家についた途端トイレで思い切り吐いたイルカはすっきりして再び焼酎片手にぐびぐびやりはじめた。
「カカシ先生ねー、俺のケツの穴にぃ、カカシ先生のいかす大砲じゃなくて、対上忍向けのすっごい巻物入れたんですって〜。なーんで巻物なんですかあ? 確かにすっごい巻物かもしれませんけどお、俺はあ、カカシ先生のぉ、ちんこがよかったですう」
 ちんこちんこ〜と連呼してイルカは笑う。そしてぐびりと焼酎を飲んであたりめをしゃぶる。げふっとげっぷして、ガイににじり寄った。
「ねえねえガイ先生。俺の何が悪いんですかあ? 俺ぇ、ちゃんと勉強したんですよ? 体はぴっかぴっかに磨いて、特にあそこは念入りに磨いて、舐めてもらっていいようにってすり切れて痛いくらいに磨いたのに! あの上忍、手でしごいたとか言うんですよ!? 手だったら自分でやるっつーの! 上忍のくせにしみったれてませんか!?」
 きーっとなったイルカはガイの頭をつかんでゆさゆさ揺らす。
「こら! イルカ、やめんか! うおっ」
 バランスを崩したガイはイルカの上に落下した。
 うぐっと胸が詰まったような音を出して、イルカはせり上がってきたものを慌ててごっくんと飲み込んだ。
 すっぱいものに涙も盛り上がり、イルカはぐすぐすと泣き出した。
「ね〜ね〜ガイせんせ〜。俺、どうしたらいいんですかあ? 俺いけてないですかあ? 俺、自慢じゃないけどおしりの穴かわいいと思いますよ? 鏡で見たんですけど小さくすぼまっていて、きゅっとしててかわいかったですよ〜。しかもピンク。ガイ先生も見て見ますかあ?」
 イルカはおぼつかない手つきでズボンを脱ごうとにじにじと動く。
「……いや、俺は熱いナイスガイだが、男色ではないからな。尻の穴は見なくてもいい」
 イルカの上からのいたガイはずびずびと泣くイルカを起こして正座で向かい合う。イルカはすでに半分尻がでていた。
 たるんと鼻水を垂らしたままのイルカのことをかっと見開いた目で直視したガイはきえー! と気合いを込めてイルカの頬をはり倒した。




 びちゃっと音がした。イルカの鼻先から飛んだ鼻水はガイ宅の窓にべひゃりと張り付いた。
「な、なにするんれすかーひどいじゃないですかーガイ先生のばかー」
 頬を押さえて女座りとなったイルカはめそめそ泣く。ガイは仁王立ちとなって再びわけのわからない奇声を発して腰に手をあてた。
「この軟弱者めっ。木の葉の忍の風上にも置けぬっ」
「じゃあ風下に置けばいいじゃないですか〜」
 イルカがすかさずへりくつで返すと、ガイはふおーと髪の毛を逆立てて飛び立とうとする白鳥のようなポーズを決めた。
「お前のような軟弱者は俺が、根性鍛え直してやる」
 めそめそ泣いていたイルカはぴたりと固まる。嘘泣きだったのか、何事もなかったように立ち上がりズボンをあげると、玄関に向かう。
「や、根性足りてますんで。俺、カカシ先生のことネバギバ精神でアタック続けますから。ご心配なく」
 イルカの襟ぐりはガイの手にむんずと掴まれた。



☆☆☆



「ガ、ガイ先生……。もう、無理ですっ」
「何を言うかっ。うっ。だが、俺ももう限界だ。さすがにもう……」
 ハアハアと男二人の熱い息づかいが届く。ガイの自宅の六畳間はたちこめる熱気に内側から窓が曇っていた。



☆☆☆



 ガイに引きづり込まれたあと、イルカは羽交い締めにされて台所に連れて行かれた。
「ガイ先生! やめてください! 俺はカカシ先生としかやりませんっ。俺は面食いなんですっ。ガイ先生はかっこいいですけど、でも恋人にするには役不足です。ガイ先生確か胸毛とか生えてたじゃないですか。俺男の胸毛嫌なんですよ。いえ女の人に胸毛はないですけど、それはわかってますけど!」
「黙らんかーっ」
 耳元で怒鳴られて、イルカはぴたりと動きを止める。
 その隙に、目にもとまらぬ早さでガイはイルカの口に瓶をつっこんできた。
 無防備なイルカはとっさにんごんごと飲んでしまう。
「!!!」
 げふ、と500mlの中身半分くらいを飲みきってしまい、イルカは目を回す。ごろりと転がった瓶。
 くらりとなってふらついたイルカはへたりと床に座り込む。ガイを見上げて、ごくりと喉を鳴らした。
「ガ、ガイ先生……。俺に、媚薬飲ませましたねっ!?」
「む? びやく?」
「そーです! 俺がその気にならないからって薬を使ってその気にさせてくんずほぐれつする気ですねっ。俺は負けませんよっ。俺のお初はカカシ先生に捧げるって火影さまに誓ったんです。ガイ先生とはやりませんっ」
 わめくイルカの眼前に、ガイは拾い上げた瓶をずいと差し出した。イルカの目が寄る。瓶には、「酢」とラベルが貼ってあった。
 そういえば、胃の奥底からじわじわとすっぱ〜いものがこみ上げてくる。
 うへーとイルカは顔をしかめた。
「もう。なんで酢なんて飲ませるんですかー。おえ……」
「イルカよ。お前は酢の効能を知っているか」
「知りませんよー。俺あんまり酢の物とか好きじゃないんですから」
「酢はさまざまな効能があるが、なんといっても、体を柔軟にするのだ」
 と言いつつガイは屈伸をして楽々と床に両手をぺたりとついてみせた。
 しかしガイが一体何を言いたいのかイルカにはわからない。
「俺は別に木の葉雑伎団に入りたいわけでもないんでそんなに柔らかくなくていいいんですけど」
「イルカ、お前さっき言ったな。カカシに舐めてもらいたかったと」
「言いましたよ。それがなんですか」
 開き直ってイルカが口を尖らせると、ガイはぽっと頬を赤らめた。
「まあ、その、だな……。お、お前は、女人に、ふ、ふ、ふらちお、とやらを、してもらったことがあるのか?」
 イルカと同じように座り込んだガイがあらぬほうを向いて恥ずかしげに告げるから、イルカもかーっと顔に血が上る。
「な、なに言ってるんですか! おおお、俺自慢じゃないですけど、カカシ先生がはじめてお付き合いする人で、いい年してチェリーなんですよー」
 イルカは両手で頬をおさえて身もだえる。しかしぴたりと動きを止めるとにんまりとしてガイをじっと見つめた。
「ガイ先生も、俺の仲間ですよね? ……ね?」
「な、なにを言うかー!」
 瞬間湯沸かし器のように真っ赤になってぐわーっとほえたガイはイルカの首をがくがく揺すった。
「ちょ、ちょっとガイ先生! おえ! 俺、吐きますよ! ちょっと!」
 目を回すイルカにガイは慌てて手を離す。互いがはーはーと息を乱していた。
「あの〜俺帰っていいですか?」
「ええいっ待たんかっ」
 ガイはイルカの両肩にがしっと手を置いた。
「おお俺が思うにだな、ふらちおというのは、本当に好きあった二人でないと、成り立たない行為だと思うのだ。なんと言っても、あああ、あそこを舐めるのだからな! 並大抵の覚悟ではできないはずだ。うむ」
「でも俺がよくお世話になっているAVなんかだとみんなあたっりまえのように舐めてますよ」
 イルカがあっさり返すとガイはのけぞった。
「なにっ!? 破廉恥な奴めっ! そ、それはきっと、お、お仕事だからだっ」
「ガイ先生ー。俺眠いですー」
「だからだなっ! カカシにふらちおを依頼したいのなら、まずは、自分がそのよさを味わって、身をもってカカシに伝えるべきではないのか!?」
 ガイの大音声が、部屋に響いた。




 30分かけてみっちりと柔軟運動をした。夜中に男二人さわやかに汗をかく。準備はOKだ。
 尻をついて股をぱかりと開く。
 木の葉でも人気の他国のグラビア系アイドルが得意とするM字開脚とやらの要領で。
 すっぽんぽんの下半身めがけて体を丸めて舌をのばす。膝の下からまわした手でイチモツを掴んで距離を縮める。
 めいっぱい舌をのばす。イチモツとの距離は10センチくらい? だろうか。
 鼻を膨らませて息をしながら、かっと見開いた目でイチモツを目指す!
 そのうちだらだらと唾液が舌から落ちていき、それが先端に落ちる。ちらりと隣のガイを見れば、血管がぶち切れそうな必死な真っ赤な顔をして、さすが体術のスペシャリストと言うべきか、あと数センチで届きそうないきおいだ。
 なにくそと負けん気を発揮したイルカは思わず息子をぎゅーと掴んで思い切り引っ張ってしまった。
「!!!」
 くらりと脳がぶれる。頭の奥が白くなる。
「……も・もうやだー!」
 よだれまみれの顔で叫んでイルカはばたりと倒れ込んだ。ガイにぶつかってしまう。
 途端、ガイも緊張の糸が切れたのか、二人並んで畳の上で延びてしまった。ちなみに二人とも下半身は裸である。
 最初は励まし合って“一人フラチオ”を目指していたのだが、そのうち互いに目が血走って、本気モードでイチモツを舐めようと躍起になった。
 畳がよだれで汚れることなどなんのその、目指せ桃源郷とばかりに息子を握りしめ、舌をめいっぱい伸ばして挑んだのだが、さすがに無理があった。不自然に丸めすぎた背中が痛い。握りしめていたイチモツも痛い。が、いい汗かいて酒の酔いはどこかに行き、冷静な思考が戻ってきた。
 息も整い、こうこうとともる蛍光灯の明かりをぼんやりと見てイルカは呟いた。
「ガイせんせー。俺たち一体何してたんですかー」
「ふ、ふらちおの練習ではないか」
「うーん。そうなんですけど、なんでそんな練習してたんでしたっけ?」
「カカシにふらちおをしてもらうためではないか」
「そうなんですけど、なんでカカシ先生にしてもらう為に一人で舐めなきゃならないんですかね?」
「・・・そうだな。なぜだ・・・?」
 寝転がったままの二人はふと顔を見合わせる。
 互いに不信感まるだしの顔で相手の顔を胡散臭そうに見る。
「今更ですけど、影分身したほうが早くないですか?」
「それはならんっ。それは忍のプライドにかけてしてはならーん!」
 ガイは真っ赤な顔をして叫んだ。なんとなくイルカは、ガイが実行済みであるような気がしたがあえて口にしない。なんといっても、上忍だ。メンツをたててさしあげなければ。
「大蛇丸みたいな化け物だったらいつもぺろぺろできて楽でいいですよねー」
「なるほど。あいつはナルシストだからな。きっと毎晩自分で舐めているに違いない」
「ですよね〜。超、変態っぽいっていうか、変態ですよねーあの人」
 すっきりしたら思考も明るくなり、なんとなくイルカは楽しくなってきた。
 起きあがれば外は白々として、とっくに夜は明けていた。徹夜してしまったが、なんとなく気分はいい。フルチンのまますっくと立ち上がり、窓を開ける。男臭いよどんだ空気が外に抜けていく。浮かれる気分のまま、イルカは叫んだ。
「カカシ先生ー。好きだー!」



☆☆☆



 その後ガイと一緒に24時間営業のレジャー銭湯に行きすっきりと汗を流した。
 股のきわどいところにあるカカシからの愛の証を見せるとガイは感動してむせび泣いた。朝っぱらからビールをかっくらって、さわやかな空気の中、鼻歌まじりでイルカは帰路についていた。
 今日は体術の授業があったが徹夜もなんのその、ハイな気分でGOGO! な感じだった。
 だが、警戒に足音は安普請のアパートの階段をあがったところで立ち止まる。
 二つ目の部屋の前、イルカの自宅の前に、しゃがみこんだカカシがドアにもたれて眠っていた。




 急に跳ね上がるイルカの心臓。ざわざわ騒ぎ出すのをぐっと胸を押さえることで耐えて、抜き足差し足でカカシに近づく。カカシの前でしゃがむ。目の前に、カカシの顔があった。
 朝日にきらきらと輝く銀色の髪。色白だけれど軟弱には見えない顔。閉じた目のまつげは特に長いわけではないが、一本一本が丁寧にきれいに生えている。
 ほわんと脳の中がしびれてきたイルカはカカシの頭にふんふんと鼻を埋めていた。なにやらいい匂いがする。さわやかな、それでいて甘い匂い。シャンプーか、香水か、それともカカシ自身の体臭か? 鼻をうごめかしていたイルカはだんだんと動悸息切れ目眩が襲ってきた。
 辛抱たまらんとばかりにカカシのことをがばりと抱き上げた。
 ドアを蹴破るようにして開けるとカカシをベッドまで運んだ。雑誌やらビデオやら服やらを蹴散らかして進んだ。部屋が散らかっているが、とりあえずカカシは眠っているのだからいいだろう。
 そっと窓際のベッドの上に下ろす。穏やかに眠ったままのカカシ。一幅の絵のように、イルカの散らかった部屋の中でも高貴なもののように存在していた。
 イルカはカカシの面布をそっとおろした。毛穴ひとつ見あたらない鼻。うすいつややかな唇。はーはーと息が苦しくなったイルカは口を尖らすと、カカシの口の端にじゅーと吸い付いた。本当は口にいきたかったが、緊張のあまりターゲットをはずしてしまった。
 そのまま吸引するかのように思う存分吸い付いて、きゅぽんっと口を離した。カカシの肌にはイルカの愛の証が赤く残った。
「あ、やべ……」
 イルカの視界はピンクに霞がかる。鼻の奥がつーんとしてくる。とんとんと首の後ろを叩いておく。
 震える指先でカカシのベストに手をかけて、脱がしていく。
 駄目だ、こんなことしちゃあ駄目だ、と理性はイルカに蹴りを入れてくるが、欲望の鉄板が固くガードして、イルカを大胆にする。
 忍服のシャツの中にそっと手を入れると、弾けたようにカカシが笑いだした。
「わああ! お、起きてたんですか?」
 イルカは飛び退いて尻餅ついた。
「あ、当たり前じゃないですか! 忍なんですよ〜。もうイルカ先生、くすぐったいよ〜」
「そそ、そうですよね! 俺たち忍なんですからね」
 でも俺だったら本当に寝てるな、気づかないな、間違いない、と思いつつもイルカはつられて笑った。
 ひとしきり笑うと、カカシがベッドの上からイルカのことをにやにやとからかうように見つめてきた。気まずい心持ちでイルカはちょこんと正座したまま必死でいいわけを考える。
「イルカ先生……」
「えっとですねー、カカシ先生が、苦しそうだったんですよ! うんうんうなっていたので心配になって部屋に入れて、か、介抱しようと思って、服を脱がそうとしたんですっ。そう、それだけです」
 イルカは必要以上に大きな声で豪快に笑う。
「ふーん。それだけなんだ」
 あぐらをかいたカカシは膝のところに肘を載せて頬杖つく。目を細めてじっとイルカを見続ける。その熱い視線にイルカはまたもや脳が霞がかって、よだれがでそうになる。
「俺はてっきりイルカ先生が俺に欲情して、襲おうとしてるのかなあって思って……」
「そそそ、そんなわけないじゃないですかあ!」
「それで、期待したのに」
「いえ実はそーなんです。あんまりカカシ先生が素敵にかっこいいから、ちょっと、ねっ!」
 なんだかよくわからなくなってきた。イルカ自身支離滅裂な感がしないでもないと思いつつ、ぐるぐるする思考でそれでもカカシの笑顔が嬉しくて心は高揚した。
 カカシはそんなイルカのことをくすくすと笑って見ている。
 ああ、やっぱり素敵だなあとイルカはほんわりと体が温まるような幸福感にうっとりとなる。
 落ち着くと、さてなぜカカシがイルカの家の前にいたのかと疑問がわいた。
「カカシ先生、どうしたんですか? こんな朝早くから……あ、そっか!」
 イルカはびしりと敬礼した。
「オビトさんへの朝のお勤めですね。お勤めご苦労さまですっ」
「ああ、うん。それはもう行ってきたんだ。イルカ先生のこと気になって、早めに切り上げてきた。イルカ先生こそ、朝帰りなんて、あのあとどこかに寄ったの?」
 カカシに問われてイルカはにんまりと顔をゆるめる。
「ガイ先生の家に寄ってました」
「あのあとまたガイと合流したの?」
「はいっ。落ち込む俺の相手してくれました。ガイ先生は男っす。押忍! あ、今のダジャレじゃないですよ」
 イルカがきゃっきゃっと笑っていると、カカシは目を伏せてしまう。
 ついさっきまで笑っていたカカシなのに不意に空気が沈む。心配になったイルカはカカシの気を引き立てることを、と思ってことさら明るい声を上げた。
「それでね、ガイ先生と、ふらちおの練習したんですよ」
「ふらちお?」
「あ、フェラチオですよー。あはは。ガイ先生ってばほんと、おかしいですね」
 ね、と言ったまま、イルカの顔は笑顔で固まった。
 顔を上げたカカシのイルカを見つめる目が、初めて見る険を宿していたから。
 不穏な空気にごくりとイルカの喉がなる。
「ど、どうかしたんですか? カカシ先生」
「ガイと、フェラの、練習したんだ……。そう……」
 カカシは、イルカの二の腕を乱暴に掴んだ。
「カカシ先生。どうしたんですか!?」
 焦るイルカのことをカカシはベッドの上に引きあげた。




 くるりと回った視界。イルカはカカシに押し倒された。カカシはイルカの顔の横に手をついて、かぶさるようにしてくる。表情はない。端正な顔でただイルカのことをじっと見ている。
 なんだかよくわからない状況だが、イルカはどきどきして口から心臓が出そうな気持ちを実感していた。
「カ、カカシ先生……」
「ガイとのフェラは気持ちよかった?」
「は?」
 うっとりのなっていたイルカだが、カカシのいきなりな問いかけにまぬけにも口がぱかりと開く。
「ガイ先生のふら? はい? 気持ちいいもなにも……」
「ねえイルカ先生。俺のこと好きだとかセックスしたいとか言ってきたのに、もうガイに乗り換えたの? ガイは確かにいい奴ですよ。でも付き合うとなったら……イルカ先生」
「ははは、はいっ」
「……なんで服脱ぎ始めるの」
「わあ! ばれましたか!?」
 イルカは真剣に語るカカシの下でベストに手をかけてジッパーを下げ、アンダーの裾を掴んで思い切って腹を出したところでカカシに指摘されてぴたりと動きを止めた。
 じっとカカシに見られてだらだらと内心冷や汗が流れるが、ゆるゆると手を動かして、乳首は出してみた。
「いえっ、あの、せっかくカカシ先生が押し倒してくれてその気になってくれたので、ここはしっかりやってもらおうと思って!」
 カカシは何も言わない。ただじっとイルカを見下ろしている。もどかしくなったイルカは胸をカカシに突き出した。
「どうぞ、カカシ先生! 俺のびーちく、もうつんつんとんがってます。とんがりまくりですっ。カカシ先生のこと誘ってます。結構いけてると思うんです。お買い得です! どうぞっ」
 どっどどっどとイルカの心臓は的はずれなビートを奏でる。瞬きも忘れてらんらんと光る目で親の敵のようにカカシを見る。鼻の穴もおっぴろがって、朝風呂ですっきりしてきたはずの下半身がむくむくと起きあがり始める。
「イルカ先生、ガイとのフェラは……?」
「ガイ先生と一人ふらの練習してたんですっ。でも修行が足らなくて成し遂げられなかったんですよっ。もうそんなことどうでもいいですから、早く! カカシ先生!」
 イルカは首を振って悶えるが、冷静なカカシの声がふってくる。
「一人フェラって」
「だから、自分で自分のを舐める修行です。でも体固くてできなかったんです。それに考えてみたら俺は別に自分で自分のなんか舐めたくないです。カカシ先生に舐めて欲しいんです!」
 イルカはとうとうカカシに抱きついた。カカシの匂いを体で感じて昇天しそうなほどにうっとりしたイルカだが、そんなふわふわ感はカカシが吹き出したせいで現実にべしゃりと戻された。
「イ、イルカ先生、ちょっと、ガイと、ひ、一人フェラ!? あ、ありえないよー。。どうしてそういう思考になるのかな〜」
 カカシはベッドにころりと横になると、まさに文字通り腹を抱えて目尻からは涙をにじませて爆笑だ。
「ちょっ、ちょっと待ってね。タンマ。ごめんっ」
 ひーひー言いながらカカシは笑っている。
 乳を出して、下をふくらせ始めていたイルカだが、しゅーんとしぼんできた。カカシは楽しそうだが、イルカはなんとなく気分が良くない。
 カカシのことを思ってガイと頑張ったというのに、それを大笑いされるなど。
「なにが、そんなにおかしいんですか。俺、頑張ったのに」
 イルカはカカシに背を向けて口を尖らせた。すると背中にふわりとぬくもりが被さる。
「ごめんねーイルカ先生」
 カカシからはまだかすかに笑いの振動を感じるが、頬に優しくキスされてイルカはぽーっとなる。それだけでイルカの気分は高揚する。
「ガイ先生とは、一人ふらの練習したあと、朝風呂に行ったんです」
「そっか。楽しかった?」
「はい。でもガイ先生ってば胸毛生えてて俺がひっぱったら、あんv、とか言ってキモい声あげてるんですよ〜。ガイ先生はかっこいいけどタイプじゃないですね〜」
「ふーん」
 ぎゅっと、イルカの前に回っていたカカシの腕に力がこもる。ぬくもりに包まれ、密着してカカシの存在を感じると、イルカはまた頬が熱くなってくる。もしかしたら、今こそカカシとエッチできるかもと期待と妄想で胸は膨らむ。
「あのあの、カカシ先生。俺、俺、今日半休で午後勤でも大丈夫なんですっ。カカシ先生は!?」
「俺は、いつも通り。待たせたらあいつらまた怒るかな」
「そんなこと、問題ないです。俺の満願成就の為なら喜んで一日だろうが一週間だろうが一ヶ月だろうが待ちます! 特にナルトは俺がいかにカカシ先生に恋いこがれていたか知っているのでオッケーです」
「じゃあ、イルカ先生」
「ははは、はい!」
 カカシはイルカにベッドから降りるように促した。そしてカカシはベッドに腰掛けたまま、ズボンのジッパーを下ろす。ごくりと喉を鳴らすイルカの前で下肢をくつろげた。
 目が落ちそうなほど見開いたイルカがカカシを見上げると、婉然と色っぽく口の端に笑みを載せたカカシと目があった。
「俺の、舐めてみる?」




 食事をするときは行儀よくね、と亡くなった母によく言われてた。
 だからイルカは手を合わせて頭を下げた。「いただきます!」ときちんと告げた。
 くわっと口を開けていざ愛しのカカシの股間に突撃した!
 が。
 がっしりとはばまれていた。
 他ならぬカカシの手で。
「カカシ先生! なんですか! 舐めていいんでしょ? 舐めていいって言ったじゃないですか! 俺にぺろぺろさせてくださいよっ」
 がるがるる〜と歯をむけば、カカシははあとため息をついた。
「あのねえイルカ先生。俺は、舐めてみる? って言ったんだよ。食べてみる? とは言ってな〜いよ。そ〜んな歯をむきだして、俺の大事なとこ、食いちぎる気なの?」
「いいじゃないですか! こうなったら舐めるも食べるも一緒ですよ! 俺ちょうど腹減ってきました。是非是非喰わせてください! なんなら、ミルクでも……」
 自分で言っておきながらイルカはぽっと頬を染める。  カカシのミルク……。さぞうまいに違いない。うっとりとそんなことを思ったらはあはあしてきた。
 がっとカカシの膝を掴んで広げると、再突入を試みようとした。
「うっわ。ちょっと、イルカ先生。待ってって言ってるでしょ〜。聞き分けのない子は嫌いですよ〜」
 ぴたり、とイルカは止まった。ごくりと喉を鳴らして、おそるおそるカカシを仰ぎ見た。
「き、嫌い、ですか?」
「そう。言うこときかない悪い子は嫌いですよ」
「お、俺のこと、嫌いなんですかああああ?」
 ぶわっと涙が溢れたイルカはそのままカカシの股間に突っ伏しておいおい泣き出した。
「俺、いい子にしますぅ。だから嫌いになったらやだー!」
「だから、イルカ先生。聞き分けのない子は嫌いだって。イルカ先生、そんなに聞き分けないんですか?」
「違うもん。そんなことないもん。いい子にしますっ」
 顔を上げたイルカはずずーと鼻をすする。カカシはそんなイルカを見てにこりと笑った。イルカの大好きな優しい笑顔。
「泣かないでよイルカ先生。オレも悲しくなっちゃうよ」
 カカシはイルカの鼻にティッシュをあててくれた。イルカはずびーっと鼻をかんで、こしこしと目をこする。えへへとゆるく笑う。カカシもふふ、と笑ってくれたが、ふとカカシの手がイルカの顔に伸びてきた。
「あれ? これって……」
 イルカの眼前、カカシの繊細な指先につままれていたのは、一度見たらどこに生えているのか誰でもわかる不自然にぎざぎざにくねった固い毛だった。
「これって、イルカ先生の下の毛だよねえ。あれ? さっきまで顔にこんなのついてなかったよねえ」
「カ、カカシ先生! シモの毛なんてそんなきれいな顔して言わないでくださいよ! 卑猥じゃないですか!」
 いやん、とイルカは頬に手をあてて身をくねらせる。
「そんなことより、この毛はどこから来たの?」
「さっきカカシ先生が俺の鼻かむためにあててくれたティッシュですよ。そのへんにあったんですよね? 俺最近カカシ先生のこと思ってマスかいてましたから、きっと拭った時にでもついてたんですよっ!」
「ふーん。イルカ先生俺のことおかずにしてたんだ」
 カカシはイルカのシモの毛をためつすがめつしている。
「極上品ですよ〜。もう今までお世話になってたお姉さんたちなんて目じゃないですっ。サイコーっすカカシ先生!」
 イルカはVサインを作ってみせた。
「お世話になっているお姉さんたちって、それってこういうの?」
 今度はカカシはイルカの前にビデオを掲げた。どばんとアップになった官能的な写真。幼い顔をした娘が主演。『はじめての…』という意味深なタイトル。
「こういうの、イルカ先生よく使うの?」
 小首をかしげるカカシにイルカはぶんぶんと首を振った。
「違いますよー。これはおかずじゃなくて、きたるべきカカシ先生と合体する日の為の教材だったんです」
 イルカは胸を張る。そして部屋の隅に適当に重ねてあるピンクビデオをいくつか取り出して並べた。
「これはですね、全部イッた時の顔がいいって評判の子たちだって友達に聞いて、借りてきたんです。ほら、俺経験ないから、どんな顔したらいいかわからないじゃないですかー。カカシ先生に色っぽい俺の顔見て欲しいんですよ」
 イルカはうっとりと胸の前で手を合わせて告げる。きらきらと輝く目でカカシを見つめれば、カカシは少し笑ってイルカの頬を両手で柔らかく包み込んでくれた。
「じゃあ、練習の成果見せてみてよ」
「ええ!?」
 途端、イルカはもじもじとなる。
 きたるべき日の為にと練習していたことだ。だが不発に終わってしまったが一度カカシと肌を合わせてはいる。そうだ。今ここでとっておきの顔を見せることができたなら、その気になったカカシに押し倒してもらえるかもしれない。
「えと、えと。もし俺がいけてたら、やってくれます?」
「そうだね〜。すっごくエロい顔してくれたら、俺きっと勃っちゃうよ」
 カカシはそう言って開いたままの股間に視線を落とした。イルカも一緒に奥の花園に目をこらす。きっとそこはパラダイス。未知の世界が広がっているはずだ。
「じゃ、じゃあ、やりますね! えーと……」
 イルカはこれだ、と思った顔を思い出す。その子が男の上でいった瞬間イルカも昇天しそうになった。それは確か……。
 上向き加減の顔。眉間が悩ましく寄っていた。半開きになった口。薄目を開けて息をつき、快楽に体が時たまぴくりぴくりと震えていた。
「……イルカ先生」
「は、はい?」
「具合悪いの?」
 真面目に心配されて額に手を当てられたイルカはがんと畳に落ちた。
「カカシ先生〜。今のは俺の官能の表情ですぅ〜」
「うっそ? びくびく震えるし顔はしかめてるし、はーはー言ってるし、いきなり具合悪くなったのかと思っちゃったよ〜」
 よかった、とカカシはほっと胸をなで下ろす。
 は〜あ、とイルカは涙がチョチョ切れる。この狂おしい思い。カカシにはいつになったら届くのか。
「じゃあ、俺そろそろ行くね。イルカ先生もお仕事頑張って」
「あの〜。一応聞きますけど、ちょっとは、その気になりましたか〜?」
 イルカは藁にもすがる思いで出て行こうとしたカカシの足にしがみついてみた。
 しゃがんだカカシはよしよしとイルカのことを撫でてくれた。
「萎えちゃった。もっと勉強が必要だね」
 さらりと言われたイルカは今度こそ畳にめりこんだ。




「アスマ先生、これは肉棒ですか?」
 イルカは目の前にある棒状のつくねを目の前にいるアスマにかかげた。アスマはタバコから盛大に煙りをはきだした。
「まあ、確かに肉棒だわなあ」
「ですよね? これが肉棒ですよね!?」
 イルカはじっとつくねを見て、難しい顔をしてうーんと首をひねった。
「なんでカンノーショウセツってものにつくねがたーくさんでてくるんですかね」
「なんの話だよ」
「これですよ」
 イルカは仕事用のサックからがさごそと本を取り出した。ばんとアスマに突きつける。表紙に禁十八のマークもまぶしいベストセラー。その名も『イチャイチャパラダイス』だ。イルカが手にしているのは短編集。ハウツーものとしても秀逸の作品だった。初級編といってもいい代物。
「俺、今これ読んでいるんですよ。カカシさんとの愛の営みの参考にと思いまして」
 えへへ、とイルカの頬はゆるむ。イルカの恋人、カカシは1週間ほど里外の任務にかり出されていた。なんとなく元気のないイルカを居酒屋に誘ったのはアスマのほうだった。
「これですね、難しいからゆっくり読んでるんですけど、やたらと肉棒って表現が出てくるんですよ。もう難しくて難しくて」
「まあ、イチャパラだからな。そらあ出てくるだろうさ」
「ええ!? この作者つくねが好きなんですか?」
 アスマはタバコを思わず吹き出しそうになった。
「何言ってんだイルカ……」
「だってですね、つくねにするとやっと意味がわかりますよ。えーと『先端から汁をしたたらせた肉棒をぬかるみにつきいれた』。これはタレたっぷりのつくねを、醤油かなにかにつけたんですよね。でもタレたっぷりならさらに醤油つけるのはどうかと思いますけど。『女は男の肉棒を舌なめずりして恍惚としゃぶった』。彼氏のつくねを勝手に食べたんですよね。うわー意地汚い。『灼熱の肉棒はまるで鋼のように天を向いてそそりたっていた』。これってあつあつのつくねですよね。でもそり立つって、大げさですね〜。でもってそのつくねを見て相手の女性はうっとりとなるんですけど、これは相当なつくね好きですね」
「つくねつくねうるせーよ中忍」
 滑舌よろしく大きな声で読み上げるイルカの手の甲にアスマに根性焼きをくらわせた。いくら騒がしい酒の席とはいえ、隣のテーブルの女性客数人は明らかに耳をそばだてていた。
「あつっ! あっっっつ! ひどいですよアスマさん!」
 喚きつつサワーのはいったジョッキから氷をつまんだイルカは手を冷やす。アスマは隣のテーブルに背を向けて、壁のほうをむきつつ横目でイルカを睨み付けた。
「いいか、イルカ。その本に書いてる肉棒ってのはな、アソコのこと言ってんだよ」
「あそこって、どこですかぁ」
 涙目で聞いてくるイルカの頭を今度はぱかんと殴った。
「いたいー。暴力上忍!
「てめえ、ふざけてんじゃねえぞ。あそこって言ったら男の急所だ。タマに決まってるだろ」
「タマは棒じゃありません」
 ひくっとアスマは口の端を引きつらせた。
「ああそうだな。竿のほうだ。だからおっ立てたら固い棒みたいになるな」
 アスマの発言にイルカががたんと立ち上がる。
「失礼な! 俺のは棒みたいに細くないです! もっと立派です! せめて冷凍バナナと言ってください! アスマさんは棒なんですかっ!?」
「ふざけんな! 俺のは大砲だ! メガトン級だ!」
 アスマも負けじと椅子を蹴倒す。
 もちろん、二人の周囲は一瞬の静けさに包まれる。遠くにいる客まで身を乗り出してこちらをうかがっていた。
 わざとらしい大きなせきをしてアスマは椅子を直して座る。イルカもつられて座った。
「ちんちんならちんちんってじゃあ最初から書けばいいじゃないですか。この作者おかしいですよー。俺ずっと肉棒ってなんだろうって考えてたから寝不足になっちゃってたんです」
 ぶうと勝手に怒るイルカにアスマのほうは怒りも飛んで、がくりと肩が落ちる。イルカの脳裏には文学的な表現とやらは存在しないのだろう。
「最近の元気のなさの原因はそれだったのかよ」
「え? 俺元気なかったですか? 今朝も三杯飯でしたよ?」
 イルカは目をぱちぱちとさせている。アスマは今夜はおごってやろうかと思っていたがこの瞬間に割り勘に決定した。
「それよりアスマさん、教えてくださいよ。俺ね、色気がないみたいで、カカシさんなかなか抱いてくれないんですよー。だからカカシさんのいないすきにしっかり勉強して、色気まんたんイルカになろうと計画中なんです」
「そりゃあ大変だな」
「カカシさんがぐっときそうなとっておきの台詞とか仕草とか、知りません? カカシさんのツボですよ」
「カカシのツボ?」
 めんどくせーと言いつつ、アスマは考える。それなりにつきあいは長いが、ひょうひょうとして捕らえどころのないカカシが欲むきだしの姿など想像つかない。それなりに女がいた時もあったようだが、それを見せることはなかった。だから、イルカと付き合うことにして、それを公表していることが不思議ではあったのだが。
 ふとイルカを見れば、アスマに質問をふるだけふって、自分は肉棒、ではなくてつくねを食し、ちょうど運ばれてきたサイコロステーキを熱い熱いとフウフウ言いながら食べる。休むことなく焼きうどんをがつがつと食べ、頬をいっぱいにしてまるでリスのようにもぐもぐと口を動かしている。
 アスマの視線に気づくと、声を出せないから、にこっと子供のように笑う。口の端からはうどんがちょっぴり出ている。
 アスマは思わず自分の班の子供たちを、特に食べっぷりがいいぽっちゃり系を思い出す。
 いろいろつっこみどころはあるがそれを押しやってえさを与えたい衝動に駆られるこの気持ちはなんだというのか。
「アスマさん! なんか思い出したんですか? カカツボ!」
 イルカはサワーで無理矢理口の中のものを流し込むと目を輝かせてアスマに詰め寄った。
 アスマは無意識に手が伸びて、イルカの肉付きのいい頬をむにりとつまんだ。
「めしだ」
「は?」
「カカシの前で、うまそうに飯喰ってろ。そしたらきっとカカシはイルカにめろめろだ」
「ええ!? それって、俺の食べてる姿がカカツボってことですか?」
「そうだ。それともう一つ」
「はいっ」
 アスマはイルカからイチャパラを取り上げた。
「もうこの本は読むな」