暗部の奉公人       







 長引くいくさ場の前線、物資補給で訪れた忍たちの中にイルカの姿を見つけた。
 イルカは気づかない。仲間と笑っている。人が行き来する広場のような一角で暗部の面をつけたままカカシは気配もなく近づいて後ろから肩を叩いた。イルカの仲間たちはあきらかにぎょっとして身を引いたが、振り向いたイルカは目を見張る。そしてすぐに笑顔に顔がほころんだ。
「カカシ君、久しぶり」
「こんなところに何しに来たわけ〜?」
「人数が足りないっていうから、志願したんだ。カカシ君ともずいぶん会っていなかったし」
「ふーん。相変わらず平和だね。あんたみたいに平和ボケした中忍教師はさっさと里に戻ったほうがいいよ」
 内心の高揚する気持ちを隠して嫌みなことを言ってしまうカカシにイルカは気を悪くすることもなく、照れたように鼻の傷をかいた。
「ああ。明日早くに立つよ」
「明日?」
 カカシは飛び上がりそうになった。それならばそれまでの時間を無駄にできない。カカシは自由時間のイルカの手をがっしと掴むのだった。



 今夜は星がきれいに瞬いていた。いくさ場とは思えない静けさの中、カカシはイルカを連れて水辺の脇を歩く。
 カカシはイルカを時たまちらりと上目遣いに伺って、こっそりと口元を緩める。三年前、カカシは13,イルカは19の時にいくさ場で出会った。思いがけずにイルカに惚れる事態となり、なんとか口説き落として両思いになったが、カカシの暗部への奉公が終わるのは19だ。
 あれから三年。この先三年。奉公が終わったら一緒になるという約束を支えに、カカシはいくさ場を駆け回っていた。
 人が訪れないあたりまで来て、座る。星が映った水面はきらきらと揺れて、イルカの傍らで見るからいつもより数倍美しくカカシの目に映る。内心のうっとりとした気分におされて、カカシはイルカにそっと口を寄せた。一瞬身を引こうとしたイルカの両肩をおさえて顔を傾けて下からせめる。
「口、開けて、イルカ先生」
「え……」
 カカシが促さないとイルカは自分からは口を開けない。おずおずと開いた口に舌を差しだして、ねっとりと絡める。
 イルカはぎゅっと目をつむっているが、その怯えたような顔がまたそそる。けっしてやわな雰囲気などないのに、色事に弱いからか年下のカカシに押されっぱなしで、今もか弱い女のように頼りなげにかすかに身を震わせている。
「ちょっ、カカシ君、もう……」
 息を荒げて涙目になったイルカが顔をそらせる。横目で恥ずかしそうに睨まれても逆にカカシを煽るだけなのに。
 目の前にさらされた頬をざらりと舐めて、ぎゅっと抱きついた。
「あのさー、奉公が終わるまでなんで駄目なの? 俺がいいって言ってんだからいーでしょ」
「で……っも、暗部の奉公の、決まりが」
「だから、書類だせばいいんでしょ? 俺いっくらでも出すって言ってるじゃない」
 ぐりぐりとイルカの胸に顔を押しつけて、カカシは不満をぶつける。
 カカシとしては三年前にイルカを落とした時にすぐにでも誓約書を出そうと言ったのだ。
 常に命の危険にさらされている暗部が奉公中に外の人間と関係を持つ場合、この人間と関係を持ちますと一筆書かなければならないという妙な決まりがあった。それが受理されて晴れて公認となる。誓約書を出さなければお付き合いしてはいけないとか体の関係を持ってはいけないということはないが、たかが紙切れ一枚、されど紙切れ一枚。提出するほうがなにかとやりやすいのだ。たとえばだが暗部奉公中に不測の事態なんてことになった場合、書類を提出していれば呼び出すことができるし、もしももしも最悪死んでしまった場合、死体が残っていれば、引き取って貰える。
「でも、カカシ君はまだ若いから、そんなもの、安易に出しちゃ駄目だよ」
「それって、俺の気持ちが信じられないって言ってるのと同じなんですけどー? それに若いっていってもさあ、6つしか違わないじゃん。今は差を感じるかもしれないけどもうちょっと大人になったら全然感じないから」
「そんなこと、ないよ」
 イルカは曖昧に笑う。
 イルカにめちゃくちゃ惚れてしまっているカカシだが、不満なのはイルカが付き合った当初からいまいちカカシのことを信じてくれていないことだ。カカシの思いを一過性の熱のようなものだと思っている。だからきっと体を許してくれない。いい加減三年経っても好きだと言い続けるカカシのことをもっと信じてくれてもいいと思うのに。
「好き好きだーい好き。一生とりついてやるからね」
 カカシが本気で口にしてもイルカは本気にしてくれない。いっそ無理矢理やってしまえばカカシの本気が伝わるだろうか。
 風がそよとも吹かない凪のような静かな夜。カカシはイルカに密着したままとりあえず今イルカがそばにいる幸せに目をつむる。
「あのさ、カカシ君。この前、里で会った時さ」
「んー? この前?」
「カカシ君、大人の姿で、現れただろ」
「ああ。あの時ね」
 イルカに髪を撫でてもらってゆったりとくつろぎながら思い返す。
 あの時は任務で大人の姿に変化していた。少し出来たすき間の時間に余裕なくアカデミーのイルカを尋ねたのだ。
「あの時さ、カカシ君普通の服で来ただろ。職員室であとで大騒ぎだったんだ。あの人誰って。カカシ君かっこよかったから」
「ふーん」
 イルカにかっこいいと思ってもらえるのは嬉しいがその他大勢に興味はない。だいたいカカシが職員室に入っていったらそれまで和んでいた空気がいきなりかたくなって居心地悪い思いをしたのだ。
「で、あの時さ……」
「なーに?」
「その、カカシ君……」
 言いよどむイルカにカカシは苛立つ。むくりと顔をあげればイルカは真剣な顔で口を引き結んでいた。
「なんですかー? 言いたいことあるならさっさと言ってください」
「だから、あの時、その、カカシ君の、く、首に……」
「あの時? ああ、アカデミーのカビくさい書庫にイルカ先生連れこんでかいてあげた時ですか〜?」
 カカシがずばりと言ってやればイルカは誰もいないのにあわあわと周囲を伺って赤くなる。
「そういことを言うんじゃないよ。そ、その時に、カカシ君の、首に、キキ、キスマークが、あったんだけど。あと、その、おしろいの、匂いが……して……」
「ああ。あの時任務で廓に行ってたからね」
「廓!?」
 イルカは目を見開いて、次にはしゅんとうなだれる。イルカの感情の推移がよくわからない。
「任務で廓に行くことに何か問題あるの? もしかしてイルカ先生は中忍レベルだからそんな任務とご無沙汰なの? てかそんなとこ行ったことないとか」
 カカシが冷たい声でたたみかければ、イルカはどんどんしおれていく。もともとあまり我慢がきかない性格のカカシはイルカが寄りかかるうしろの木に両手をついてイルカのことを逃げられないように囲ってしまった。
「あのさ、いらいらするから、何が言いたいのか、早く言って」
 のろのろと顔を上げたイルカはまっすぐにカカシを見つめてきた。
「俺、浮気は、いやなんだけど」
「……」
 イルカが言い出したことがあまりに予想外でカカシはすぐに反応できなかった。その沈黙をどうとったのかイルカは勢いを得て続けた。
「お、俺は冴えないし、そりゃあカカシ君にとっては俺はちょっと変わり種で新鮮な感じがしただけの深い意味がないことなのかもしれないけど、俺はカカシ君と約束したから待っているのに、でもカカシ君は浮気してるなんてそんなのは俺、許せない」
「は〜。浮気ねえ。あーちょっと黙って」
 言いつつ、カカシはイルカの口を手でふさいだ。
「なんかすっごい空回りだよね。まず俺はイルカ先生のこと冴えないなんて思ったことないな」
 うーうーとうめきながらイルカは睨んでくる。手をはずして、カカシはまだつけたままだった暗部の爪付きのガードを両腕からとった。
「イルカ先生」
 カカシが声をかければ、イルカは固く口を引き結んだまま、まっすぐにカカシのことを見た。そのストイックな口元にカカシの内心がざわめく。
「ねえイルカ先生。あんたきっと暇だからいろいろ余計なこと考えるんだよ。俺が何を考えているか教えてやろうか?」
 にっと目を細めれば、さすがのイルカも不穏な気配を感じたのか、体を固くする。すかさずカカシはとんとその体を押して、草に横たわらせた。
 のしかかったカカシはイルカのベストのジッパーを下げながら告げた。
「今ぁ、俺が考えているのはぁ、あんたに俺のつっこんで、喘がせてやりたいってこと」
「なっ……!」
 起きあがろうとしたイルカの首筋にそっと手をあてて、経絡をつく。力を奪う。
「言っておくけど、こんな無理矢理でしかも外なんて俺は望んでなかったんだけどね、あんたのせいだからねイルカ先生」
 舌なめずりするカカシにイルカの顔は青ざめた。



 カカシは最初から容赦なかった。
 色事に関することはもともと忍の技術の一環でもあるから、陥落させる手管などくさるほど知っている。イルカだけを裸に剥いて、カカシは何も乱れていない。愛する相手にかなりの自制を強いられているが、今は徹底的にイルカにカカシの思いを植え付けたかった。
「も、やめ、ろ。頼む、から」
 とっくに最初にかけた術など解けているが、さんざんカカシにいじられて、高められて腰砕けとなったイルカは身動きできない。草の上にしどけなく横たわったまま腹や胸に何度か吐精したものをまき散らし、鍛えられた体にはカカシがつけた赤い跡がいたるところに散る。
「まだまだ。だって俺まだ突っ込んでないし」
「ふ、ざけるなっ」
 イルカが体をよじろうとするからまたカカシは上からのしかかる。そのまま下肢を掴んで柔らかく揉む。胸に舌を這わせて、飾りには歯をたてる。ぴくりとイルカが反応を返す。
「イルカ先生って乳首弱いんだね。発見」
「弱く、なんてっ、ない!」
 舌先で見せつけるように転がしてきゅうと吸えば、イルカの下肢がぐんと育つ。何度か射精しているのにまだ元気だ。膨れあがって開放を求めるそこを無意識にイルカがカカシの体にすりつけようとしたから、カカシは体を離す。
  え? とイルカが瞳を揺らしたのに満足した。
「ねえイルカ先生。言ってなかったかな。俺ね、女に興味ないんだ」
 カカシはイルカの濡れた頬にキスをして囁いた。赤い顔をしたイルカが瞳をぱちぱちとまたたかせて、じっとカカシを見つめる。
 いつもとは違って艶のある顔に、カカシの自制もそろそろやばくなっているのだが、きちんと言っておかねばならない。
「だから廓でつけてきたキスマーク? きっと女の誰かが遊びでつけたんだろうね。まあそういうことに無頓着な俺が悪かったかな」
 ちゅっちゅっと顔中優しくついばんでやれば、少しずつイルカの気持ちがほぐれていくのがわかる。
「年上で、ちょっと野暮ったいけどウブな感じがね、いいの。イルカ先生はどんぴしゃで俺のタイプなわけ。だから約束守ってセックスは暗部の奉公明けるの待ってたんでしょうが。そりゃあさんざんお触りしてるけど、突っ込んでなかったからね。イルカ先生のことだーい好きだから我慢してたの」
 カカシがまるで大人のようにイルカの髪を優しく梳くと、イルカの手は無言のままカカシの頬に触れて、そのままうなじに絡ませて、自分から、口を寄せてきた。イルカからの舌を差し出す口づけに、カカシもうっとりとなる。己の下肢がそろそろやばい感じなのがわかる。
「ん、ん、ぅ……」
 角度を変えて深くむさぼり、離れた口の端から唾液を垂らすイルカが舌を出してそれを嘗め取る。カカシから目をそらさずにひくっと一度鼻をすすって告げた。
「カカシ君、かっこよかったから、絶対もてるし、だから、俺なんかって思って」
「それで?」
「俺、はっきり言ってたいした人間じゃないし、カカシ君は勢いにおされて俺のこと好きだって言ってきたけど、そろそろ、気づくんじゃないかって」
「だから浮気ねえ」
 やれやれとカカシは力が抜ける。イルカは見た目と違ってどうやら繊細な神経をもっているようだ。カカシは自分の性格上、ついつい心とうらはらな態度をとってしまうことが多いのだが、それも改善しないとイルカこそが里にいて浮気してしまうかもしれない。とは言っても自分の性格など今更すぐには修正するのは難しい。
 カカシのことを目を潤ませて不安げに見つめているイルカに優しく、極上に笑いかけた。
「優しくしたいんだけど、痛かったら言ってね」
 ぽいぽいと服を脱ぎ捨てて全裸になったカカシの下肢はすでに臨戦態勢になっていた。イルカの視線がそこに動き、驚きに見開かれるのにカカシは笑顔で肯いた。
「年のわりには結構いいもの持ってるでしょ? でももっと成長するから、とりあえず今はこれで許してね〜」
「いや、もう、充分だと思う……」
 イルカはわかりやすくおびえた表情になり、顔を歪ませて逃げようと体をよじる。
「や、やっぱり、奉公が終わってから……」
「だからねえ、イルカ先生、もうそんなことど〜でもいいの」
 カカシはなんなくイルカの体を戻して、さっさと膝裏に手を差し入れて、目指す箇所を目の前にさらす。いじったことはあるがきちんと見るのは初めてだった。暗闇に慣れた目にはうごめくさまがはっきりと見ることができた。見られていることの羞恥でイルカは反応しているようだ。
「ねーえ、イルカ先生。舐めていい?」
「だっ、駄目だ! そんなとこっ!」
「なんでなんで〜。ここにお世話になるから挨拶しないと」
「馬鹿! とっ、とにかく、舐めるなんて駄目だ!」
「ケチー。わかったよー。じゃあそれはいつかね」
 カカシはつぷりと指をいれた。
「う…あっ」
 イルカはのけぞった。しかし気力をしぼったような顔でカカシのことを睨み付ける。目の中の強い光にカカシはごくりと喉を鳴らした。
「そーんな顔されても煽るだけなの。あんた外回りの任務に出ないでね。強い敵に会ってそんな顔見せられたらその気のない奴もその気になってつっこまれちゃうからさ」
 カカシは楽しげにイルカの先端から溢れて腹に落ちていたものをすくって潤滑剤の代わりにしてほぐす。今までつっこんだことはなかったがさんざんいじってきた箇所だ。ほどなくしてイルカは堪えきれないような吐息を漏らし始めた。奥もひくひくと物欲しそうに呼吸している。声を殺そうと指をかむ姿がカカシの欲を煽る。
「はいはい。そろそろあげまちゅからねー。大きいのあげちゅよーいいでちゅかー?」
「ん……ふざ、ける、な。もっ」
「ふざけてませーんよっ、と」
「俺が、いつ、大きいほうがいいとか言ったよ!」
 ずんと突きいれるとイルカが声にならない悲鳴を上げた。
「! やっ……。大き、いっ、て!」
「だから、イルカ先生の為に頑張って成長してるからね〜」
 柔軟にイルカが飲み込んでいくのがわかるからカカシはためらわずにすべてをおさめてしまった。今までなれさせてきた成果とでもいうのか、結構な大きさのはずのそれは先端がおさまればまるで誘うようにカカシを導き入れた。
「あー。気持ちいいー。イルカ先生、いい体してるねー。たまんない」
 はあと吐息を落としたカカシは体を倒すと涙をこぼすイルカの目尻を舐めた。
「なーんかずっとこうしててもいいなあ。朝までこのままってどう?」
「や、だ、に、決まってるだろ!」
「ええ〜? じゃあ動いてほしいの? やらしいなあイルカ先生」
 カカシがふざけてからかえば、イルカはくやしそうに睨み付けてくる。カカシはそれだけでぞくぞくしてぶるりと中が震える。
「ふ、ん……」
 鼻を鳴らすイルカの乱れた髪を撫でて、ちょんと触れるだけの口づけを何回も何回も繰り返してイルカを懐柔しようとつとめる。
「朝までこのままが嫌なら、どうして欲しいの? ねえ」
 イルカが頭を振って口を引き結ぶから、カカシは少し下肢を揺らしてみた。
「ん!」
 イルカは背筋をそらせる。カカシは内部でとっくにイルカのいいところをさぐりあてていた。
「イルカ先生、言ってよ。ね? お願い。イルカ先生が言ってくれなきゃ俺このままだよ? 俺は別にいいけど、イルカ先生はいやなんでしょ? だったら言ってよ。言ってくれないとわからないよ」
 カカシはいきなり甘ったれた声でイルカにねだる。
「ねえ、俺ガキでお馬鹿ちゃんだから、イルカ先生がいっぱい教えて。どうして欲しいか言って」
「……だったら、抜け、よ」
「あは。それは無理。だって、イルカ先生も、ほら」
 カカシは笑顔のまま、イルカの手をとってイルカ自身を握らせた。そこはさきほどまではうなだれていたはずが、力みなぎって互いの腹の間で存在を主張していた。イルカはかーっとなり手を離そうとするが、カカシはそれを許さず手を重ね合わせた。そして一緒に握りこんで刺激を与える。
「やっだ、やめろ、カカシ!」
「あはは〜。結構感じやすいねイルカ先生。ねえ言って。イルカ先生の中にある俺は、どうしたらいい?」
 水っぽい音と体にしみこみそうなほどのイルカの匂いがカカシの気持ちをますます高ぶらせる。本当はすぐにでも乱暴に突き上げたいのだが、イルカにねだらせたかった。ぐんぐんと手の中で育つイルカにイルカ自身はいたたまれないからか必死で目をつむっている。途中で手を離して、息を乱すイルカにぎゅうとしがみついた。それがカカシの腹筋に触れて、刺激にイルカはひくりと喉を鳴らす。
「イルカ先生、あったかいねー。俺なんか眠くなってきちゃったよ。どうしよう、こんなところ明日誰かに見つかったら。俺はいいけど、イルカ先生は大丈夫?」
「だ、から! 抜けって!」
「やだよ〜」
 つん、とカカシは顔をそらす。とは言ってもそろそろ限界が近い。ここでイルカが言ってくれなければ好き勝手に揺さぶるしかない。いたずらな指先で乳首をぬるぬるといじり、耳にかじりつく。
 熱い吐息とともに、好き、好き、と甘くとろかすように注ぎ込めば、とうとうイルカの口から悩ましいため息がこぼれた。ゆるゆると手がカカシの頭に回って、しがみついてきた。れろ、とカカシの口を舐めて、囁いてきた。
「奥、……。カカシ……」
 イルカの声もかすれていた。
「りょーかい」
 体を起こしたカカシにイルカはしがみついたままだった。体格の劣るカカシがイルカを載せて、下から揺らす。
「……や、だっ、て」
「やじゃな〜いよ」
 イルカはカカシにしがみついて鳴きながら甘く喘ぐ。カカシはたまんない、と息を吐き出しておさえがきかず乱暴にイルカを揺する。
「好きだよ、イルカ先生。あんたが好き。あんただけが好き。だから俺のこと、捨てたりしたら、駄目だよ」
 イルカをかき抱きながら何度も何度もカカシは甘く囁いたが、果たしてイルカには聞こえていたのか。
 イルカはカカシの腕の中で気を失った。





「ちょっとイルカ先生。あんただらしないよ。あれしきのセックスでどうして動けなくなるかなあ」
 イルカを動けなくした元凶であるカカシは敷布の上に横たわったままのイルカに辛辣な言葉を投げつけた。一仕事終えてきたカカシは面を適当なところに置いて、イルカの傍らに座った。
 イルカが目を覚ましたときにはすでにこのカカシのテントにいて、がばりと起きあがれば、腰が抜けていて立てなかった。補給部隊はとうに出発して、イルカ一人が残されたのだ。無理矢理出て行けたならとっくに出て行ったが、真剣に動けずに、屈辱ではあるがここでずっと寝込んでいたのだ。携帯食を準備するカカシに罵詈雑言を浴びせたかったがかすれて声もでない。せいぜい睨み付けるしか今のイルカには出来なかった。
「だからさ、何度言えばわかるの。あんたがそんな睨みつけたってかわいいだけなの。俺また勃っちゃうよ。それとも昨日あれだけやったのにまだ足りないの? してほしいの?」
 冷たく見下ろすカカシの声には本気が感じ取れて、イルカは慌てて毛布をかぶる。そこをすかさずカカシに抱きしめられた。
「ほんっとに、馬鹿でかわいいんだから」
 イルカのほうが大人なのに、すっかり子供扱いだ。あれよあれよと言う間に自分よりも細いカカシにお姫様抱っこのような格好で携帯食を手ずから食べさせられていた。なんだか情けなさに泣きたくなるが、さんざん恥をさらした後だから今更のような気もしてイルカは大人しく咀嚼していた。ふとカカシの動きが止まって顔を上げれば、カカシはイルカのことをうっとりと見つめていた。とろけそうな顔とでも言えばいいのか、カカシの表情が雄弁に語っていた。
 好きだ、と。
 どっとイルカの鼓動が跳ね上がる。がーっと体の熱があがる。急いで顔をそらそうとしたのに、カカシの色違いの目がゆっくりと閉じられて口を塞がれた。
 長い口づけのあと、カカシが優しく優しく微笑んだ。そして凍るような声で囁いた。
「浮気したら殺すからね」と。





 その日のうちにカカシの手によって誓約書は提出、受理された。

 

 

 

おわり