秋の花火 肆
 
 
 
 
 カカシが子供に変化した日から二人枕を並べて眠るようになった。
 イルカは何も言わずに2階から布団を下ろしてきて、居間の端に置いた。一度は襲いかかろうとしたカカシを警戒することなく、風呂にも一緒に入ろうといってくる。その真意がわからずに問いただしてみたが、今のカカシは子供だからだと、わからないことを言う。中身はしっかり大人だというのに。
 だが実際のところ、あの夜無理にでもいたそうとしてしまったのが信じられないくらいに穏やかに、満ち足りた気分で時を過ごしている。風呂では湯をはねさせながらつかり、布団の上ではごろごろと寝相も悪く転がっている。戯れにでもイルカに手を出そうという気にはならず、くっついて眠っていた。
 子供に変化したカカシをイルカはアカデミーに執拗に誘ったがさすがにカカシは固持し続けた。だがカカシは一度だけ授業をこっそりのぞいてみた。中忍の教師に気配を悟られることはなく演習をうかがってみれば、イルカは下忍になっているはずなのに、アカデミーの生徒と同等かそれ以下のお粗末さで、火遁で木を燃やそうとするわ、基本的な体術訓練ではアカデミー生にふっ飛ばされる始末だった。
 そんなイルカを子供たちは笑い、イルカも一緒になって笑っている。
 見るに見かねたカカシが一度だけイルカの術の発動に合わせてチャクラを練り込んでやれば術は思った以上の威力をみせ、演習場の上空だけしばらくの間雨を降らせた。
 ぽかんと空を見上げる子供たちの顔に交じって、イルカだけが少し青ざめて首を傾げていた。
 その表情を見た瞬間に、馬鹿なことをしたとカカシは頭を抱えたくなった。おそらくイルカは、わざと力を加減して術を発動していたのだ。どういう意図があるのかはわからないがカカシが仕掛けたことは余計なお世話ということだ。
 演習場から飛び出したカカシは馬鹿にされて注目されるイルカの笑顔に鼻の奥がつんとなる。イルカは寂しい子供だ。その寂しい子供を置いていかなければならないなんて。
 日々鮮明となる未来の世界の映像を振り払うようにカカシは駆けた。
 
 
 とうとう花火をあげる前日になった。
 たいしたものではないのだがと、納屋からイルカは長さ1メートルほどの筒を持ってきた。煉瓦色の表面には墨で黒々と“一番”と書き殴られている。カカシにレクチャーとばかりに化学化合物の名前をあげて色はどうのこうのと教えてくれるのだが、結局カカシの頭に残ったのはぼたんと言う種類の打ち上げ花火で、高度は120メートルほど。夜空にぱんと花を咲かせて尾を引くことなく潔く散る種類のものだということだ。
 イルカは花火玉という直径10センチくらいの丸い玉を両手に大切そうに載せて、これを筒の中にいれて点火すると告げたが、カカシはなにげなく訊いてみた。
「その玉、イルカの親父さんが作ったのか?」
 イルカは頷いたが、カカシは重ねて訊いた。
「一応訊くが、去年、作ったものだよな?」
「あったりまえじゃん。父ちゃんが死ぬ前のことだもん」
 カカシは花火に詳しいわけではないが、確か、波の国に行った際、子供たちが最後の日に花火で遊んでいた。そこで目にした記述には、花火は翌年にもちこしてはいけないようなことが書かれていなかったか? しかもイルカがあげようとしているのは大がかりな打ち上げ花火。
「それ、危ないんじゃないか?」
「なんで? 大丈夫だよ」
 イルカはけろっと答えるが、カカシは暢気に頷くことはできなかった。
「今からでも作らないか?」
「はあ? 何言ってんだよ。これ作るの時間かかるんだぜ? すぐに作れるものだとしても作り直さないけどな」
「でも・・・」
「これじゃないと意味がねーの」
 一歩も引かないイルカにカカシはうなだれる。ガキの頃から本当に頑固だ。
「大丈夫だって。ちゃんと花火師の人のところに通って作ったんだから」
「いや。そうじゃなくて・・・」
 イルカは筒をはけできれいにしようと動き出している。もう仕方がないとカカシは腹をくくった。
 
 
「カカシって結構傷多いな」
 湯気にけむる風呂場で、イルカはカカシの背中をごしごしと流してくれていた。
「まあな。6歳の頃には前線に出ていたから」
「ええ? 6歳でもう下忍になったのか?」
「うーん。まあな・・・」
 本当は中忍だが、ごまかしておいた。
 イルカはしきりに感心してすごいすごいと連発する。
 交代で流してやったイルカの背に目立った傷はなくすべらかで、まだ彼が守られる側にいることに安堵する。大人のイルカは傷だらけで、上忍のカカシよりもよっぽど歴戦の強者のような風情だった。
 二人で湯船につかり、檜の枠のところに頭を載せて深く息をついた。
 天井から時たま落ちるしずくの音だけが、静かな世界に生を意識させた。揺れる、動く世界。気を抜くとカカシの意識は本来の世界へと引きずられ、変化が解けそうになる。
「なあカカシ」
 天井を見たままイルカは静かな声を発した。
「寝てる時な、たまにカカシの変化が解けて、大人になっていることがあるんだ」
「そうかあ。俺の変化もたいしたことないなあ」
「違うだろ」
 会話を流してしまおうとしたカカシの意図を察したようにイルカはぴしゃりと返してきた。
「変化が解かれるだけじゃなくて、なんとなく、発光しているんだ」
「・・・そうか」
 終わりが近い。そんなことは自分が一番よくわかっている。カカシは口元までぶくぶくと湯船に沈む。
「だからさ、カカシ」
 イルカがカカシの肩を掴んで二人は向かい合わせになる。きらきらと黒水晶のように輝くイルカの目にカカシは見入る。
「明日、花火あげようぜ。そしたら僕、本当に本当に、大丈夫だから」
 大丈夫、とイルカは繰り返す。確かに、イルカは大丈夫だ。大丈夫でないのはむしろカカシのほうだ。イルカと離れることができるのだろうか。
 するりと手を伸ばして、イルカをそっと抱き寄せた。
 
 
 待っても待ってもイルカが帰ってこない。
 作っておいた夕飯はとっくに冷めて、晴れ渡った秋の夜空には星が瞬き始めた。
 縁側にでて空を伺っていたカカシはあまりの静けさに耐えきれずに、筒と花火玉を持って飛び出した。
 とりあえずあの場所に道具を置いて、イルカを探しに行けばいい。きっとアカデミーで居残りで補習でもやらされているに違いない。
 日が落ちた里は人の気配がなく、息をひそめる気配がかえって身に刺さるようで、カカシはぶるりと体を震わせた。イルカがいなければ夜はこんなにも不安だ。災厄の当時に避けた里は大人になった今でも好んでいたいような場所ではない。九尾の禍々しいチャクラがまだ里を覆っているようでいたたまれない気にさせる。
 暗い森に道具を放り投げるように置いて、とんだ。
 早く、一刻も早くイルカに会いたい。イルカならこの不安な気持ちを消し去ってくれる。
 
 アカデミーはとっくに門を閉じており、力無い足取りのカカシは無意識のうちに金木犀の通りにいた。山吹色の粒はほとんど散っていた。おとといの雨だろうか。つんと鼻の奥を匂いが刺激する。
 ナルトたち一向はもう里のすぐそばに迫っている。時間がない時間がない。
「カカシー? どうしたんだ?」
 通りの向こうから駆けてくるイルカ。体中、顔も泥で汚れている。
「カカシ・・・。なんだよ。悲しそうな顔して」
「イルカが、帰ってこないから」
 不安な気持ちのままに呟けば、溢れんばかりの笑顔のあとで、イルカは気恥ずかしそうに鼻の下をこすった。
「ごめんごめん。友達の落とし物捜し手伝っていたんだ」
「すげえ、不安だった。イルカがいないと、不安で不安で仕方なかった」
「ごめん! ほんとごめん!」
 カカシがにこりともしないから、イルカは顔の前で真剣に手を合わせた。
 その手をとったカカシは、きつく握った。
「花火。あげよう。道具、置いてきたから」
 本当はあげたくない。あげてしまえば最後だとわかるから。でもあげなければいけない。そうしなければイルカは前に進んでいけない。
「うん。あげよう」
 頷いたイルカとともに駆けだした。
 
 
 筒を固定させるために少し土を掘って埋めた。導火線を伸ばし、あとは点火するだけだ。
 イルカは深呼吸を何度か繰り返したあと、決意をこめてマッチを擦った。火をつけて、すぐに離れて距離をとる。ジジジジ・・・と火が線をたどり、筒の中に吸い込まれていった。筒内の温度、圧力が上昇して、花火玉を打ち上げるとのことだが・・・。
 一分、二分、三分・・・。待てどくらせど反応しない。忍の耳を澄ましても、うんともすんとも言わない。二人は顔を見合わせた。
「イルカ、お前は親父さんと一緒に花火師のレクチャー受けたんだよな」
「ううん。父ちゃんに聞いただけ」
「はあ?」
 おそろしいことをイルカはあっさりと告げた。
 筒を見やればやはり打ち上がるような気配がない。
 もしかすると、間違ったやり方であげようとしている可能性が高いのではないか?
「イルカ!?」
 カカシが考えているうちに、イルカは筒に近づいていた。導火線を検分しようとしゃがんだその時、カカシの耳は確かにとらえた。
「ばっか! 離れろ!」
 遅ればせながらも点火していることに気づいたイルカはそこから飛びすさり、同時に花火玉が燃焼しながら空に向かう。カカシがイルカを抱き留めて、二人一緒に空を見上げた。
 光の尾を引いた玉が揺れながら到達点を目指し、一瞬空中で止まり、ふわっと花開いた。
 中心から四方に光が飛んで緑の鮮やかな花を形つくる。まるで木の葉の緑を潤すように咲き、そして数秒・・・散った。
 花が開いた瞬間、カカシにすがりついていたイルカの手がぎゅっと握りしめられ、緑の花からイルカに、カカシの視線は動いた。
 口を半ば開けて空を見上げるイルカの顔に映える緑。くいいるように目を見開いて、小さく、「咲いた」と呟いた。かすかな吐息のような音。カカシはそのままイルカを引き寄せて胸の中に強く抱いた。
 咲いた。別れの花が、咲いた。
 
 
 
 イルカはずっと軽い興奮状態で、帰りの道すがらもカカシにまとわりつくようにして花火の成果を語っていた。きっと里の人間の何人かは見ているはず、明日話題になっているだろうと。誰かが駆けつけてくる前に二人は早々に場をあとにして家に帰りついた。
 もう日時がかわろうというくらいの時間になっていた。一緒に風呂に入ろうというイルカの前にさっさとシャワーだけを浴び、イルカにはたっぷり湯につからせた。カカシはもとより、興奮しているイルカも特に空腹は訴えてこない。イルカが風呂に入っている間に、カカシはさっさと眠る準備を整えてしまった。
 心地よい夜気に、縁側の窓は開け放った。寝ころんで空を見れば星が鎮座し、目の奥にはさきほどの緑の花がとどまっている。
 イルカは見事に花火をあげた。ここから彼は力強く進んで行く。未来で出会う強くて優しいイルカになる。
「カカシ? 寝てるのか?」
「ん。いや、起きてる」
 ほこほこと湯気をたてたイルカが石鹸のいい匂いをさせて居間に入ってきた。髪をがしがしと拭きながら、カカシの横の布団に胡座をかく。パジャマの替えがなく、浴衣に身を包んでいた。仰向けに寝て、頭の下で両手を組んでいたカカシはイルカを見上げた。うつむいて髪を拭く姿の黒髪の奥から見える白い首筋とか、浴衣の裾からのぞく足だとかに視線が動く。イルカは適当なところで髪を拭くのをやめると、うつぶせになって布団に転がると、頬杖ついて、やはり空を見上げた。
「サイコーだったなあ。な、カカシ」
 にこりと微笑まれても、カカシは気のない返事しか返せない。
「僕さ、明日、ナルトに会いに行こうと思うんだ。火影様にお願いしてみる」
「まだ、会ってなかったのか?」
「うん。ほんとは半年くらい前から、会ってみたいならって火影様には言われてたんだけど、ふんぎりつかなくて」
 僕弱虫だからと、イルカは照れたように鼻をかいて舌をだす。
 いきなり、カカシは起きあがると、正座になった。
「イルカ」
 真剣な声をだせば、なにごとかを感じ取ったイルカも同じように起きて正座になった。
 イルカのつぶらな瞳に、ごくりと喉がなる。
「俺、多分、近いうちに帰らなければならないんだ。本当は帰りたくないんだけど、でも、戻される。イルカと離れたくない。そばにいたい。でも・・・」
 言葉が続かなくて、下唇をかむ。そんなカカシに首を傾げたイルカは、少し目を細めて、ものわかりのいい大人のように頷いた。
「わかってるよ。カカシはここにいるべき人じゃあないんだろ? 仕方ないよ」
「仕方ないとか、言うな」
 カカシが赤い目で睨み付けると、イルカは困ったように頭をかいた。
「カカシ、大人なのに、僕より子供みたいだぞ」
「だって、イルカのこと、大好きなんだ」
「僕だって、カカシのこと、大好きだよ」
 イルカはカカシの膝にある手をそっと握ってくれた。暖かな、柔らかな手。そこにぽつんと涙が落ちた。
「俺、イルカを持って行きたい。イルカの一部でいいんだ。イルカに俺のこと忘れてほしくないんだ。俺に思いつく方法はこれしかないから・・・」
 イルカが何か言う前に、すくい上げるようにしてカカシはイルカに唇を押し当てた。
 
 
 どんな言葉を連ねようと、結局みにくい大人の欲でイルカを汚してしまうだけかもしれない。けれどいつか誰かがそれを行うというのなら、今カカシ自身が汚してしまいたかった。
 唇から始まり、首筋、鎖骨、とあとを残すようにきつく吸い付く。そっと襟のあわせから手を差し入れて、さらりとした胸を撫でれば、くすぐったいとイルカは身をよじる。誘われるように、薄い桃色の乳首を舐める。片方を指先でつつきながら、もう片方にちゅっと吸い付くと、くすっとイルカは笑う。
「カカシ、赤ちゃんみたいだな。僕、お乳なんてでないぞ」
「うん。でも、おいしいんだ」
 足を広げて、その間にカカシの体を入れたイルカは緊張のためか体は熱い。けれど口では余裕なことをいう。
「イルカの肌、すべすべだ」
「カカシだって、そうだろ・・・」
 イルカの腹筋や脇を撫でさすると、イルカもお返しとばかりにそっと触れてくる。
 いきなりカカシが始めた行為を咎めることなく、受け入れてくれるのは何故なのか。カカシが無理矢理に犯そうとしてしまった時には必死で抵抗したのに。
 イルカの乳首に熱心に吸い付きながら、聞いてみた。
「なんでイルカ? 同情?」
「んん。わかんないけどでも、カカシ、優しいし・・・同じ、子供だし・・・」
 イルカに髪を優しく撫でられれば、カカシの気持ちはさらに高ぶる。乳首は真っ赤に充血してしまっている、明日痛んでいるかもしれない。そこを労るように舌でミルクを舐める動物のように執拗にいじっていると、頭上のイルカの吐息がかすかに色めいて、鼻にかかるようなものがまじり始めてきた。上目使いで見たカカシとばっちり目があったイルカは潤んだ目をして、乾く唇を舐めていた。その唇に誘われるようにカカシは伸び上がり、口づけた。ゆるんでいたイルカの唇に進入するのはたやすく、おびえて奥に引いていく舌を誘い出して少し軽めにだが歯をたてた。唾液を送り込んで、顎を固定して無理に飲ませる。
「は・・・カカシ・・・」
 肩で息をして、飲みきれなかった透明な滴を口の端から垂らす姿はひどくなまめいて見えた。
「可愛いね。イルカはかわいい」
「やめろよ。なんか、むずむずする」
「それは感じてるってこと」
「感じる・・・?」
 性のなんたるかを知らないイルカは体の変化に少しおびえたように首を傾げる。
 顔中にキスを降らせて、その隙に、カカシは下肢に手を伸ばす。ゆるくなっていた帯をしゅるりと解いて、イルカを下着ごしに指先でたどれば、濡れた感触がして、反応しているのがわかる。イルカが感じてくれていることが嬉しくて、カカシははやる心のままに直にイルカを握りこんだ。
「? あれ? イルカ・・・」
「なに? カカシ! やだ!」
 イルカの制止などものともせずにカカシは下着を下ろしてしまい、かがんで、握りこんだままのイルカ下肢をまじまじと見ていた。
 反応を始めて、天に向かいだしているイルカの分身は、きちんと剥けていた。きっと、いや絶対、一度も使ったことがないはず。イルカのことだから、自慰だってしたことが、もしかしたらないのかもしれない。イルカはいわゆる仮性というやつで、しっかり成長しているということだ。全く毛が生えていなくて、ものはきれいなピンク。茎のところはつやつやとして、先走りにぬるつきだした先端は白さを交えてぴくぴくと息づいていた。
「カ、カシ・・・。見ないでよ。恥ずかしいよ僕・・・」
 イルカの涙声に、カカシははっとして手を離す。
 イルカは、後ろでに手をついて片足は膝をたて、片足は伸ばして大きく広げられていた。浴衣ははだけ、両腕だけを入れてはおっているだけの状態。白い肌の両胸の飾りは赤く乳首をたて、下肢は見られることに知らず羞恥を覚えつつも興奮するのか、カカシの目の前で力を得始めている。忍の目で、暗がりでも苦にせずにイルカの肢体を堪能できる。カカシの視線から逃れるように顔を背けた仕草がまた愛おしさと欲望をカカシのなかにとめどなく溢れさす。
「イルカ・・・・自分で、いじったりしたことないのか?」
「な、いよ、そんなの。汚いだろ・・・」
「じゃあ、自分でも、誰も、イルカに触ったことないんだ」
「ない。あるわけないだろ。そんな、場所・・・」
 イルカはますます顔を赤らめて俯いてしまう。
 呼びかけるカカシの声は掠れていた。すでに痛いくらいにはりつめている自身をイルカの中に埋め込みたい衝動に駆られるが、それよりも、だらだらとこぼれていくイルカの体液がもったいなくて、かがみこんだカカシは根本を押さえて、イルカのきれいな小さな性器をくわえていた。
「カカシ? 何? き、汚いよ! やめて! ねえ・・・!」
 イルカのせっぱつまった声など聞いてやる余裕はない。
 喉の奥まで迎え入れてもちっとも苦しくない小ささが愛しい。吸引するようにしてしぼりとる。くびれのところに歯をたてるとびくりとイルカの体がはねる。
「やめ、やめて、カカシ。お願い・・・」
 ひくっと鼻をすする音が聞こえて、一旦口からだしたカカシは口元を拭って、涙がこぼれているイルカの目元に口づけた。けれど握りこんだ手は離さない。ひくひくと震えているそれは、手を離した瞬間にいってしまうかもしれない。
「ごめん、イルカ。大丈夫だから」
 大丈夫、とイルカが口にしていた言葉をあえて使ってみた。安心させるように、頬を撫でたり、肩をさすったりする。イルカはだんだんと落ち着いてきたのか、唇を自分からよせてきた。
「僕、よくわからないんだ。カカシが、しようとしているのは、もっと、大人になって、することだろ? 僕まだ下忍だし、子供なのに、こんなこと、していいのかな?」
 息が熱く、甘い。イルカの心臓は壊れてしまいそうなくらい早鐘を打っている。頬は赤くどこかうっとりとしている。カカシの頬も緩む。
「子供でも、大人でも、愛しい人ができたら、していいんだ。俺は、イルカがかわいくて仕方ない。イルカと、したいんだ」
「するって、何を?」
「うん。セックス」
 あからさまな言葉にイルカの頬がまた赤くなる。とりあえず知識としては知っているが、実感は伴っていなかったのだろう。
「でも、それは、女の人とすることだよね?」
 おずおずと聞いて、イルカは両腕をカカシの首のうしろにまわしてくる。そんなかわいい仕草にカカシにはもう中断する余裕はなかった。
「いいの、好きな人に男も女も関係ない」
 再び体を沈めて、イルカの雄にしゃぶりついた。
「ちょっ・・・。あ、ああ・・・!」
 イルカの喉がのけぞる。閉じようとする足をあいていた手で押し開き、舌をうごめかせて執拗に愛撫するとイルカは逃げをうって腰をひこうとする。それを許さずに唇をすぼませれば耐えきれないとばかりに、カカシの頭をぽかぽかと叩く。不慣れな反応がかわいいが、意地悪をしたくて、くわえたまま根本を擦ってみた。
「や・・・あ、いやだ・・・・、カカシィ・・・!」
 イルカの艶っぽい声にカカシは思わずしゃぶったままで目を上げると、感極まったような、辛そうでいて惚けたようにうっとりとしたイルカと目があった。その瞬間に、強くくわえたまま、せき止めていた手を離した。熱い液体が、喉をつく。イルカだ。イルカが体の中に入ってくる。カカシはその認識に思わず自分もいってしまった。下着の中にいやな感触がして、そのことに気づく。
 イルカがだしたものを全て飲み込んだあと、力無く布団に倒れ込んだイルカにかぶさると、きつい目で睨まれた。イルカはゆであがったような真っ赤な顔をしたまま、頬は涙でぐしょぐしょだ。そこをぺろりと舐めた。イルカは嫌がってカカシの顔を押しのける。
「酷いよ。イヤだって言ったのに・・・。それに、なんだよあれ。あそこから出たものなんて、飲むようなものじゃないだろ」
 イルカの顔を囲うようにして手をついたカカシは喉に残る苦みにせつなさが募る。
「イルカ以外のやつのは汚いけど、イルカのは汚くない。これで、俺の中に、イルカが入ってきた。すごく、嬉しい」
 額に口づけると、イルカは真っ赤になり泣きそうに歪ませた顔で、枕につっぷしてしまった。
「馬鹿じゃねえか。おかしいよカカシさん・・・」
 照れるイルカがかわいくてカカシもイルカの横に倒れ込んだ。情けないがカカシもいってしまったから、別にイルカの中に入らなくてもいいと思った。ただぬくもりをより深く感じたくて、イルカの浴衣を脱がせてカカシも全裸になり、下肢を拭ったあとでイルカを抱き込んだ。
 腕の中でとろんとした目をしたイルカがカカシをじっと見つめてくる。そんな色っぽい目で見られると、またぞろ下肢が力を得そうだが、忍の人文字で堪える。
 イルカは不意に手を伸ばすと、カカシの目をのぞき込んで、無邪気ににっこり笑うと触れるだけのキスをして、身をすり寄せてきた。
「僕、カカシのこと、忘れないよ」
「うん。うん・・・」
 カカシは涙がこぼれるのを見られたくなくて、きつくイルカを抱きしめてそのまま眠りについた。
 
 
 
 

 

 明け方、目を覚ましたカカシは、すっかり大人の本来の自分に戻っていた。
 傍らで安らかに眠るイルカの額にキスをして、きちんと浴衣を着せてやった。
 髪をすき、顔の輪郭をなぞるように頬を撫でる。去りがたい思いを断ち切って、カカシは家を出た。
 
 
 



 カカシは金木犀の道に一人立っていた。遠くまで続く塀。最初に訪れた時と同じ、夕焼けの小径に人の気配はない。
 金木犀は全て枯れていた。けれど漂う花の香を全身て抱きしめる。
 白いもやに景色は塗り込まれ、目を閉じたカカシは涙した。
 
 
 
 
 
 
 
 
 





一連のシリーズをオフ本にした時にばいおばさんに書いていただいた表紙です。美しい〜懐かしい〜。