3.




「わたしだってねえ、好きで忍び込んだわけじゃないですよ? カカシぼっちゃまのために仕方なく前科一犯を覚悟で屋敷に入り込んだわけですよ」
 ナマハゲ衣装を再びかぶって、開き直ってイル村さんは語る。
 確かに悪気はないだろう。イル村さんの行動は全てにおいて悪気がない。
 だがさすがにやっていいことと悪いことがあるとパックンは思うのだが、イル村さん的にはこれはやっていいことの部類なのだろう。
「おまえさん、さっきカカシのことを守るために戻ってきたと言ったな。それはどういうことだ。何かあったのか?」
「そう! そうそうそうそう! それですよパックン!」
 イル村さんはいじけてもともと丸い背中を更に丸めていたが、衣装を投げ捨ててぎゅわっと鬼気迫る顔でパックンに迫った。
「事件ですよ事件! 事件の匂いがぷんぷんなんですよ!」
 びちびちと前ビレを振ってつばを飛ばさんばかりのイル村さんの慌てっぷりにパックンもむくりと起き上った。
「なんじゃ? 事件とは穏やかでないな」
「大蛇丸さまですよ大蛇丸さま! ちょっと、いやかなりきもいぼっちゃまの叔父さん!」
「大蛇丸だと?」
「そーなんですそーなんです! お屋敷をわたしのものだとか、ぼっちゃまは人間なのにペットに欲しい人間がいるとか! わたしがお屋敷を追い出された日の夜に聞いちゃったんですよおおおお!」
 興奮するイル村さんと違って、パックンは表情を引き締めた。
 大蛇丸が屋敷を狙っていることは前々から知っているが、何故か行動には移してこなかった。それがとうとう動くということか? しかも、屋敷だけならまだしも、ペットだなどと、聞き捨てならないことを言っているではないか。
「イル村さん、今の話は本当じゃな? 大蛇丸は屋敷だけではなくてカカシのことをペットだなどと不穏当なことを言っていたのだな?」
「嘘なんか言いませんよ! 正直親切丁寧お節介がわたしのモットーなんですから! それに、海豚の耳ははんぱなくいいんです! しかと聞きましたよ!」
「そうか」
 これは急いで対策を取らねばならないとパックンは考えたわけだが、ふと、思い至ったことに気をらとられる。今となってはどうでもいいことではあるが、イル村さんに確認していた。
「イル村さん、あんたが屋敷を追い出されたのはひとつきほど前になるかな?」
「そうですよ〜。あっという間にもうすぐ年の暮れです。素敵なおせち料理作ろうと思っていたのになあ〜」
 はふーとイル村さんはごちそうに思いを馳せてため息だが、パックンは呆れ返ってため息を深く深くこぼしていた。
 どうしてそんな大事なことをさっさと報告しないのだと怒鳴りつけてやりたい衝動が一瞬起こったが、すっとこどっこい家政夫に言っても仕方ないと思いとどまる。
 今は何より対策を練ることだ。
 出遅れてしまったことは間違いない。
 あの秋の日にカブトが訪ねてきた。話の内容をカカシは教えてはくれないが、どうせ屋敷の権利についてのことだろう。だがあの悪党たちは屋敷ばかりではなくカカシのことまで物として扱い金銭に替える腹積もりということか。
 イル村さんがきいた会話がひとつきほど前ならば大蛇丸がいつ行動を起こしてもおかしくないだろう。
「イル村さんや」
 パックンの固い声にイル村さんはぱちぱちと瞬きを繰り返す。
「はい?」
「カカシのためにきりきり働いてもらうぞ」
 パックンの命令にイル村さんはぴしっと背筋を伸ばした。
「はいいい! 不肖イル村、死ぬ気でやらせていただきまっす!」
 頼りになるかならないか正直よくわからないが、やる気とカカシのことを思って必死になってくれることは間違いないだろう。
 苦笑しつつ、パックンはよろしく頼むと重々しく頷いた。



→4