僕忍(ぼくにん)−イルカ− おまけ






「カカシ先生。僕受かりました〜」
 上忍控え室でぼんやりとしたいたカカシの元にイルカがやって来た。息せき切って、入り口のところでぺこりとカカシに頭を下げる。
「本当にありがとうございました。僕、すっごくいい評価もらったんですよ。これもカカシ先生のおかげです!」
 つやつやした顔できゃあきゃあとイルカははしゃいでいるが、カカシはこっそりため息をついてしまう。
「イルカ先生。なんで部屋に入らないの?」
 イルカは廊下で騒いでいるのだ。カカシに言われて視線が俯く。
「……だって、ナルトが、カカシ先生に近づかないでって、言うんです。泣きながら言うんですよ? 僕、喧嘩したのかって聞いたんです。そしたら、カカシ先生と勝負しているから、決着がつくまでは、近づかないでって」
 ナルトはイルカにすがりついたのだろう。ナルトにはとことん弱いイルカ。カカシはもう一度ため息をついた。
「イルカ先生は、俺のこと嫌いなの?」
 カカシの質問にイルカはぱちぱちと瞬きをする。
「嫌い? そんなことないですよ。カカシ先生は優しいし、かっこいいから、好きです」
 イルカはぐっと拳を握って主張した。
 カカシは計算めいた笑顔でイルカのことを手招いた。
「こっちおいでイルカ先生。ナルトには内緒にすればいいでしょ」
「でも、僕……」
「イルカ先生は、受かって嬉しいんだよね? 俺は成り行きとはいえイルカ先生の修行をしました。お礼はないの?」
「お礼? 僕、何も用意してません。どうしよう」
 イルカはカカシの言葉を真に受けておろおろと慌てる。そこでだめ押しとばかりにカカシはたたみかけた。
「だから、こっち来て。それでお礼の代わりでいいから」
 口元に片手をあてて逡巡しつつイルカはちらちらと周囲を見回す。ナルトはイルカの叔父に連絡をとってイルカの警護を手練れの忍たちにさせているが、それはイルカには内緒でさせている。だがイルカとて忍。おそらく自分が何かにいつも見張られているような守られているような気配は感じているだろう。カカシにとっても馴染みの気配も日によってはある。暗部にまで依頼しているのかと、呆れかえるやら感心するやらだ。
 イルカはしばしの逡巡の後、えいとばかりに部屋に入ってきた。カカシは立ち上がると戸を閉めて術で施錠する。イルカを警護する忍たちがあらゆる手段で上忍控え室に入ろうと取り囲むだろうが、しばし時間がかかるだろうし、見られたならそれはそれでかまうものかという気持ちにもなっていた。
 ソファの上に座ったカカシはイルカの手を引いた。カカシのことをまたがせて膝に座らせると正面でイルカと向き合う。イルカが何か言うより先に、ちゅっとキスをした。
「カカシ先生!? また、修行ですか?」
 驚いて目を見開くイルカがかわいくて頬にも吸い付いた。
「修行じゃなーいよ」
「じゃあ、なんですか?」
 イルカが真剣な顔で聞いてくる。イルカの黒い瞳の奥に少しでもカカシと同じ気持ちが灯っていたらいいと願いつつ、聞いてみた。
「イルカ先生、最後の修行は、どうだった?」
「どうって……」
 イルカはかあっと頬を染める。
「よく、わからなかったけど、あれ、は、修行、だったんですか? 僕、ツナデ様に聞いてみたんです。そしたら……」
 口ごもるイルカは、本当のところをうすうす察しているのだろう。だがそれでもカカシに文句を言うでもなく、今も大人しくカカシの腕の中にいる。それはきっと少しは期待してもいいということだと思いたい。
「ねえイルカ先生。俺が舐めてあげた時、気持ちよかったよね?」
「カカシ先生!」
 わたわたと照れるイルカが愛しくて、抱きしめる。耳元で囁いた。
「また今度、舐めさせて。いいよね? イルカ先生のかわいいの、またしゃぶりたいなあ」
「カカシ先生! 何言ってるんですかっ。もう、僕、恥ずかしかったんですからね!」
 カカシのことを必死で睨むイルカだがかわいいばかりで、カカシはイルカの頬を両手ではさむと顔を傾けた。ここでやってしまって、既成事実を見せつけるのもいいかもなあと思いながら。
「カカシせんせー!!!」
 甘い気持ちを吹き飛ばす大きな声と、同時に上忍控え室の窓が、吹き飛んだ。外からの爆風。カカシはチャクラの防御でもちろん怪我一つない。
「ナルト?」
 カカシの胸の中に抱きしめられていたイルカが窓から顔を出せば、ナルトが下から無邪気に手を振っている。ジャンプして、部屋にはいるとイルカをカカシから奪って当然のように抱きつく。
「イルカ先生。俺、今日一楽行きたいってばよ。今日俺ってば頑張って任務こなしてきたからさ」
 仕方ないなあとイルカはとろけそうな笑顔でナルトのことを抱きしめ返す。もとい、体格差ゆえ、抱きしめられている。イルカの頭に頬をすり寄せつつ、ナルトはカカシのことを冷えた目で射殺すように見る。口元には勝ち誇ったような笑み。
 イルカと結ばれる為にはこの自称保護者をまずはなんとかしなければならないと、カカシは最近なじんでしまったため息をまた落とすのだった。