あまいからだ    








 流れ落ちてくるシャワーのお湯が、喘がされて口を閉じることがかなわないイルカをさらに苦しくさせる。
 さきほどからカカシの不埒な手がイルカのすべらかな体をはい回っていた。
「も、苦しい・・・。やめ・・・」
 もうもうと煙る風呂場で、イルカは力の入らない体を立たされたまま後ろからカカシに支えられるような格好になっていた。臀部には屹立するカカシの固い欲望がさっきからあたって嫌なのだが、力の入らない体ではもたれかかるしかなかった。
「カカ・・・っさん、いいかげんに・・・!」
「待って、もう少し・・・」
 イルカの胸のあたりで遊んでいたカカシの手がおもむろに下半身に伸びてきた。カカシがしようとしていることがわかったイルカは阻止しようと手を伸ばしたがカカシの力をおさえることはとうていできなかった。
「やめ、ああ!」
 きゅうっとカカシがイルカの性器を優しく手の平で包む。繊細な手つき。それだけでイルカはとろけそうな快感に脳がふわふわとする。
 がくっと力が抜けたイルカは更にカカシに体重をかけてしまう。それがちょうどカカシの欲望を尻の間にはさみこむ形になってしまい、カカシはえたりとばかりに腰をうごめかす。前は手でいじられ、うしろからは微妙な位置を標準男性より大きめのカカシに刺激を与えられ、ほどなくしてイルカはカカシの手の中に放ってしまっていた。





「もう・・・もうっ! 俺は、熱いのは、嫌なんですよ! 何回目ですかこれ言うの」
「へへ〜。ごめんなさい〜」
 湯あたりを起こしたイルカを自分のベッドに寝かしつけ、額には冷えたタオルを載せてやったカカシは、反省の色がまるで感じられないしまりのない顔でへらへらしている。謝りながらも指先はイルカのつるつるな頬で円を描いている。
「ほんと気持ちいい。大好きイルカ先生」
 すりすりとそのうち頬ずりしてくる。
「邪魔! 寝かせろ!」
 その頭をぽかりと殴ってイルカは背を向けた。

 つるつるつやつやの実体を隠していたイルカの秘密がひょんなことからカカシにばれたのが大雪が降っていた冬の始まりの頃。あれからふたつきほど経過した。
 ばれる前から何かとイルカにちょっかいかけていたカカシだったが、イルカの秘密を知ってからのカカシのちょっかいはセクハラになった。イルカに好きだ好きだとまとわりつき、強引に家に来て泊まりこんだりして、ある日気づいたらあれよあれよとカカシに剥かれてその口の中に逐情させられて唖然呆然。初めての他人の体への逐情が男で、しかも口の中。
 イルカはその時本気で泣いた。しかしカカシは大満足で、あろうことかおいしそうに飲み干して、名残惜しげにぺろぺろと舐めてさらにイルカを煽った。


 ねえイルカ先生。
 ほんとの本気でイルカ先生のことだ〜い好きなんです。もう愛しちゃってんです。そりゃあ男同士ですけど、考えてみてくれませんか? イルカ先生と寝たいけど、俺のこと好きになってくれるまで我慢します。あ、でも、俺はイルカ先生のこと気持ちよくしてあげるね。


 なんてことを畳の上で半裸のまま意識を飛ばしていたイルカにカカシは囁いた。イルカの頬を両手ではさんでうっとりとして、顔中にキスを降らせながら熱心に口説いてきた。
 勿論イルカがすぐに許すはずもなく、顔を背けて無視を決め込んでいたが一晩中好き好きオーラとともに抱っこされていたら、そのぬくもりにほだされた。
 確かにショックだったが、おもにそれは羞恥からくるもので、それを差し引いて考えれば、さし当たってカカシを拒絶する理由は見あたらない。同じ男の目から見てもカカシはかっこよくて優秀。そこそこ女性にもてている話も聞いたことがある。そんな男が好きこのんでイルカに告白したのだから悪い気はしない。まあしばらく付き合ってやるさ、と根が単純なイルカは少し気分良くカカシの申し出に頷いてやった。
 しかしその後ちょっぴり後悔したのはカカシがイルカにスキンシップを求めることの過剰なところだ。確かにまだつっこまれたことはないが、はっきり言って体中、すでにカカシが触れていないところはない。カカシはイルカのつるつるもちもちな肌が大好きだ。任務さえなければ毎晩毎晩イルカのところに転がり込んだり自宅に連れ込んだりで触れてくる。カカシの過剰接触で寝不足に陥ったときは出入り禁止を申し渡し、それ以降少しは控えめになりはしたが、今夜もカカシの家でごはんを食べて帰宅しようとしたが風呂に丸め込まれて、嬲られてしまった。カカシの押しが強いこともあるが、イルカも自分の流されやすいところは自覚していた。
 カカシは基本的にイルカを甘やかすから、甘えることに慣れていないイルカはつい流されてしまう。
「イルカ先生。もうおいたはしませんから、一緒に寝ていいですかー?」
「・・・嫌だって言っても潜り込んでくるくせに」
「まあそうなんですけど、一応お伺いをね」
 イルカは嫌味ったらしく溜息ついて背を向けたまま体をずらした。途端に潜り込んできたぬくもりはぎゅうっとイルカを抱きしめて、パジャマの裾から手をしのばせてきた。
「ちょっと! カカシさん!」
「違います〜。触るだけです〜」
 イルカの腹の辺りをすりすりとカカシは撫でる。
「ああー。ほんっとに気持ちいー」
 不埒な手をぎゅーっとつまんで、イルカは丸くなって防備した。
「もう! 湯あたりで気持ち悪いんです。静かに寝かせてください」
「ごめんごめん。そんな、怒らないでよ」
 懲りないカカシは丸くなったイルカを体の中に抱え込むようにしてひしと抱きしめてきた。とりあえずは服をめくるようなことはしてこなかったから、そのままイルカは眠りについた。

  


 つやつやのイルカが食堂で遅い昼をとっていると、向かいに座る者がいた。
「よーう。元気か」
 挨拶代わり、とばかりにアスマの手の甲がイルカの頬に触れた。
「アスマ先生まで、いちいち触らないでくださいよ」
「悪ぃ悪ぃ。でも気持ちいんだよな」
 アスマは悪びれずに煙草をふかしている。
 カカシに体の秘密がばれてからもイルカは頑なに赤黒い顔をしてアカデミーに通っていた。だが念入りなメイクを施すよりも変化のほうが便利なことに気づいてからはもっぱらそうしていたが、ある日風邪を引いた日に、高熱のまま変化を続けたイルカはぶっ倒れてしまった。その時に変化が解かれて秘密がばれ、それからは真っ白でつるつるな姿をさらすようになった。確かに最初は同僚に驚かれたが何が変わるというわけでもなく、しいて言えば面白がった同僚がつるつるの肌に触れてくるくらいだった。自意識過剰だった自分を反省したイルカだったが、思えばカカシはそんなイルカに焦燥感を抱いたようで、おいたを致されてしまった。何を焦ったのか、イルカにせまる輩がいるとでも考えたらしい。
 後日カカシから聞いたところでは、アスマは顔色の悪いイルカを心配していたとのことで、アスマには直々に隠していた経緯を説明していた。ついでにカカシが余計な説明を加えたため、二人がとりあえずは付き合っていることをアスマは知っていた。
「しかし最近ますます調子いいんじゃねえか? カカシのおかげか?」
「は? なんでカカシ先生のおかげなんですか? どっちかというとカカシ先生のせいで寝不足になったり散々ですよ」
「だからよ、あいつと励んでいるからだろ」
「励む? 何をですか?」
「みなまで言わせるか」
 煙を吐き出したアスマはにやにやと口元を歪めた。
「励むっていったらアレしかねえだろ? カカシと毎晩セックスしてるんだろ? あいつ好きだからな」
「し、してませんよ、そんなこと!」
「はあ? 付き合ってるんだろ、お前ら」
「だから、まずはお試しなんです。だから、してません。ま、少しはそれに似たことは、してますけど」
 赤くなった顔でイルカが小さく告げると、アスマはぽろりと煙草の灰を落としていた。
「マジかよ? 信じられねえ」
 いつも冷静なアスマが驚いているから、イルカは恐る恐る聞いてみた。
「あの、変、ですか?」
「変かどうかは知らねえけどよ、普通に考えてそりゃあ蛇の生殺しだなあ。好きな相手に触ってそれだけでなんとかそれで我慢してるんだろ? お前だって男なんだからよ、それがどれだけすごいことかわかるだろ」
 イルカは箸を銜えたまま目線をカレーうどんにさげてしまった。
 さすがにこれは恥ずかしいから誰にも、もちろんカカシにも言ってないが、イルカはまだいわゆる経験とやらをしていないのだ。女は勿論、男だって。体の秘密を必死に守ることにばかり頭がまわって、お付き合いなど二の次になっていた。だから、こんなにイルカの体に触れてきたのはカカシが初めてなのだ。男ならカカシの気持ちがわかるかと言われても、正直わからない。本当にわからない。カカシほどの人間がイルカに執着する理由なんてわかるわけがない。
 沈んでしまったイルカの頭をぽんぽんと叩いたアスマはそのまま行ってしまった。

 

 イルカがぼんやりとどてらを着込んだままテレビを見ていると後ろからかぶさってくる男がいた。
「イルカ先生〜。会いたかったよ〜」
 少し土臭い匂いのするカカシがすりすりすりと頬にすり寄ってくる。いつもと違ってじょりっとひげの感触がする。思わず片手でカカシを押したイルカだが、カカシはめげずにその手を取るとすかさず口の中に指を含んだ。
「カカシ先生!」
 イルカは慌てたが、カカシは片目は額宛てで覆ったまま、口布を下げた余裕の態度でイルカの指を口の中に出し入れする。イルカが指先に力を入れてひこうとすれば少し歯に力を入れて咬み、イルカがひるむとまた優しく舌先でつついたりねっとりと舐め上げたりする。
 イルカの指三本ほどを銜えるその姿はまるで性器を模したようで、イルカは一瞬にして頬に血を上らせた。
 カカシは一週間ほど任務に出ていた。
 少しの土臭さとかすかな血の匂い。頬は鋭角が際立ち、顎には無精ひげ。イルカをじっと見つめる目はいつもと違いどこか酷薄で、カカシのいい男ぶりを意識した。こんな、男の目から見てもやっかみもなくいい男だなあと思えるカカシが、何故イルカの指などしゃぶって悦に入ってるのだろう。
 などとぼんやり思っていたら、カカシの膝頭がイルカの股間をつついてきた。
「っあ・・・」
 思わず甘い声を上げたイルカが咄嗟に下を見ればゆるく立ち上がっているではないか。カカシはイルカに膝を閉じる隙を与えずに体を割り入れてくる。口から指を抜くと、イルカの頬をべろんと舐める。そのままぐいぐいとイルカの股間を押してくる。イルカが上と下とどちらにかまければいいのか迷っているうちにカカシは直接イルカの下肢を握りこんできた。
「カカシ先生!!! んっっ・・」
 イルカの感じるところを知っているカカシは的確に攻めてくる。イルカが首を振って逃れようとするのを許さずに、カカシは唇を合わせてきた。舌をきつく絡め取られてむさぼられ、唾液が口角から落ちていく。息が切れそうになる時に絶妙なタイミングで一瞬口を離し、イルカが喘いで酸素を入れるとまた嬉しそうに口を塞いでくる。
 キスだけでぐったりとさせられたイルカは気づけば畳の上に寝かされていた。それだけではなく髪も下ろされてどてらは脱がされて上着を胸元までまくり上げられていた。イルカに馬乗りになったままカカシは上着を脱ぎ捨てた。
 潤む視界に傷の増えた気がするカカシの鍛えられた理想的ともいえる白い裸体が見える。
「イルカ先生、ごめんね。でも俺もう我慢できない。あとで文句はいくらでも聞くから、抱かせてね」
「・・・俺が、好きになるまで、我慢するんじゃ、ないんですか?」
「そのつもりだったけど、いつまでたってもイルカ先生なびいてくれないんだもん。俺もほら、健康な二十代の男だからね」
 ぐぐっとカカシがのしかかってきて、イルカの耳元で囁いた。
「お願い。させて。ね・・・」
 その甘い声に、イルカはとろけた思考をもてあまして何度も頷いた。

 

「ぅわあああっ・・・・」
 叫びながら目を覚ました。目の玉が飛び出るくらいにくわっと目を見開いた。
「ゆ、夢か・・・」
 頭上にメガトン級のおもりが落ちてきたほどのショックをイルカは布団の中でかみしめる。
 カカシとの淫行に慣れきった体だとはいえ、男に煽られる夢など見てしまうとは・・・。しかも、夢の内容はなんとなく、カカシに抱かれたがっているようなものではなかったか?
 確かにカカシは今任務にでいて、しばらく触れられていない。これではまるで、欲求不満のようではないか・・・。
 喉の奥から絞り出すようなうめき声をあげる。
 それにしても重い。お気に入りの羽布団なのに、どうしてこんなに重いのだろう。ショックのあまりぼんやりとしていた視界の中に、こんもりと盛り上がった布団が目の前に見える。夢のショックからゆるゆると現実感を取り戻し始めると、ずっしりと体にのしかかる重みに完全に目を覚ました。
 思い切りかけ布団をはねのければ、すっぱだかのカカシがイルカの上に乗っていた。むにゃむにゃと言いながら丸くなったまま寝ている。イルカが大声を出したというのに全く起きる気配もなく、よだれまで垂らして幸せそうに眠っている。
 ぎこちなくベッドの脇に視線を動かせば脱ぎ散らかされた忍服がある。夜中に任務から戻ってきたカカシがイルカの家に忍び込んでそのまま布団にもぐりこんだというところか。
「イルカせんせーい・・・・・・」
 へらっと笑ったカカシはイルカの名を呼び、かくかくと腰を動かしている。
「・・・・・・・・・」
 腰の辺りにはなにやら覚えのある感触があたる。こんなことをされていればあんな悪夢だって見るはずだ。
 カカシに合い鍵を渡してはいない。立派な不法侵入だ。犯罪者だ。
「カカシ先生・・・」
 イルカは胸のあたりにあるカカシの髪を優しく撫でて甘い声で囁いてやった。
 カカシはぱちりと目を開けて顔を上げた。
 イルカの顔をみとめて満面の笑顔になった。
「おはよーイルカ先生。会いたかったよー」
「いつ任務から戻られたんですか?」
 ことさら笑顔でイルカが尋ねると、カカシはずいと顔を近づけてきた。
「夜中ですよ。イルカ先生起きてくれないから、一緒に寝ちゃいました」
 全く悪びれないカカシ。よだれのあとを頬にはりつかせたまま唇を突き出してキスしてこようとする。
 その唇を右手の人差し指と親指で上下につまむ。
 カカシは何が起こったのかわからないのかもごもごと口を動かしている。イルカはそのままひねってやった。
 そして、頬を膨らませて鼻の穴をうごめかすカカシの頭を左手の拳骨で打ち下ろした。
「10秒以内に出て行かないと殺しますよ」
 とろけそうな笑顔を見せたイルカはカカシを叩き出した。





中に続く!