■木曜日二日目






 見終わった瞬間、思わず顔を見合わせた二人だった。
 イルカは無表情、カカシはにっこりと笑顔で。
 しばしそのまま二人は見つめ合った。
「……カカシ先生」
「なんですかイルカ先生」
「“イルカ”って……」
 イルカは呆然と告げる。
「“カカシさん”って!」
 カカシは喜々として告げる。
 イルカはエンディングが流れている画面をびしっと突き刺すように指さした。
「なんなんですか今日の展開は! 『カカシ』はストーカーですよ! 『イルカ』に付きまとってますよ! シカマルとチョウジに対してソフトなものいいで実はあれ脅しみたいなもんじゃないですか。でもってちゃっかりいいとこどりで助けに来て恐縮する『イルカ』にお前だけでも大丈夫だったとかかっこつけたこと言って! じゃあ助けに来ないで見守っていろよ! あれ内心ではいい気分で『イルカ』の気を引けたと喜んでましたよ。『イルカ』ってばきらきらした目で『カカシ』を見て、『カカシ』の腹黒さに気づいてないです。あの『イルカ』は絶対そのうち『カカシ』に落ちます! あーもー納得いかーん!」
 一気に言ってはあはあと荒い息でイルカは涙目になる。
「落ち着いてイルカ先生。でも『イルカ』は現実のイルカ先生と一緒じゃないですか。ナルトのお色気の術ごときで鼻血吹くなんて。かわいいな〜」
「違う! 俺はあれくらいで鼻血なんて吹かない!」
 イルカは興奮気味に手を振り上げて言い募るが、カカシはにんまりとほくそ笑んだままだ。
「じゃあ、俺のお色気の術で試します?」
 望むところだ! と言おうとして、イルカは懸命にも思いとどまる。
 この上忍、性格には問題ありだが、忍としての実力は認めざるを得ない。イルカが見せてみろと頷こうものなら、それこそ想像がつかないくらいの半端ないものを見せてくるだろう。もし鼻血なぞ吹こうものなら面白がられ、それをネタにしつこくいろいろと言われることは想像に難くない。
 イルカは気を落ち着けるためにとりあえずポットからお湯を注いでお茶をいれた。
「ま、とりあえず、やっとカカイル強化月間としか思えない『イルカ』の話は終わりましたね。来週はカカシ先生の話みたいですけど、きっと俺はもうでてきませんよ」
「だといいですけどね〜」
 意味深な声に、イルカはおそるおそるカカシを見た。
「あの、なにか、ご存じで?」
「さ〜てどうですかね〜」
 はぐらかすカカシの首をしめたい衝動に駆られるがそれをおさえこんでイルカはひきつった笑みを深くした。我慢我慢。
「カカシ先生、アニメも終わったしもう帰られたら……」
「いや〜それにしても、先週と今週は、見ていて恥ずかしかったですよ〜。公の電波で『カカシ』と『イルカ』はできてるって言っちゃったみたいなものですよ。わたしたち、付き合ってま〜っすってね」
 聞き捨てならないカカシの言葉にイルカは目を剥いた。
「なに寝ぼけたこと言ってるんですか! そんなわけありません! 俺はかわいい嫁さん見つけるんです!」
「だってねえ、イルカ先生。さすがにこの2週間の展開はおかしいですよ、カタギのひとも、なんでここで『カカシ』と『イルカ』に接点があるのかと不思議に思うでしょ。しかも過去の時点で上司部下的な関係がしっかりしているのに、その後になにくわぬ顔でナルトを通じて初めて知り合ったかのような展開になるんですよ? しかも『カカシ』は上司なのに『イルカ』に丁寧な言葉使い。これはおかしいってとなりのポチでも思いますよ〜。俺的には大満足ですけどね。だってだって公式で『イルカ』って呼んだんですよ。『イルカ』は『カカシさん』って! 恋人同士ですよ。どこからどう見ても!」
 ずずずと茶を飲んだカカシは満足げだが、イルカは青ざめる。
「え、じゃあ、なんですか、それって、もしかしたら、今までカカイルなんて知らずに生きてきた人たちまで、カカイルに目覚めてしまうってことですか!?」
「そうですね〜その可能性がないとはいえないですね〜。先週なんてカカイルサイトはかなり祭りだったみたいですよ。あ、オンリーでもそのことで盛り上がってたなあ。突発本とかペーパーたくさんもらいましたよ。この間の戦利品今度持ってきますね! 相変わらず『イルカ』と『カカシ』はいちゃいちゃしてますよ〜」
 うふふとカカシは高揚しているが、イルカは畳にめりこむほどにへこむ。
 そのままカカシに背を向けて体育座りとなる。
 この先、もしかしたら、本当にカカイルになってしまうのかと不安を抱えるイルカ寂しい独り身の秋だった。


「ねえねえイルカ先生、そろそろ冬のコミケの仕込み始めないと。意外と〆切早いんですよ。せっかくだからイルカ先生もなんかちょっとしたもの書きませんか? 俺はオフでだしますけどイルカ先生はコピーでも……、ちょっと、聞いてます? ねえ、イルカ先生ってば〜……」