それはセンセー (カカシver.) 4
「ごめんね」と最初に謝っておいた。
近づいてきたイルカの手からフレームを受け取る。おずおずとカカシを見上げたイルカは何か言おうとしていた。だがカカシの手から血が流れていることに気づくと、その手にそっと触れてきた。驚くほどに冷たい手。カカシはイルカの手首を取ると、顔を近づけて、口布を下げて笑った。
ごめんね、と。
「! ちょっ、センセー?」
イルカの体を放り投げる。たいした力を入れたわけではないが、思ったよりイルカの体は軽かった。黒板のでっぱった部分に腰のあたりを打ちつけたようだ。呻いたイルカはひとつふたつ咳き込んで、強気の目がカカシを睨み付けてきた。
「っきなり何すんだよっ!」
音もたてずにイルカに肉迫するカカシは笑顔のままだ。何かを察知したのか、イルカの息を飲む気配がする。
「や、な、何だよ? やめろよ……」
カカシから目を逸らさないのは立派だ。やはり肝が座っている。だが、カカシは暗部なのだ。いくさで血の匂いをいやというほどに浴びて生きてきたのだ。
イルカの喉に手を当てる。
「セン、・・・!」
ぱくぱくとイルカが魚のように口を動かす。そこから声が出ない。
「うみのの声、これ以上聞きたくないから。ちょっと声帯にお休み願うね」
正確には、イルカの拒絶の言葉。そんなものはもうたくさんだ。
笑ったままのカカシから不穏な気配を感じ取ったのか、心なし青ざめたイルカは横を擦り抜けて逃げようとした。しかしそんな隙をカカシが作るわけがない。とんとん、とイルカのいくつかの経絡をついた。イルカはその場にがくんとくずおれる。
壁に背中を預けるような状態で、だらりと四肢は投げ出された。
頭部は動く。カカシを見上げたイルカの目は見開かれ、何か訴えかけるような色をたたえていた。
カカシはことさらにゆっくりと手甲をはずしベストを脱ぐと、イルカと同じ目線にしゃがみこんだ。
まだ子供らしい曲線を残すイルカの頬に触れた。ある意図を持って指先で円を描く。柔らかく、弾力のある肌。年頃のわりににきびひとつなく、気持ちのいい肌だ。
「俺ねえ、今日はかなりサイアクの日だったんだ。だからさ、うみのが慰めてくれる?」
イルカは必死で床に爪をたてて、動かない体でなんとかカカシから逃れようとする。頭を振ってカカシの手を拒む。
「ああ、ごめんうみの。俺ちょっと飲み過ぎたから酒臭いんだろ? でも、うみのの先生はアル中だったんだから、酒の匂いは慣れてるよな」
軽口をたたいて、カカシはイルカの頬を痛いくらいの力で両手ではさむと、口を塞いだ。
イルカの目は驚愕ゆえか見開かれる。
柔らかな唇にカカシは陶然となった。
互いに冷たい口が、何度か角度を変えて交わっているうちに少しづつぬくもりが戻ってくる。カカシにおさえつけられて閉じること叶わないイルカの口の端からは唾液が伝う。そこに惹かれるようにカカシは舌を出す。イルカの唾液を舐めて、たまらずに口の中に舌を差しだした。
噛みついてくることは読めたから、顎を力任せに固定して閉じることができないようにしてしまう。
逃げをうつイルカの舌をとらえるのは簡単で、絡めて、引き出して、吸う。夢中になって貪った。
自分が傷ついたのと同じようにイルカのことを傷つけてやりたい。そんな薄暗い気持ちに突き動かされて始めた行為だった。けれどぐんぐんと上昇する体温はどうしてなのか? 心臓の鼓動は凶暴に加速する。
息を継ごうとしてイルカは鼻を震わせるのだが、んん、とくぐもって漏れる声と細められた目がカカシを更に追い立てていることには気づいていない。イルカの顎を痺れさせるくらいに押さえつけたあと、カカシはしっとりとしめったイルカの髪に手を差し入れて結わえた紐を解いた。
そしてその頭をかき抱く。イルカに喰いつくような勢いで飽きることなく唇を貪る。
脳がぼんやりとなりどくどくと鼓動が痛いくらいに体の中を駆けめぐる。カカシの体中がもっともっととイルカを求めていた。
名残惜しかったが、下肢で疼くものが次の行為を要求している。イルカから口を離して、壁についた両手で囲う。
肩で息をついているイルカは顔を赤く染めて、それでもカカシのことを睨み付けることをやめない。まあ気が強いのはいいことだが、今のカカシにとっては邪魔なことだった。
額当てをはずして、イルカの前で初めて希有の瞳を晒した。
イルカは素直に目を見開いた。カカシはやはり笑う。
「これ、写輪眼。初めて見るよな。俺の大切な友人の形見だ。って言っても、こいつとの思い出はひとつもない。ひとつも、覚えていない。重要機密の任務に関わることばかりだったから、消されたんだ。あいつはこの目以外、欠片ひとつ残さずこの世界から消された。思い出も一緒にな」
こんな時なのに、カカシの告白に痛ましそうな顔をするイルカの手をとると、そっと左目に触れさせた。
「これは、俺にとってあいつがこの世にいたってことを証明してくれるたったひとつのものだ。うみのは女々しいって笑うかもしれないけどな、俺にとっては、思い出をたどるよすがは何より大切なものなんだよ」
イルカの前に、無惨な状態になった写真をかざす。途端にイルカの顔がひきつる。口がまた何か言おうとして開閉する。
「いいよもう。誰がこれをこうしたかなんてどーでもいい。うみのはさあ、運が悪かったんだよ。何で、よりによって、こんな時にここに来たかなあ? 俺、やめる気ないからさ」
カカシはわざと舌なめずりをして、掴んだままのイルカの手をそのまま下肢にもっていった。固くなっている感触に気づいたイルカは跳ねるようにして顔を上げた。絶望に歪む顔がいい。
カカシはおもむろにイルカの下肢に手を入れた。
柔らかな性器は恐怖ゆえか縮こまっていた。下生えも柔らかく薄く、改めてまだ子供であることがわかる。笑いがこみあげる。
先生を失った任務でどんな目にあったのかイルカは語らないが、性的な拷問はおそらく受けていないだろう。もし受けていたのなら、あんなに無防備に他に対してふるまうことはできない。どこかで緊張して接するはずだ。体に加えられた痛みは忘れることが比較的たやすいが、心に深く刻まれた傷はそうはいかない。専門のカウンセリングが必要な場合もある。イルカのそんな情報はないし、何よりイルカの普段の様子からそれはなかったことがわかる。
イルカはなにより心が無垢だ。それを傷めようとしている。そのことにカカシは昏い喜びを感じていた。
「こ〜んなに緊張しちゃって。ま、リラックスしてなよ。気持ち良くしてやるからさ」
暢気に告げたカカシにイルカはうなり声のような音をたてて懸命に体を動かそうとする。
どうせ逃げられないことがわかっているから、カカシは気にせずに手をうごめかす。知っている限りの技巧で、揉みしだき、すいて、爪をたてて、ようやくイルカの下肢はゆるゆると勃ちあがりだした。じれったくて、舐めたほうが早いかとも思うのだが、イルカも感じ始めてるようだ。眉を寄せて、口でする息はあがっている。赤い唇に誘われるようにまたカカシは口づけた。
口移しでカカシの感じている興奮をイルカに移せたらと思う。
イルカの口を味わいながら、下肢をすく手も止めない。顎、首筋、と甘くはみながら、シャツの上からイルカの胸の突起に吸い付いた。寒さゆえかすでに固く尖っていた乳首にきゅっと吸い付く。びくりと跳ねるイルカの体。性器がぐんと力を得る。先端からはとろりとしたものが手を伝う。
イルカの変化に気を良くしたカカシは、直接素肌に吸い付きたくて、乱暴にシャツをたくしあげた。
頭上からは、息を飲む気配がした。
めくられて、さらされた素肌。さすがのカカシも一瞬言葉をなくす。
イルカの右胸は火傷あとの赤黒いケロイド状にひきつれ、左胸と腹部は無数の刀傷で、肉が抉れてしまっている部分もあった。
ごくり、と喉を鳴らしたカカシは、そっとイルカを見上げた。
イルカの瞳は静かだった。そこから伺える感情は何もなく、カカシはまるで馬鹿にされているような気がして、ささくれた気持ちのまま、火傷あとの中でも存在を主張している飾りをそっと摘んだ。ひくっと跳ねる体。カカシは笑っていた。
「まあ、下忍のわりにはすごい傷持ってるけど、忍者だったらこれくらいよくあることだ」
片方をこねながら、片方には直に吸い付いた。
ちゅ、ちゅ、とわざと音をたてて遊ぶ。どうやらイルカは胸が感じやすいのか、震える体はなんとか逃れようとあがくのだが、カカシのもう片方の手の中にあるものはどんどん力を得て、固くなってきた。ぬめりが滑りをよくしてくれる。カカシは余裕でいじりながら、イルカをおとしめるような言葉を口にした。
「かわいそうだよね、うみの。お前いま俺に強姦されようとしてるってのに、気持ち良くなっちゃってんだ。聞こえる? お前のここ、どんどん汁出してるよ」
粘りけのある音がイルカに聞こえるようにと性器をしごく。口を半開きにしたままのイルカの唇は震えていた。
一旦イルカの性器から手を離したカカシは白く汚れた指先をイルカの口につっこんだ。首を振って拒むイルカだが、そこを無理矢理蹂躙した。
「逃げないでよ。これ、お前のだよ? 自分で出したものなんだから綺麗にしてよ」
カカシが調子にのって指先を増やそうとしたら、咬まれた。
口の端から白い液を垂らしたイルカはカカシのことをひどく睨み付けてきたがそのきつい目が淫猥で、まるで今までカカシは自分のものを銜えられていたように興奮した。
堪えきれずにカカシは窮屈な場所から己のものを取りだした。
我ながら浅ましいとは思ったがそれはすでに大きく力を得ていた。こんなガキに、と自嘲めいた気持ちもあるが、興奮するものは仕方がない。イルカのズボンを簡単に矧いでしまうと、夜目にも白い尻が出てきた。案の定、やはり傷が走っていたがぞくぞくした。カカシは両手の中ですべらかな感触を楽しんだあと、奥につつ、と指をたてた。イルカの心そのままにそこは固く閉ざされていた。
ひく、とイルカが息を飲む気配がする。
床におかれている手。気づけばずっと爪をたてていたのか、先端から血が滲んでいた。
イルカの体を大腿の上に載せていたカカシは血に汚れた手をとると、それを吸う。時々甘く咬みながらべたべたになるまで舐めた。
この存在が愛しいのか憎いのか今のカカシにはわからない。けれどイルカのことを抱きたい。この体と繋がりたい、と希求する。
イルカの足を大きく広げて、固いところに自らの先端を擦りつけて、欲望の液を塗り込める。
慎重ではあるが遠慮はなく、穴を広げる作業に没頭する。
イルカの快楽なんてものはどうでもよかった。ただ、自分の怒張したものを埋め込みたくて仕方ない。
無言のまま、獣のような荒い息づかいで指先を入れて、広げて、奥深くを探った。
いいかげん柔らかく熱くなった頃合いを見計らって、根本を支えて埋め込む。ぐっと先が入ると、イルカの呻く声がした。
カカシはイルカの中に陶然となる。
先が入っただけなのに、そこからとろけそうなほどにしびれるような快感がせり上がってくる。ぷつ、と何か切れたような音がして、血の匂いが交じる。だがやめられない。固く閉ざされている場所は異物の侵入を拒む。カカシはそれに逆らうようにぐぐっと力を込めて根本まで埋めようとする。ゆっくりとゆっくりと、返されそうになるのを堪えて、まるで強力なゴムのような反作用に戻されて、また押して。
すべてを納めた時には汗だくになっていた。
根本までイルカの中に包まれると、まるでもともとそこにあることが当たり前のようなぴたりと寄り添うような充足感があった。イルカの奥はぎちぎちに広がって、大腿はひくひくと震えていた。結合した部分をくるりと指で撫でると二つの体がそこで繋がっているという確かな証にカカシの顔はほころぶ。
「……ぅ……ぁ」
イルカの苦しげな呻き声が頭上から降ってきた。
夢中でイルカの中に入ることに没頭していたからカカシは失念していた。イルカを犯しているという事実を。
顔を上げたカカシの笑顔は、そのまま凍り付いた。
イルカが。
ずっと強い視線で光を宿していたイルカの黒い目から、ぽろりと、涙が落ちた。
「!」
「ぅ………」
ぐっと歯を食いしばったイルカの両目から、次から次に途切れることなく涙が落ちる。
カカシはかあっと脳内が真っ赤に染まるような衝撃を受けた。
いきなり視界がクリアになった感覚に瞬きを繰り返す。
ぼろぼろと泣くイルカを見て、そのあどけない姿を見て、体中が火照る。
上着を捲られたイルカの傷だらけの体。イルカの性器は恐怖故か痛み故か萎えて、大きく広げられた両足の間にカカシはおさまり、凶器で貫いている。
「ごめ……、ごめんっうみの!」
謝罪の言葉が口をついて出る。早く抜かなければと思うのに、泣き濡れるイルカの姿に、どくんと下肢は力が漲る。
「ごめん、ごめんっ」
謝りながら腰を動かす。ぐちゅ、ぐちゅ、と音をたててイルカの中をつく。一度放出してしまわないとどうにもならない。自分の上に抱え上げるようにしてイルカを抱きしめると、朦朧としているその顔にキスの雨を降らす。少しでもイルカにも感じて欲しくて、下肢にも指を絡めて官能を呼び覚まそうとする。だがイルカの性器は萎えたままで、気持ち緩く立ち上がるだけだった。
だがカカシは違った。
イルカの体の柔らかさ、匂い、艶めいた顔に突く速度は上がる。こみあげる凶暴なまでの愛しさに身を任せて深い場所に打ちつけた。
「っ……!」
「ああぁ!」
イルカの奥深くにぶちまけた。開放された熱がどくんどくんと脈打ち、結合部分からだらりと流れてくるもの。
イルカの体が後ろにかしぐ。
そこを慌てて抱き寄せて、力強く背に手を回した。
その瞬間、世界のすべてを手にしたような錯覚を覚える。これが、欲しかったものだろうか。唯一のものなのだろうか。
カカシの熱い体とは違って、ぞっとするほどにイルカの体は冷えていた。
カカシは、自分の熱を与えるようにイルカの顔に雨あられとキスを降らせた。
大切に大切にイルカを腕に抱いて、雨の中駆けた。
イルカの吐息は細く、真っ青な顔は死人のようだ。
家に着いたカカシはまず温かな湯にイルカを入れた。
「ほんとに、ごめん、ごめんな……」
カカシは謝りながらもうっとりとなって、この世に二つとない宝を手にしたような気持ちでイルカの体を洗う。放ってしまったものも慎重にかきだす。それでもイルカはぴくりともしない。
皓々とした明かりの下で見ると、イルカの傷はひどいものだった。
元は白い肌であるが故に傷がきわだつ。体中、縦横無尽に走る傷は自然についたものよりも、意図的に傷つけられたもののほうが多かった。刺して、斬って、裂いて、抉ったもの。火傷の痕もひきつれた肌が生々しく、それらの傷はイルカが手ひどい拷問にあったことを物語っていた。確かに体の痛みは消えるが、こんなにも証を残されては、イルカは自分の体を見るたびに思い出すのではないか?
イルカの体を充分に暖めてからあがると、寝間着を着せて、共にベッドに横たわる。
イルカの体は16にしては軽くて、細くて、いたいけだった。そんな子供に自分がしてしまった仕打ちを思うと、カカシは土下座してすがりついてでも謝りたい心境になる。だがそれと同時にイルカが自分のものになったのではないかと、子供じみた独占欲も湧く。
布団の中でイルカを抱き込んで優しく髪を梳く。イルカの眉間には皺が刻まれ、苦悶に表情が歪んでいる。
「イルカ、泣かないで、イルカ…」
額に唇を寄せて震えるイルカを抱きしめる。
イルカが小さな声で引き結んだ歯の間から何か言っている。口元に耳を寄せたカカシはイルカの声にきつく目をつむる。
イルカは、「先生…」と呟いていた。
ぎゅっとイルカを胸の中に抱き込む。
震えている体を少しでも暖めたくて、祈るような気持ちで朝を待った。
容赦なく腹に蹴りを入れられた。
ベッドから転がり落ちる。頭を振って体を起こしながら、我ながら上忍とは思えないような身のこなしに呆れかえる。
後ろ手に手をついたカカシが寝ぼけた眼のままで顔を上げれば、ベッドの上にはイルカがいた。なんだかイルカの顔はむくんでいて、ひどく怒っているようだ。まなじりがつり上がり、ぎりぎりと音が聞こえそうなほどに歯がみしている。
ぼんやりとする脳裏でカカシは考える。昨晩、何があった? どうしてイルカがカカシのベッドの上にいて、二人一緒に寝ていたのだろう? 頭がずきずきする。これは二日酔いだ。思考もまだ追いつかない。
だからカカシは素直にイルカに問いかけた。
「あのさ、うみの。何で、お前、俺のベッドに寝てるわけ? 昨日……」
カカシが言い終わらないうちにイルカは手近にあった枕を投げつけてきた。カカシの顔面にばふんとあたる。力一杯投げられたようだ。
痛みにカカシは目を覚ます。
顔面から、落ちる枕。
反射的に手を出して受け止める。
俯いて、枕の白い布地を見ているうちにだんだんと白かった思考に色とストーリーがよみがえる。
残像のように、脳裏を駆けめぐる。
イルカの唇、熱さ、性器、傷だらけの体。奥をさぐって、ねじ込んで、放出した。イルカの、なか・・・。
カカシは血の気が下がるのがわかった。
「うみの……」
「許さないからなっ!」
顔を上げれば、鬼のような形相でイルカは叫んでいた。ベッドから降りて、よろりと傾げそうになるが、思わず身を乗り出したカカシの手を思い切り弾く。ぱん、と勢いのある音はイルカのひどい拒絶を表しているようだった。
「絶対に絶対に許さないっ!! このヘンタイヤロー!!」
体いっぱいで叫んでもう一度カカシの手から取り上げた枕をすごい勢いで頭部に打ちつけると、イルカは寝間着姿のまま、飛び出していった。
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