仔猫ちゃん 後編
「!!ちょっ、と! おい! やめろって!」
イルカとしてはつい出来心めいた気持ちで“にゃあ”と言ってしまったにすぎないのかもしれない。だがカカシにとっては違う。次に進むことを許して貰った、承諾の声だ。
「カワイイ。かわいいかわいい。もう一回。もう一回“にゃあ”って言って」
「ばっ……かじゃねえの! いわねえよ!」
シャツを思い切りたくし上げて胸にむしゃぶりつけば必死で抵抗しようとしていたイルカは「あ」とか細い声を漏らした。イルカの制止の声を無視してそこをべとべとにして、荒く息をつく。そのまま体を下にずらし、うすい草むらにゆるく立ちあがったままのものに手を添えてぱくりと口に含んだ。
「! ばかっ! やめろってさっきから言ってるだろ!」
イルカは上半身を起こすとカカシの頭をのかせようと両手で突っぱねる。
結構な力で髪を引っ張られるがカカシは気にすることなく口の奥深くイルカを招き入れた。
「ぅあっ……んんん!!」
かくりと力が抜けたイルカだが、それでも広げた足をカカシの背に打ち付けてくる。カカシが全く躊躇うことなく口の中で出し入れを始めると今度は足を絡めてカカシを抑えつける。結局、手は突っぱねようとするが足は押しつけているからカカシはその位置で固定されたまま、イルカを味わっていた。
「センセー!」
悲鳴のようなイルカの声がする。イルカが何を必死に抵抗しているのか、それくらいはわかる。さきほどから言っているように風呂に入っていないからと気にしているのだ。
だがイルカが思うほど匂っているわけではないし、どちらかといえばこれくらいのほうが興奮する。もっともっとイルカの素の匂いをかいで酔いしれたい。
夢中でしゃぶって舌をからめて先端をねろりと舐めて軽く歯をたてれば、イルカのものは大きく膨らんでひくひくと震える。先端から耐えることなく漏れ出るものを舐め取って、ちゅうと吸いつけばイルカは息を飲む。
「も、やだ…って。ばか、ヤロー……」
鼻をすする声に顔を上げれば、イルカはなんとか両肘を背後についてはいるが、くったりと力が入らない様子で堪えるようにせつなげに目を細めている。
目が、あった。カカシの視線にかすかに目を細める。無意識の媚態ともとれる色っぽさにごくりと喉が鳴る。
目元を赤くして、瞳は潤ませて、頬を染めて唇は赤くして。そのビジュアルすべてがカカシを煽る。
「やらしい……」
思わずとろけた声をだせば、イルカは唇を噛みしめる。そして次にはぼろりと大粒の涙をこぼした。
「イルカッ!?」
さすがに慌てた。イルカはカカシから体ごとそむけてしまう。
「ごめんイルカ。泣かないでよ」
おろおろとカカシはイルカを抱き寄せようとしたがますます体を背けられる。
「イルカ〜……」
「もう、嫌だって言ってるのに、なんで……なんでっ」
「だって」
拗ねたイルカの声に負けず劣らずカカシも口を尖らせた。そのままイルカの赤い頬に口づけて頬をすり寄せる。
「だって俺、イルカのこと大好きなんだよ。愛してんだよ。だから、イルカのこと知りたい。可愛がりたい。泣かせたくないけど泣き顔も見てみたいし怒った顔だってぼけっとした顔だって真面目な顔もそれからもちろん笑った顔とか、なんでも、どんなことでもイルカのことが知りたいんだよ」
子供のように言い募ればイルカが目を見張る。
「……なんだよ、それ」
「イルカは俺より全然若いくせにこういうとこはクールなんだよ。さっきから臭いからとか汚いからとか言うけど俺にとってイルカには汚いところなんかないし汚くたって勿論かまわない。俺イルカのものならなんだって……」
「ああもうわかったよ!」
そのまま激情にまかせてぶちまけようとしていたカカシをイルカはとめた。さっきまで怒っていたのはイルカのほうなのに何故かカカシが憤っている。
ふっとイルカの中で強ばっていたものが柔らかくなっていったのがわかる。自然と口元もゆるみ、小さく笑っていた。
「ばっかじゃねえの。センセーってば30のおっさんだろ? なのに言ってること俺より全然ガキじゃん」
イルカの言葉にカカシはむくれた。そんなカカシの頬にイルカは自分からキスしてくれた。
「イルカ?」
「センセーのほうが、よっぽどかわいいって」
「え? なにいってんの」
心外だと驚きに瞬きを繰り返すカカシだったが、イルカは笑って、甘えるように体をすり寄せてきた。
「わかったよ。わかったから、これ……」
まだ力を失っていない部分もカカシに寄せてくる。カカシはイルカを強く抱き返した。
そのまま黙ったまま抱きしめていると、イルカは首をかしげた。
「センセー?」
「好きだから」
「?」
「好きだから。だから信じてよ。俺は絶対にイルカを幸せにするって決めてるから」
すがるような声音だった。カカシがまだ不安を抱えていることがイルカにも伝わってしまう。あんな始まりで、長い間惑っていたから、本当はいつだって不安だ。イルカは許してくれているが、心の奥底にはまだわりきれないものを抱えているのではないだろうかと。そんなふうに卑屈に思ってしまうことがある。
背に回っていたイルカの手に力がこめられた。
「わかってるって。俺だって、センセーのこと、大好きだから」
柔らかなイルカの声。そしてカカシの頭を優しく撫でてくれる手。
うん、と小さな声でカカシはこたえた。何度も肯いた。
カカシはもう一度イルカをそっと横たえて、おごそかな気持ちでイルカに口づけた。
何回か触れて舌を差し入れられて受けとめる。口内を愛撫され、口の中でリアルに感じる熱に頭の中が陶然となり、下肢は力を得る。
カカシは体をずらして、イルカの屹立したものに手を添えて、ぞろりと舐め上げた。
「ぁ……」
それだけでそこから快楽が体中へと広がっていく。イルカは熱い吐息を漏らした。
「イルカ、気持ちいい?」
「ん、いい、よ……気持ち、いい」
「そっか。よかった」
カカシが満足そうだから、嬉しそうだから、イルカも素直に肯いた。もちろん恥ずかしいし、そんなところ本当はたとえ風呂に入っていたって舐めて欲しくない。でも、カカシが、幸せそうだから。羞恥は遠くへ押しやってイルカはカカシに身をゆだねることにした。
我慢することをやめて与えられる喜びを甘受すれば、心もふわりと浮き立つ。カカシが触れるところから微細な振動のようにゆるやかにそして確たるものとして心地よい快楽が広がっていく。
言葉なんかいらないと思える。カカシの指先、そしてあんなところを含む口が、愛しい愛しいと伝えてくる。
本当に、触れるだけで、それだけで。
極まった気持ちが出口を求めて高見を目指し、そして、失墜した。
意識が浮上してきた。ゆるりと目を開ければ、部屋の空気が少し変わっている。暑さがなりを潜め始めている。
くたりと弛緩した体を投げ出したまま深く息をついた。頭の中が白く染まった感覚に引きずられて体の末端が痺れているようだ。
「イルカ」
呼ばれて顔を向ければカカシが台所のほうから向かってきた。
「……センセー、俺、もしかして気絶してた?」
「疲れてたんだもんな。無理させてごめん。20分くらいかな。今風呂いれてるから」
カカシは跪くと気遣うような口づけを与えてくる。
「大丈夫? 声、すごかった。かわいかったけど」
カカシはとろけそうな顔をして口にするがイルカは耳に残る自分のかすれた声を思い出せば羞恥で髪をかきむしりたくなる。しかも疲れていたとはいえ最後には登り詰めて失神してしまうなんて恥の上塗りだ。
照れ隠しからカカシの頭をのけようとして上げた手に、液体が触れた。
思わず目を見開けば、目の前のカカシの髪には液体が散っていた。
「……」
なんて言えばいいのかわからず呆然とカカシを見つめるが、カカシはへらりと笑うではないか。
「イルカの、かけてもらっちゃった」
その言葉に眩暈を覚えたイルカだったが、ぐっとカカシを睨みつけた。
「カカシセンセー!」
「なに?」
イルカの不機嫌丸出しの声を気づいているのかいないのか気づかないふりをしているだけなのか上機嫌のカカシの頭に乱暴に触れた。
「もう! さっさと洗ってくれよ!」
「え〜」
「えーじゃなくて風呂! 風呂はいってよ先に!」
「一緒がいいなあ」
あくまでも暢気なカカシを、とうとうイルカはどついた。
「さっさと洗ってこいー!」
ぴょんと起きあがったカカシは風呂場へと消えた。
一人で行けると言ったのだが頭を濡らしたカカシはイルカのことを軽々と抱え上げた。
至れり尽くせりでぬるい湯を溜めてくれていた。脱衣所にイルカを置いて行ってしまおうとするカカシのことを無言で風呂場まで引っ張る。
「イルカ?」
服を着たままイルカは湯船に足を踏み入れた。とまどうカカシも引きずり込んで共に湯船に沈めた。そのままカカシの体にかぶさるようにしてイルカも湯に体を横たえた。
広い湯船は二人が入ってもたいして窮屈ではない。
張り付くシャツが不快だが、思い切って脱ぐには少し勇気が必要だ。だからそのままぎゅうとカカシにしがみつく。
「どうしたのイルカ」
カカシが優しい手つきで頭を撫でてくれる。
ついさっきまでの余韻が残っている。そのせいで頭が少しかすむ。カカシと離れがたい。カカシの首筋に顔を埋めたまま、イルカは手を伸ばす。
水に近いような温度の中で、触れたカカシのそこは熱を持っていた。
「イルカ?」
「俺ばっかり、恥ずかしいなんて、ずるい」
気持ちいいなんて、ずるい。その言葉は飲み込んでカカシの熱にゆるく手を絡めたまま、カカシの首筋や顎や頬に口づける。
「センセーは、興奮しなかったの?」
耳元で囁けば、カカシが濡れた目を向けてくる。
「さっき、俺ばっかりで、センセーはどうだったのかなあって」
イルカは純粋に疑問に思ったのだ。イルカに対してあんな行為をしかけておきながらカカシ自身は体に変化が起きなかったのだろうかと。
カカシはイルカのことをまじまじと見て、そして少しばかり恥ずかしそうに笑った。
「興奮しないわけないだろ。……イルカがイッた後、トイレに駆け込んだ」
下着、ちょっと汚れたけどな、とカカシは小さく付け加えた。
「え? マジ? うっわ恥ずかしい」
「そうだよ恥ずかしいよ言わせるな」
憮然となるカカシにイルカは小さく笑った。いつもは余裕のあるカカシのちぢこまった様子がかわいくて、からかいたくなる気持ちが沸き上がった。
「でもさ、あそこくわえて興奮しておったてるなんて、センセー変態みたいだな〜」
「それは否定しない。俺はイルカに関しては間違いなく変態だからな」
「そうなの? やだなー。俺はいたってノーマルなんだけど」
「俺なんかなあ、イルカのなあ……」
カカシはイルカの耳にごにょごにょと告げた。
「……」
それはとても声に出して言っていいような内容ではなかった。里の上忍、かっこいいカカシしか知らない面々が今の言葉を聞けば瞬身の術を使って逃げてしまうことだろう。イルカはがくりと肩を落とした。
「ホント、変態じゃんセンセーって」
「そ。イルカ限定の変態」
「それってどうかと思うよ」
赤くなった顔を見られたくなくてカカシの首元に顔を埋めた。
熱くなる吐息をカカシにぶつけて、少し強く手を動かしてみる。怖いくらいの熱に怯みそうになるが、髪を梳いたり頬を撫でてくれるカカシの手が言っている。
もっと触れてほしいと。
「変態でもいいよ。センセーのこと好きだから」
「俺も、好き」
どうすればいいかよくわからなくてただ上下に動かしていた手に、カカシの手が重なる。導くよう触れて欲しい場所へと誘導する。
「そこ、もっと強くすって……」
「これくらい……?」
忠実にカカシの誘導に従えばカカシは熱く湿った吐息をこぼす。
「センセー気持ちいい?」
「ん。いいよ」
ふと顔を上げてカカシを見れば、細めた目に白い肌は薄く染まり、もともと整いすぎている顔立ちだけにとてもきれいで、それでいて熱に浮かされた危ういような顔をしていた。
大人のカカシが見せる無防備なさまに、受けいれてもらえているのだとイルカは嬉しくなる。
イルカはカカシに口づけた。息をも奪うくらいに深く。技巧なんて知るわけがない。だからただ遮二無二気持ちをぶつけるように口づけた。
うわごとのように好きだと繰り返せば、カカシも熱のこもった声で好きだと返してくれる。苦しいくらいに口をあわせ、唾液が口の端から落ちていく。
イルカの手の中で大きく膨らんだカカシの欲はひっかくような刺激で勢いよく弾けさせていた。
「……!!」
歯を食いしばって声を我慢したカカシだが、びくびくと震える下肢は長く吐き出した。カカシは余韻に浸って荒く息をつきながらうつろな顔を見せた。唇を舐める舌が色めいて目が離せない。
カカシに目を奪われ見つめていたが、イルカの視線に気づいて目の焦点があうとカカシはあからさまにうろたえた。
イルカの体を離すと立ちあがる。
「ごめん! お湯汚した! お湯かえてゆっくり浸かれよ。ゆ、夕飯の準備しといてやるから!」
カカシはイルカに有無を言わせず排水溝の蓋をはずすと赤い顔をしたまま風呂場を逃げるように後にする。脱衣所でごそごそしている様子に思わずイルカは吹きだしてしまった。
「センセー、俺の甚平でよければタンスに入ってるから、ちょっと小さいかもしれないけど、使って」
笑いながらかけた声にカカシはこたえることなく照れたまま行ってしまった。
湯船の中でイルカは笑いが止まらない。
ビンゴブックに載るほどの里が誇る上忍なのに、なんて、かわいい大人なのだろうか。
いつだってイルカのために懸命で、真っ直ぐな愛情をくれて。
深く息をして目を閉じたイルカの心には温かなものが灯る。
本当に、あの人が好きだなあと思うのだった。
結局長々と風呂に入って上がれば、夏の日はずいぶんと傾いて、茜色の夕日が部屋に差し込んでいた。ゆるい風が縁側から運ばれてくるのがほてった体に心地いい。カカシはゆったりとあぐらをかいて座っていたが、イルカの気配に振り向くと微笑んだ。
自分の服をカカシが着ていることとくすぐったそうに微笑まれたことと、さきほどのことを思い出して意識しなくても赤面してしまう。
「めし適当に作っておいた。すぐに食べる?」
「ありがと。ちょっとあとでいいや」
カカシの横に座って、息をついた。
昼間の暑さとはうってかわって穏やかな心地いい風邪が頬をなでていく。
目をつむりしばらく黙ったままでいれば、虫の声が耳に届き、頭の中がきれいに浄化されていくようだ。
「ねえイルカ」
畳についた手にカカシの手が重ねられる。
顔を向ければ、カカシは物憂げな感じがした。
「なに? 深刻な話?」
わざと軽い声で返せば、カカシは目を伏せて、重ねた手に力をこめた。
「気のせいだったらそれでいいんだけど、イルカはもしかして、体の傷痕、見られたくないって思ってる?」
思いがけない話だった。
だが咄嗟に誤魔化そうという意識がのぼったところでカカシには気づかれたようだ。イルカのことを真っ直ぐに見つめてきた。
探ろうとする視線にイルカは苦笑するしかなかった。
自分では慣れた痕となってしまったが、それでもたまに鏡の前でまじまじと見れば、醜い痕だと思う。右側はケロイド状で赤黒く、左は肉がえぐれた痕がしっかりと残っているのだから。乳輪のあたりも端が少し欠けている。
恥じる気持ちはないが、ただ、カカシには見られたくないと思う気持ちがあることは確かだ。
どうしてかなんてわかっている。
カカシのことが、好きだから。
好きな人におのれの醜い部分を見せたい者などいないだろう。
どう伝えればいいかと逡巡して、結局イルカは照れたように鼻の傷をかいた。
「ほら、見て気持ちのいいものじゃないからさ、正直見られるのはちょっとって思う」
「それは俺だからか?」
「え?」
確信めいたことを言われてイルカの心臓はどきりと跳ねる。だがカカシはイルカの心を見抜いたわけではなく逆のほうに思考は向かったようだ。不安がありありと伺える顔からわかる。
「そうじゃなくて、ああ、いや、そうかな。センセーだからってのは、当たってる」
カカシがあからさまに表情を曇らせるからイルカはカカシを安心させるように笑いかけた。
「センセーには見られたくないって思うのはさ、それだけセンセーのことが好きだから。特別だからだよ」
ぱちぱちと長い睫毛を瞬かせるカカシはイルカが口にした言葉の意味を間違いなく受けとってくれるのだろうか。また曲解されたらたまらない。イルカはカカシの肩に頭を載せた。
「我ながら恥ずかしいとは思うんだけど、思考が少女漫画というかなんというか、男のくせに、カカシセンセーのことが好きだから汚い部分は見られたくないって思うんだよな〜」
わざとおどけるようにカカシの肩に甘えるようにぐりぐりと頭を押しつける。
「好きな人には自慢できないような体なんてみせたくないじゃん。あー恥ずかしいこと言わせるなって」
イルカは明るく笑ったが、カカシは笑ったりせずにイルカの髪にくしゃりと触れた。
「ばーか」
「ばかあ!? ひでぇなあ」
イルカは苦笑したが、不意にカカシに両の頬を挟み込まれて、額を合わされる。焦点がぶれるくらいの位置にカカシの色違いの目がある。とても真剣な顔をしたカカシが、目の前にいた。
「センセー……」
「俺は、イルカの全部、まるごとが、愛しいんだから。どんなイルカでも好きだ。イルカが嫌だって言ってもず〜っと付きまとうから、覚悟しとけよ〜」
「うわーやっぱり変態だあ」
笑って、カカシに抱きついて体ごと押しつける。すがるように手を回す。
胸の中にせまるなにかが溢れそうで、そうしたら涙腺が決壊しそうで、さすがにそれは恥ずかしすぎるから、ぎゅっと目を瞑る。
胸いっぱいにカカシの匂いを吸い込めば、自然と口元が緩むのだった。
おわり
・・・んん〜イマイチ? あいかわらず色気ありません^^;精進精進。
んでもお気に召したなら〜はくすでも叩いてくださるとlove注入されますv