告白





「お邪魔しますよ」
「いらっしゃい」
 思わず体をうかそうとしたイルカだが、はたと動きを止める。この狭い空間では立ちあがることもままならない。カカシは身をかがめて、というよりはいつくばるようにして中に入ってきた。
「これは、すごいですね……。一人で作られたんですか」
 カカシはイルカの向かい側にあぐらをかいて顔を巡らせる。
 二人は雪で作られた家、かまくらの中にいた。
 大人の男が二人入れば余分なスペースは一切ない。立ち上がることもできないが、それでもテーブルにみたてた台は作って、その上に用意したかんてらに灯りをいれ、ステンレスの水筒には熱燗。適当に商店街で買ってきた総菜も少しばかり並べておいた。
 木の葉では珍しい大雪の今年、大量につもった雪を無駄にすることはないとイルカは思い立った。
 幼い頃父と母と一緒に作ったことがあるかまくら。それを大人になった今、一人で作ってみた。アカデミーの中庭の一画に作成したから子供達も休みがあけたら楽しめるだろう。
 休みの一日を朝から使って、完成したのは夕方。カカシには前もって連絡をいれておいた。上忍の忘年会が終わってからでよければと快諾をもらい、一度家に戻ろうかと考えたが、そう思っていた矢先にカカシはやってきた。
 まずは一献とすすめれば、カカシは小さく笑って受け取る。恒例ともいえる今年1年の挨拶を交わして、最近の互いの日常を話せば、ふと会話が途切れてしまう。
 橙色に浮かび上がる白い家。冷えてしまった揚げ出し豆腐をそれでもカカシはうまそうに口に運ぶ。ごくりと熱燗で喉を潤したイルカは、カカシ先生、と改まった声をだした。
「俺、急ですが新年あけて早々に木の葉と同盟を結んでいる里に一年ほど赴任することになりました」
 カカシの箸を動かす手が止まる。顔をあげて真っ直ぐにイルカに視線を向ける。何回か飲みにいって見慣れたはずの整った顔なのに今更だがイルカは頬に熱を持つ。
 互いに忙しくて久しぶりに会ったカカシ。手を伸ばせばすぐに届く近しい距離にいるカカシ。
 このままでも、と最後になってひるみそうになる心を叱咤する。
「それで、あの、ずっと言いたかったんですが、俺ずっとカカシ先生のこと好きでした。一年が長くなる可能性もあってその前にどうしても伝えておきたくてそれで、すみません、でも俺」
「遊びに行きますよ」
「ええ、是非遊びにって、ええ?」
 焦って言葉を並べたてていたイルカを遮るようにカカシは静かに告げた。イルカは思わず目を見開いてカカシを凝視してしまう。にこにこと笑みを崩さないカカシにイルカはおそるおそる言葉を重ねた。
「……俺、女性のことを好きな意味でカカシ先生のことが好きなんですよ?」
「うん。わかってる。俺もだよ」
 イルカは息を飲む。そのまま氷のように固まってしまう。カカシの手が伸びてきて、イルカの頬をはさんでそっとあわされる額。
 冷えた空間がそこから派生する熱でぬくまっていくようだ。
 いたずらめいた表情でカカシはありえないくらいの近さでイルカのことを見つめてきた。
「何年でも待つし、会いにもいく。イルカ先生だって里に帰省する。なにも問題ないじゃない」
 大丈夫だよ、と吐息のような囁き。美しい色違いの瞳にはイルカと同じ熱が灯っている。
 かなうわけがないと思っていたことが突然に現実のものとなった喜びに、イルカは笑って、そのまま涙を落とした。



 ぽとりと雪の家に落ちた透明なしずくがオレンジの灯りにきらりと輝いた。





おしまい