ほわほわ





「……イルカ先生」
「なんですか?」
「あの、なんで、そんなに、近づくんですか」
 純粋に疑問に思って問いかければ、イルカはぶるぶると震えたまま声を荒げた。
「そんなの、寒いからにきまってるじゃないですか!」
 確かにそうだ。イルカはずっと大袈裟なくらいに体を震わせ歯の根は合わず唇を青くしていた。
 二人は今、かまくらの中にいる。大人二人が足を伸ばして座れるくらいの広さはある。天井も腰をかがめる必要があるが立てるくらいの高さはある。入り口は這って出る狭さで、密封された雪の家の中は吹きすさぶ風があたるわけでもなく、思いのほか快適だとカカシは思うのだが。ちらりとイルカを見ればカカシに腕を絡めて寒い寒いと連呼している。
 なぜにこうなったかというと、外が吹雪だからだ。イルカの頼みで修行に付き合い集中するあまり、気づけばざかざか降る雪の中に取り残されていた。急ごしらえのかまくらをせっせと作り、やむまでは、と逃げこんだ次第だった。
「イルカ先生は寒がりだったんですねぇ」
「違います! ふふふ、普通です! カカシ先生がおかしいんですよ!」
 イルカは的確に痛いところをついてくる。一瞬、迷う。だがこれはいい機会だとすぐに心を決める。
「あの〜イルカ先生。確かに俺が寒くないのには理由があります」
「あ! もしかして一人だけこっそりカイロでもしこんでいるんですか? ずるいですよ!」
 イルカはムキになるが、カカシはしがみついているイルカを引きはがして、おもむろにベストを脱ぐ。するとイルカは緊張感まるだしでカカシと距離をとった。
「いくら寒いからって、裸で温め合うとかキモイのはやりませんよ」
 それもいいなあとカカシは考えながら、アンダーを思いきり脱いだ。
「これが、俺が寒くない理由なんです」
 イルカの目が大きく見開かれる。それはそうだろう。驚いて当然だ。カカシの胸と腹、背中もだが、上半身は柔らかな毛で覆われている。腕には生えていない為、ほかほかのベストを着込んでいるようなものだ。
「特異体質で、冬になると体の一部が毛で覆われるんです。おかげで温かいのはいいんですが彼女も作れなくて」
 かなり遠回しだが告白したつもりだ。誰にも見せられないものを見せることで。
 イルカはあっけにとられたのかぽかんと口を開けていたが、愕きがすぎると、次にはうっとりと表情をゆるませて、思いがけないことにカカシに抱きついてきた。
「イ、イルカ先生!?」
「ほわほわだー! ほわっほわしてるー!」
 カカシを押したおし、柔らかく上等な毛に顔をこすりつけすりすりと感触を楽しんでいる。
「俺、俺こういうほわほわしているの大好きなんです! 街でこういうの着ている人見かけるとすり寄っていっちゃうんです!」
 イルカの輝く瞳に後押しされ、カカシはごくりと喉を鳴らして思い切って告げた。
「あの〜、俺の恋人になってくれるなら、もれなくこの毛はイルカ先生のものですよ?」
「ホントですか?」
 イルカの輝く瞳に大きく頷く。
「なる! なります! よろしくお願いします!」



 カカシは幸せをかみしめる。
 一番上等な毛は下のほうにあることは今は内緒だ。
 きたるべき時には、きっとイルカは歓喜の表情でそこにもすりすりしてくれることだろう。
 その時を思いカカシの笑みは深まるのだった。





おしまい