僕忍(ぼくにん)−イルカ− 結






 嵐の翌日、アカデミーを訪れてイルカを昼に誘った。取り巻きたちを尻目に持ってきた高級弁当でイルカを連れ出して、アカデミーの庭の木陰のベンチで並んで座る。
「わあ。おいしそう。僕ね、ここのお店のお弁当大好きなんです。このね煮豆なんてすっごくおいしいんですよ〜」
 イルカはぱあっと笑って勢いよく食べ始める。一生懸命な姿がかわいくて、カカシはぼんやりとしたままイルカの頬についているご飯粒を己の口でとっていた。
 イルカはぱちぱちと大きな目を瞬かせて、カカシを見る。そこでカカシはやっと我に返った。要するに、イルカの頬にキスしてしまったのだから。
「カカシ先生……?」
「あ、いや、これは、その! お、おいしそうだなって思って!」
 カカシがそらぞらしく笑うとイルカはぷっと吹きだした。
「食いしん坊さんですね。カカシ先生のお弁当もあるじゃないですか」
「そ、そうですよね。俺も食べようっと」
 焦ったカカシは箸を落としてしまう。
「そそっかしいですね〜」
 イルカは仕方ないなあと言うと、自らの箸をカカシに差しだしてきた。
「どうぞ。僕の使ってください」
 その箸をじっと見ていたカカシはそっとイルカの顔を伺うと、思い切って告げた。
「あの、俺、そそっかしいから、イルカ先生に、食べさせて欲しいなあ、なんて」
 言った途端にカカシはかああっと全身が熱くなる。なんという恥ずかしいことを言ってしまったのか! こんな、甘ったれのガキのような発言など、今までのカカシからはあり得ないことだ。
 しかし言ってしまった言葉は引っ込めるわけにもいかず、緊張してイルカの言葉を待つ。
 イルカはいいですよ、と気楽に応じてくれた。
「カカシ先生は甘えん坊さんですね。いいですよ。何が食べたいですかあ?」
 優しく笑うイルカ。カカシは思わず呟いていた。
「食べたい……」
「はーい。何が食べたいんですかあ?」
 食べたいのは。

 イルカ先生。

 こんな時、それなりに経験を重ねてきたことがものを言うのか、カカシの大人の知恵袋は咄嗟に妙案を思いついたのだ。

「イルカ先生。最後の修行のことなんですけど」






「おじゃましまーす」
 玄関先でぺこりと頭を下げてイルカはカカシの家に入ってきた。
「まあお茶でもどうぞ。ケーキもいかがですか?」
 カカシが紅茶と苺のショートケーキを運んでくるとイルカの顔がぱっと輝く。
「僕、苺のケーキ、だあい好きなんです」
 うわーと喜んでぱくりとかじりつく。口元にクリームがつくのもかまわず一心不乱に口にする。
「そんなに慌てなくていいですよ。他のケーキもいっぱいありますからね」
 イルカが好きな店のケーキをイルカの為に買っておいたのだ。どんとテーブルに並べるとイルカの大きな目は感激のあまりかうるうるとなる。
「すごーい。いいんですか? 僕が全部食べちゃっても」
「もちろんですよ。イルカ先生の為に買ったんですから」
 正直カカシは甘いモノはそんなに得意ではない。イルカに食べてもらわないと困るのだ。コーヒーを飲みながら、カカシはじっとイルカを観察する。小動物系の食事の仕方。時たま顔を上げてカカシに向かってにこりと笑顔を見せる。無邪気な子供のような笑顔。
 なんというか、凶悪にかわいらしい。最初の頃に駄目駄目中忍だと思っていた己がわからない。イルカはこんなにもかわいいではないか。ナルトが執着を見せるのもなるほどとうなずける。
 あの夜にあからさまにカカシに対して牽制を示したナルトは今は任務に赴いている。今しかない、とカカシはさっさと決断して、イルカを自宅に招いたのだ。
 最後の修行の名目で。
 イルカに嫌な思いはさせたくないからカカシはきれいに己を磨いて、ベッドにはもちろん洗い立てのシーツをしいて、準備は整えてある。乙女ちっくなイルカの為にベッドルームはムーディーな感じで香を焚き、赤い薔薇を飾ってある。あとは、行動あるのみ。イルカのことを騙すことになるのだから、気持ち、申し訳ないとは思う。だが既成事実でも作っておかないとナルトにもっていかれるかもしれない。ナルトのことを猫かわいがりしているイルカだから、もしナルトと出来てしまったら、絶対に、ナルトのものになってしまう。それだけは阻止せねばならない。
「カカシ先生。怖い顔してる。どうしたんですか?」
 妄想で歯ぎしりしていたカカシのことをイルカが心配顔でのぞき込んでくる。いかんいかんと気を取り直したカカシはコーヒーのカップをテーブルに置いた。
「なんでもな〜いよ。それよりイルカ先生、修行始めるから、ベスト脱いで、ベッドに行って待ってて。俺は片付けてから行くから」
 当初はシャワーでも浴びてもらおうと思っていたのだ。きっと水を滴らせたイルカはまたかわいらしいに違いないと思ったが、常時だがなにやら甘い香りのするイルカを味わい尽くしたい欲望と秤にかけ、後者が勝った。
「ベッドですか? どんな修行なんです?」
 イルカが当然の疑問を口にした。カカシは笑みを深くして、ずばり告げた。
「最後の修行は、閨房術です」と。



「イルカ先生?」
「は。はいっ」
 明るいところでは嫌がるかと思い、カーテンは引いたままにしておいた。それでも外からのうすい明かりが届く。カカシが部屋に入ると、イルカはあきらかに緊張した風情でベッドの端にこぢんまりと座っていた。名を呼べばびくりと顔を上げ、カカシのこと上目遣いで見つめる。カカシが隣に座れば、沈むシーツに体が少し傾いたことにまたびくりと震える。
 びんびんに伝わるイルカの緊張になにやら生娘でも相手にするような罪悪感を覚える。もしや、イルカは経験がないのだろうか。
「えーと、イルカ先生。いちおう聞きますが、経験、ありますよ、ね……?」
 ちらりとイルカを見れば、イルカはかーっと頬を染める。
「あ、ありますよ! でも、一回しかないし、お、男の人とは、ありません。だから僕、どうしたらいいのか」
 カカシは口元が引きつりそうになるのを堪えた。
 確かイルカは二十五才。一度とは、不憫だ。不憫だとは思うがそれならほぼ経験などないと言ってもいい。丁寧に丁寧に、優しく抱いてやらねばなるまいとカカシは決意を新たにイルカににじり寄って、そっと肩を抱いた。
「全部、俺にまかせてくれればいいですからね。優しくします」
 くさい台詞がすらすらと出る。赤い顔のままじっとカカシのことを見つめていてイルカの大きな瞳が見開かれて、うるりと濡れる。
「僕、頑張りますっ」
 気合いを込めて宣言するイルカはとてもかわいい。しかしぼうっとしている場合ではない。カカシの息子はゆっくりと主張し始めている。早く早く、イルカの中に入りたい。そこで大暴れしたい、と。だが逸る体をクールダウンさせて、イルカのことをしかっりがっつりと堪能したい。
 カカシはごくりと喉を鳴らした。
「じゃあ、まず」
「脱ぎますね!」
「え!?」
 いきなり立ち上がったイルカは上着を脱ぎ、続いてパンツごとずぼんも脱いでしまった。
 脱がせる楽しみが! と動揺しつつももう一回着せようかと考えていたカカシをよそに、イルカは更に驚くべき行動に出た。むんずとカカシの肩を掴んだかと思うと、体重をかけてきた。
「イルカ先生!?」
 真っ裸のイルカに、カカシは押し倒されていた。
 きっ、とまなじりをつり上げたイルカが、鼻息も荒く、カカシの口にがつんとぶつかってきた。
「いてっ」
 顔を傾けもせずに正面衝突をしたため、鼻も口も、痛い。ついでに勢い余ってぶつかったおでこも痛い。
 痛みに一瞬くらりとなったカカシをおいて、イルカの手は今度はカカシの上着の裾に手をかけると、思い切りよくめくった。
「えいっ」
 いや、えいじゃなくて!
 とつっこみをいれたいが、イルカは休むことなくカカシの胸の飾りにばくっとかじりついた。
「! いっ……」
 痛みに、さすがのカカシも我を忘れた。イルカのことをいささか乱暴にひきはがす。
「ストップ! ストーップ! イルカ先生!!」
 ひきはがしてもイルカはじたじたと手足を動かしてカカシの乳首をかじろうと口を突き出す。
「僕、頑張りますって言ったじゃないですか!」
「わかりましたよイルカ先生のやる気は。そうじゃなくて、なんで、イルカ先生が俺に乗るの。俺がイルカ先生に突っ込むの!」
「へ……?」
 イルカの動きが止まる。きょとん、と首をかしげる。
「そうなんですか? 僕が、抱くほうじゃないんですか?」
 とんでもない勘違いにカカシはぎゃーと叫びそうになる。
「違います。断じて違います! 閨房術ってのは、敵から情報収集するための忍者の技のひとつです。だから抱かれ方を学ぶんです!」
「でも僕、男だから、敵のくの一を抱くじゃないんですか?」
 イルカの当然の反論に怯むカカシではない。
「確かに、イルカ先生は男です。でも普通の閨房術ならそれこそ女が指導しますよ。俺がやる意味はね、男であってもそういう目に遭うことがあるでしょ。その時の耐性を磨くための訓練です!」
「そうなんですかー」
 根が素直にイルカはカカシの真剣な主張に納得する。カカシとしてはイルカのことを丸め込めればなんでもよかったのだが、イルカはまっぱのまま腕を組んでなにやら考え込む。無防備に、あぐらをかいたまっぱのイルカを改めて目の前に意識したカカシはものすごい光景にがーっと頭に一気に血が上る。器用に下肢にも血が集まる。体の上と下に血が上って下がってカカシは真剣にくらくらとなる。
 さまざまな段取りが吹っ飛ぶに十分な映像だ。予想したとおりの少し小さめの、イルカのアソコ。柔らかそうな草むら。華奢な線の細い体に、桃色の乳首。
「イ、イルカ先生!」
「カカシ先生」
 飛びつこうとしたカカシだったがイルカの青ざめた顔にかろうじて思いとどまる。もしや、修行が嫌だとか言い出すのだろうか。
「でもね、イルカ先生。あくまでも訓練だから、そんな、ね」
 拒否られた場合無理矢理やってしまいそうな予感にカカシは慌てる。ここで一回できてもイルカに嫌われたら元も子もない。これからもイルカとお付き合いを続けたいのだから。
 イルカは口をへの字にして、泣きそうに顔を歪めた。
「耐性訓練なら、僕、縛って貰ったり、痛くして貰った方が、いいんですか? でも僕、痛いの嫌ですぅ。怖いのも嫌ですぅ」
 わーんとイルカは泣き出してしまった。
 しかも突っ伏して、カカシに背を向けて。ようするにカカシの目の前にイルカのかわいらしいお尻があった。
 カカシは貧血を起こしそうなほどにくらくらとした。縛るとか痛くするとか挑発してるのかというような言葉に妄想は広がるやらで、カカシこそ耐性訓練をされてるようなものだ。息子はとっくにとんがって、下着を濡らし始めている。
 カカシも素早く服を脱ぎ捨てた。
「イルカ先生」
 とびきり優しい声でイルカのことを引き寄せる。
 えぐえぐと泣いているイルカのことを胸の中に抱き寄せる。
「痛いことなんてしないよ。優しくするって言ったでしょ?」
「でも、訓練が!」
「そうだよ。耐性の訓練だよ。気持ちいいことの耐性のね。でもまずは気持ちいいことを知らないと、そもそも何を耐えればいいのかわからないでしょ? だから今日はね、イルカ先生は思いっきり気持ちよくなってね」
 ちゅっと頬の涙にすいついて、そのまま顔中にキスを与えて、口にもキスした。かすかな血の味はさきほどの激突で口の中でも切ったのだろう。
 舌を入れて、血を味わう。イルカの血はとびきり甘く感じた。
「ふ……んっ。んん」
 うまく息継ぎができないようでイルカに胸を押される。涙目でけほけほと咳き込むイルカのモノ慣れない様子もかわいかった。
 ぎゅうっと抱きしめて、耳を甘く噛んだ。
「俺がしっかり教えてあげるからね」



「うっ……うあっ……」
 カカシの口淫でイルカの先端はとまることなく濡れていた。それをカカシは飽きずにじゅっと吸い取って舌をやらしくうごめかす。びくびくと震えるイルカのそれはかわいらしかった。同性という嫌悪感はなく、ずっとしゃぶってやってかわいい声を聞いていたいとさえ思った。
「んあ。や、も……っ」
「いっていいよ、イルカ先生」
「や、そこで、喋ら、な……うあっ」
 どくんと脈打ったイルカはカカシの口の中に溢れされていた。
「すみま、せん……。だしちゃった……」
 胸に手を置いて息を整えているイルカをのぞき込めば、はふはふとかわいく息継ぎをしながら無意識に乾いた唇を舐めていた。色っぽい様子にやらしく目を細めたカカシはイルカの顔の脇に両手をついて、見せつけるようにしてイルカの出したモノを飲み込んだ。
「カ、カカシ先生! ダメですよ! そんなの飲んじゃダメ!」
 イルカは赤い顔のまま慌ててカカシの口に手をもってくる。その手を掴んだカカシはイルカの指をしゃぶりだす。
「カカシ先生! やだっ……」
「見ててイルカ先生。これがね、あそこ。こんな風にしゃぶってみて。相手を気持ちよくさせて油断させるのも大事だからね。噛んだらダメだよ?」
 イルカの指をあれに見立てて、カカシはねろりとねちっこくしゃぶる。イルカは沸騰しそうな顔をしつつもきちんと指示に従い覚えようとしているようだ。そろそろいいかとカカシはイルカの頭をそっと撫でて、自らの股間に導いた。
「ゆっくりでいいから、やってみて」
 カカシのそこはさっきからどうしようもないくらいに大きくなっていた。よく我慢できているなと我ながら感心だ。イルカはまじまじとそこを見て、本当にやるのかと伺うようにカカシのことを見上げてきた。
「僕、こんなの……」
 か細い声。上目遣いの目つき。無意識にかもしだすイルカの色香にカカシはたまらず片手で己の根本を掴むともう片方の手でイルカの頭を押さえて口元にすりつけた。
「ほら、口開けて」
 声は優しく。だが強引に、イルカに押しつける。唇の感触だけで陶然となる。
 イルカは目をつむって拒否していたがカカシが優しく辛抱強く髪をすいてやると、観念したのか口を開けた。ぱくりと先端をくわえられた瞬間が少しやばかった。それくらいの衝撃を一瞬にして受けたカカシはぐっと我慢して口元をおさえる。
「ん……んん」
 イルカはもちろん技巧などない。ただ懸命にしゃぶっている。水っぽい音とイルカの口の中で出し入れされているその映像だけで達してしまいそうな気持ちよさにカカシは焦る。焦ってイルカを引きはがした。
「カカシ先生?」
 イルカが口の端から唾液をこぼしつつ見上げてくる。
「ごめ、イルカ先生。俺もうダメだ」
「ダメって? 何が……」
 ころんとイルカをうつぶせにして、ぐっと腰をあげさせる。焦っているが潤滑剤は忘れずに指に塗ってイルカのそこにつぷりと突き立てた。
「痛いっ!」
 突然、びっくりするくらいの大きな声。間違いなくイルカの声だが、あまりに今の状況とそぐわない声に、カカシは気を取り直してぐっと指を深く埋め込もうとした。
「いたいー!!!!」
 叫ばれた。
「あの……イルカ先生……?」
 イルカは素早く身を返すとカカシのことを突き飛ばした。
「痛いっ! ひどいカカシ先生! 痛いことしないって言ったのに!」
 ほんの今の今まで甘い声をあげて溶けていた体が、別のものになってしまったようだ。
 イルカは毛を逆立てている猫のように全身で警戒してカカシのことを睨み付けている。
「僕嘘つきは嫌いです。カカシ先生嫌いっ」
「え、でも、ちょっと、痛い?」
 だって指先なのに。あれが痛いならイルカは普段どんな排泄物を出しているのかといささか下品なことを考えた。
「痛いモン! すっごく痛いもん! さっきまで、痛くなかったのに!」
 ぐすっとイルカは泣いてしまう。
「僕帰る。もういいもん。自分の力でちゃんと受かるからいい!」
「ちょっと待ったイルカ先生!」
 ベッドを降りようとしているイルカの腕をつかむ。後ろから抱き込んだ。
「ごめん。ごめんね。もう痛くしないから、帰らないで」
「嘘っ。やだ。離してよ!」
「ごめん。お願い。許してよ」
 暴れるイルカを押さえ込んでちゅちゅっと頬に口づける。繰り返し謝り続ければ、とうとうイルカが大人しくなる。落ち着いたのか、すん、と鼻をすすってカカシのことを振り向いた。
「本当に? 痛くしない?」
「しない。絶対しないよ」
「うん。わかった」
 イルカは安堵して笑ってくれた。その泣き濡れつつも健気に笑う顔がまたかわいらしく、カカシは忘れていた欲を感じた。これはとにかく一度出してやらないと息子の収まりがつかない。カカシは覚悟を決めた。
 イルカをベッドに座らせて、イルカの前でカカシは床の上に膝をつく。すっかり萎えているイルカのかわいいものが目の前にあった。
「ごめんねイルカ先生。舐めていい? 口でするのは気持ちよかったよね?」
 カカシが艶っぽく笑いかければイルカの顔がまた赤くなる。
「気持ち、よかったけど、でも、僕恥ずかしいから、飲んじゃ、やだ……」
「わかった。しゃぶるだけにするね」
 こくりと頷いたイルカはえへへと照れて笑った。

 結局、イルカのものを味わいつつ自分で息子を慰めてやったカカシだった……。





「カーカーシーせーんーせーいー」
 ナルトが駆けてくる。
 イルカに最後の修行をしてからすぐにカカシは任務を受けた。大門をくぐり抜けたところで駆けてくるナルトが見える。笑顔で手を振って駆けてくるナルトは何か急な用でもあるのか。カカシも軽く手を挙げた。
「おー。ナル、……」
 ぶわりとナルトのチャクラが膨れあがる。
「螺旋丸!」
 カカシはもちろんよけた。ナルトが放った螺旋丸は大門の一部を吹き飛ばした。
「ナルト〜。冗談にしてもやっていいことと悪いことがあるぞー」
 避難した木の上から着地したカカシはナルトと距離をとって相対する。ナルトは頬を引きつらせてカカシに告げた。
「イルカ先生に適当なこと言っていたずらするのはやっていいことなのかよ」
 ずばりと言われてカカシはうっと言葉に詰まる。
「適当なことは言っていない。ちゃんと修行の一環として」
 ナルトはけっと鼻で笑った。
「カカシ先生が何を言ってもいいわけにしか聞こえない」
 カカシは更に言葉に詰まる。
 結局あの日は二回目の放出の後、こてんと寝てしまったイルカをそこにおいてカカシは外に出た。イルカと同じ部屋にいるのはさすがに耐えられなかったからだ。気を散らすために慰霊碑の前でぼんやりと佇み、適当な時間に夕飯の材料を買って帰った。鍋の準備をしてからイルカを起こして、満腹になったイルカは明るくすっきりと帰っていったのだ。
「ナルト。イルカ先生から聞いたのか?」
「ああ聞いたってばよ。カカシ先生が修行で閨房術を教えてくれたって。まずは気持ちいいことを知る訓練だって? 何したのって聞いたら、舐めてくれたって言ってたよ。あと、舐めさせられた、ともね」
 ああ、とカカシはこめかみを押さえた。イルカに他意はないのはわかるが、そんな丸ごと話してしまうことないではないか。
「あ〜一応ちゃんと言っておく。それ以上のことはしていない。でも俺はイルカ先生のこと好きだから、これからもモーションかけるから」
「俺も言っておくよ」
 ナルトは怖いくらいの笑顔を見せた。
「カカシ先生みたいな変態にイルカ先生は渡さない。イルカ先生は俺が守る」
 宣戦布告。
 カカシも口を歪めた。
「じゃあ俺たちライバルってことか」
「勘違いすんなってばよ。俺はカカシ先生みたいに変な意味でイルカ先生のこと好きじゃないんだからな。俺は、イルカ先生の保護者なんだってばよ!」
 指を突きつけて、しかし台詞は保護者。カカシの背に背負った荷物がずるりと肩を滑る。
「保護者って。イルカ先生はお前より年上だろ?」
「とにかく! イルカ先生の半径10メートル以内に近づいたらダメだってばよ! イルカ先生のおじさんにも報告して、イルカ先生の特別親衛隊作ってもらったし!」
 どうだ! とばかりにナルトは胸を張る。
「親衛隊?」
「イルカ先生の身辺を24時間常に警護してくれるってばよ。へへーん。カカシ先生これで近づけないってばよ〜」
 あっかんべーと舌を出したナルトは自信満々に去っていった。
 取り残されたカカシの周囲を風が吹く。前途多難な恋にカカシは深いため息を落とした。