×月◆日
そろそろ限界だ、と危険信号が点る。
×月●日
別にイルカは特に強いほうではないが、最近もわもわするのだ。軽いノリでAVでも見て一発抜けばいいだろうと思うのだが、カカシとの生活でそれも大っぴらにすることはためらわれ、ふつふつとたまってしまったのかもしれない。
本日イルカは休み。カカシはさきほど支度を調えて、修行に行ってくると出て行った。
イルカは今しかないとばかりに台所の棚の奥からごそごそと秘蔵のビデオを取り出す。豊富にコレクションしている友人から借りたのだ。
かなり厳選してくれたらしく、パッケージからして鼻息が荒くなる。女優もイルカの好みの素朴な普通っぽいかわいい子だ。
うひひ、と下品に笑ったイルカは傍らにティッシュを用意して見始める。
ストーリー仕立ての話だが、早いうちから絡みがある。
きっと今この家の空気はピンクになっているに違いない。イルカも無意識に下肢に手をつっこんでごそごそし出す。
下着の中ですでに半たちになっている下肢をやわやわと握り込めば手の中で容積をましてくる。テレビから聞こえる喘ぎ声にイルカもほうと熱い息を出す。下着を汚すのはよくないなとイルカはズボンごと下着を引き下ろし、いざ、と両手をかけた。
その時。
がらりと窓が開いた。
カカシが、いた……。
くわっと目を見開いたイルカは大あわてで背を向けたかったがわたわたと足をばたつかせてきょろきょろとあっちこっちを見て助けなんてあるわけないのに助けを探す。
なんたることだ。一番見られたくなかった奴にあっさりしっかり目撃されるとは。
「カカカ、カカシ! な、何も言うな。と、とにかく、今、立て込んでるから、でで、出てってくれ!」
そんなイルカのせっぱつまった声にかぶせるように、テレビの彼女は「もっっとーv」とか「いっちゃうーv」とか甘ったるい声を上げている。
そうだ、カカシ。どっか行ってくれ!
カカシの静かな視線から逃れるすべもないイルカはとりあえずぎゅっと目を閉じた。どっくんどっくんと体中が脈打っている。
「イルカ」
気配もなく、いきなり耳元で聞こえた声にイルカはびくりとして目を開ける。
カカシが、いた。息がかかるくらいの近くに、いた。はっと気づいたイルカは足を閉じようとしたがカカシが間に入り込んでいてそれもかなわない。
イルカは足を広げて、立ち上がったままの性器を両手で握り、目の前にはカカシ。なんて情けない、間抜けな構図。
カカシは余裕の笑みを口元にしいて、イルカの鼻の傷に口づけてきた。
「いいよ、イルカ。わかるよ。たまってたんでしょ? 俺が手伝ってあげる」
「! いいからっ。とにかくどっか行ってくれっ」
イルカは必死になって顔をそらすが、その耳元にカカシは息を吹きかける。
「大丈夫だから、俺にまかせてよ」
甘い低い声がいっぱしの大人のようで、イルカはくらくらする。
一瞬ガードが揺るんだイルカを見逃すことなく、イルカの性器にカカシの手が、触れた。肉球つきの、あの、手が。
「んっ」
イルカはその感触だけで突き抜けた感覚に鼻から息をこぼす。
声を上げたくなくて、咄嗟に両手で口を覆う。するとバランスが悪くなって、カカシの肩にもたれてしまうことになる。
「イルカの声、聞きたいなー」
カカシが囁くがイルカは首を振る。かわいい、と続けて言われて更に激しく首を振る。
そんな間にも無防備になったイルカの性器に触れるカカシの手は止まらず、緩急つけながらもてあそぶ。根元を押さえられてもう片方の肉球で押したり揉んだりすったりとカカシはやりたい放題だ。先端からはとっくにじゅくじゅくと音がするくらいに溢れて、カカシの手を汚してしまっていると言うのに、カカシは根本を緩めることがない。
イルカは開放されたくて、身をよじる。
「カ、カカシっ!」
「いきたい〜?」
イルカのせっぱつまった声でわかっているくせにカカシはわざとらしく聞いてくる。イルカが急いでこくこくと頷くと、イルカの耳に熱い息がかかり、カカシの猫のようなざらざらの舌が耳の中につっこまれて、嘗め回してくる。
「ああ、や、め……!」
イルカはか細い声を上げてしまう。くすりとカカシが小さく笑う。
「イルカ、テレビの人みたいだよ。か〜わいい」
そう言われて、閉じていた目をうっすらと開けたイルカは、幕のかかった視界に映った映像にぎょっとなる。
テレビのシーンでは、男の膝の上に乗った彼女が、男にしがみついて腰を掴まれて激しく下からうがたれていた。体が揺れるたびに彼女からは甲高い喘ぎがこぼれる。今のこのシチュエーションと似ているではないか!
そう意識したら終わりだった。イルカは体の欲求にさからえずに、カカシにぎゅうとしがみつくと腰を動かす。
「え? イルカ?」
とまどうカカシをおいて、カカシの手の中で果てようと、高みを目指す。
「ごめっ、カカシ、俺、……イク!」
どくんと跳ねたのは、心臓と、性器だった。
脱力してずるずると倒れ込みそうなイルカをカカシがめいっぱいの力で抱きしめる。気持ちいいが、屈辱だ。
「イルカ、なんか、いっぱい出たけど……」
出た、という言葉と、下からの匂いに、イルカはふわふわの気持ちよさは吹き飛んだ。
「だ、駄目だ! 駄目だからな、舐めるなよ!」
体を離して、カカシの手にべったりとついた己の精液をめちゃくちゃ慌てて服で拭き取る。夢中で、強く肉球を押してしまってはっとなる。カカシは、肉球でスイッチが入るのではなかったか?
ごくりと喉を鳴らして、カカシの下肢を凝視する。変化はなさそうだ。おそるおそる顔を上げれば、カカシは笑っていた。
「大丈夫だって言ったでしょう? 俺はもう肉球なんかでスイッチ入らないって。それにセーエキもなんかどうでもよくなってきたんだよね」
くすくすと笑われて、猫耳のカカシにぽんぽんと頭に触れられる。まるで、あやされるように。
「でーもイルカの痴態はやばかった。ちょっと反応しそうになった」
痴態……。
あまりな言われように、イルカはがーっと体中恥ずかしさがかけめぐる。
「わ、悪かった。悪かったけど、窓から、入るな!」
「だ〜って玄関から何度も呼んだのに、返事しないから、気配はあったけど聞こえてないのかと思ってさ。仕方ないじゃない」
忘れ物に気づいて戻ってきたらイルカが一人エッチをしていたということだ。
タイミングの悪さに泣きたくなるが、醜態をさらしてしまった後だからもう今更何を言っても仕方ない。
カカシの肉球でいかされて、屈辱だが、気持ちは、よかった。
カカシは機嫌よさげにイルカのことを見つめているがイルカはいたたまれない。ふて寝だ。こんな時はふて寝に限る。
「イルカ?」
カカシを押しのけてベッドに倒れ込みタオルケットにくるまったイルカだが、カカシはなかなか出かけようとしない。
「いいから、早く行けよ。修行だろ」
「うん。行くけど、イルカ、泣いてない? 怒ってない?」
「誰が泣くか!」
くわっと顔を上げれば、ベッドに身を乗り出していたカカシが心配そうに、イルカを見ていた。さっきまでの大人の顔ではなく、イルカに嫌われたりしてないか心配する子供の顔。アンバランスなカカシにイルカは力が抜ける。
「泣いてもいないし、怒ってもいない。だから、早く行け。待たせてるんだろ?」
「うん。でも」
ぐずぐずと行こうとしないカカシにじれて、イルカは怒鳴った。
「よかったから! すっきりしたから! これからぐっすり寝るんだよ。だからカカシはとっとと修行してこい!」
恥ずかしながら口にすれば、やっとカカシは安心して頷いた。
やれやれとイルカはほっとしたが、出て行きしなにカカシはくるりと振り向いた。
「これかはら我慢しなくていいよ。いつでも言ってよ。俺、手伝うから。イルカの、喘ぐ姿、もっと見たいし」
にんまりとした顔はやらしげで、しっかり大人のものだった。
「……」
ばふんと倒れこんだイルカの真っ白になった脳に忘れていたテレビからの声が聞こえた。
彼女は、
「気持ちよかった」「もっと欲しい」と言っていた。
イルカは欲しくない……。
ヲハリ。
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本編の見えないところでもしかしたらこんなこともあったかなって話です。