愛はたまご 6 最終話



 結局電気をつけたままで行為を進めてしまうことになった。
 カカシは甘えるような仕草でイルカの顔にかわいらしく何回もキスをしかけてきたが、そのうちに、胸に口を落とす。きゅうっと乳首に吸い付かれ、くすぐったい感触に体をよじったが、カカシにうまい具合に体重をかけられて逃げられない。熱心にイルカの乳首にちゅぱちゅぱと吸い付く。それがまた、見るからに母親の乳を吸う乳幼児のようで、イルカは呆れた。
「おーい。どんだけ熱心に吸っても乳でねえぞー」
「わかってる。茶化さないでよ」
 わかっているならそこ以外にもなにかしろ、とは言えずに、カカシの頭を押さえた。カカシはばつが悪そうにイルカをちらりと見たが、ぼそりと話した。
「だって、イルカの乳首、好きなんだ。毛、生えてるし」
 はっと見れば、確かに乳首にはぴよんと毛が生えていた。男は乳首に毛があることなど気にしないのだ。
「お前は乳首が好きなのか? それとも毛が好きなのか?」
「どっちも。でもイルカが一番好きにゃー……」
 興奮しているのかもしれない。カカシは猫言葉になっている。
 れろりと舐められる。立ち上がっている先端をざらりざらりと何回も舌が往復する。イルカは少しばかりぞくりとなる。イルカの変化を敏感に感じ取ったのか、カカシは次には傷つけない程度に歯で甘く噛んだり、舌の先端でちろちろとねぶったり、毛を口で挟んでひっぱったりと熱心に仕掛けてきた。あいている方を指先でこねられて、とうとうイルカは声を上げてしまった。
「あっ……」
「イイ声……。もっと聞きたい」
「っか、……は、んん」
 信じられないくらい甘い己の声に、イルカは自家発電する。とっくにバスタオルなどどこかにいっている、あそこはぴょこりと立ち上がっている。
「カ、カカシ……。乳首ばっかり、かよ」
 かすれた声で遠回しに懇願すれば、カカシはイルカの乳首から顔をあげた。べたべたの口を手の甲で拭う仕草がなにやらやらしい。目の色が欲に濡れていた。
 カカシは枕をいそいそとイルカの腰のあたりに押し込む。
 手か、口か? 判断つかずにイルカの喉はごくりと鳴る。どこからでもこいと覚悟を決める。
「ちょっと、我慢してね」
 えへへと可愛く笑ったカカシは、右手の指をれろりと唾液で濡らして、あそこではなくて、もっと奥のあそこにつぷりと指をいれてきた。
「……っおい!」
 あせるイルカの唇に軽くキスを落としてから、あそこを熱心にまさぐりだすのだ。
「カ、カカシ。そこは……」
「うん。わかってるから」
 いや、そこは多分もっとあとのはず。わかってないではないか!
 だいたい少しの唾液だけでなんとかなると思う当たりも浅はかではないか。たった一本だが窮屈なところを雑に出し入れされる違和感に、せっかく元気にたちあがったあそこも期待がはずれてしょんぼりしている。
「カカシ、ちょっ、と」
 イルカの声など届いていないのか、カカシは熱心にイルカの奥をなんとかなじませようとしている。前だ、前を見ろ! と言いたいが、ふと見たカカシの表情があまりに真剣だったから、的はずれなことをし始めているとはいえ、止めるのもはばかられた。
「ちょっと、待ってね。昔はイルカに辛い思いばっかりさせたから、今度はうんと気持ちよくなってもらえるように、俺、頑張るから」
 それがひたすら後ろを攻める理由か。しかしすでに萎えてしまっているしまったく気持ちよくなどない。
 仕方ない、と、イルカは己の手をあそこに伸ばす。うなだれているブツを掴んで、きゅきゅっと握りこむ。目をつむって、いつものように、と思いつつ、ふっと耳元にかかったカカシの吐息に目を向ければ、カカシと目が合った。
 とろけそうな顔をしたカカシの、目。しみ出す色香に目を奪われていると、カカシがイルカの目元に口づけた。
「好き」
 そして耳をあまく噛んで、熱い息と共に、愛している、なんて囁かれて、イルカの息子はすさまじい勢いで息を吹き返した。
「!」
 手の中でぐんと立ち上がった奴は、すぐにも暴れだしそうな勢いだ。
「! あ、ああ……」
「イルカ、気持ちいいにゃ?」
 カカシの指で感じているわけではないのだが、いきなり色っぽい声をだしたイルカに満足げにカカシは頬を染める。
「好き。好き好き。大好きにゃー」
 にゃーじゃねえ! と心で罵倒しつつも、体は明らかにカカシの色香に反応して、たいしてこすってもいないのに、先端は、濡れ始める。恥ずかしいほどの早さだが、息子はゴーゴー! と突っ走る。
「カカ、シ……。やばっ、俺、出る。出ちまうっ」
「え? 何? 何が?」
 せっぱ詰まった声を上げたイルカは身を強ばらせる。片方の手でカカシの二の腕を強く掴む。
「っか、ヤロー……」
 背筋をぞくぞくとはい上がるものに促されて、イルカは弱い部分につめをたてる。
「……ぉまえの、飲みたがっていた、セーエキだっ、て……」
 元気いっぱいの息子は、ヒャッホ〜! と、そこで、弾けた。
「あ、ああ!」
 飛び散った液体。腹から胸にかけて、濡らしてしまう。どくどくと脈打つ息子は気持ちよさげに余韻に震えている。くたりと倒れ込む息子を見て、イルカ自身、久しぶりの深い快楽に視界が潤む。背筋がとろけそうだ。一人でやってもこんなに深い喜びは得られない。
「……カカシ、とりあえず、舐める、か?」
 息を荒げながら問いかければ、ぽとりと視界に赤い色が落ちる。頬に落ちたのは、カカシの、血……。鼻血……。
 イルカから大急ぎで身を離したカカシは両手で鼻のあたりを押さえる。しかし間に合わずに、ぼたぼた、と真っ赤な血が、シーツに落ちる。
「ご、ごめっ。イルカ、ごめん、俺っ」
 カカシは必死で謝るが、そんなことよりも、シーツに血が落ちていることでイルカも身を起こす。
「汚れる、カカシ! ティッシュどこだ!」
 しかしティッシュを手に取るよりも先に、カカシはふらあとスローモーションでベッドから落ちた。



 いくらイルカのベッドがたいした高さがないとはいえ、大人がベッドの上から落ちたのだ。しかも受け身もとれずに頭から。
 ベッドのシーツを取り替えて、スウェットを着せたカカシを横たえた。イルカはパジャマに着替えてカカシ腹ののあたりにバスタオルをかけてやる。
 カカシは鼻の穴にティッシュをつめて、口をきかずに真っ直ぐ天井を睨み付けていた。
 イルカとて、さすがに今のカカシの気持ちはわかる。
 いざという時に鼻血を出して玉砕してしまったのだ。男の沽券に関わる事態だ。この場合へたな慰めの言葉をかけるよりそっとしておくのがいいのだろうか。だがここはイルカの家で、部屋は台所以外には居間ひとつしかない。とりあえずは散歩でも行った方がいいかと腰を浮かしたかけたが、気配を敏感に察知したカカシに、パジャマの袖をつかまれた。
 カカシは顔を背けたままだが、イルカにここにいろという意思表示なのだろう。
 イルカは再び座る。だがこんな重い沈黙に耐えられるものではない。
「あ〜。ま〜、そんなに落ち込むことねーよ。ほら、俺だって勝手に暴走しちまったわけだし、お互いさまってことでさ」
 口に出すとなにやら恥ずかしい。カカシにイイトコロを触られたわけではない。色っぽい顔と声で、自分でイッてしまったのだから。
「次、頑張ればいいよ」
 その途端、カカシは天井を睨んでいた視線をイルカに移した。
「次、次も、あるの?」
 すがるような目で、問われる。もしかしなくても、カカシはこれで終わりかと思って、落ち込んでいたということか?
「そりゃあ、あるだろ。俺達、こ、恋人って関係に、なったわけだし、な!」
 照れつつも、恋人、なんて口にすれば、カカシの顔はぱあっと輝いた。そして甘えかかるようにイルカを引き寄せて頭をすり寄せてきた。
「俺、次はこんな醜態さらさないようにする。ちゃんと、イルカのこと気持ちよくしてあげる」
「あー、充分気持ち良かったけどな〜」
「でもさ、イルカが、かわいいのも悪い。俺すっごく我慢しないとまた鼻血吹いちゃうよ」
 イルカのことがかわいいなだなどと、どうやらカカシは目のほうは悪くなってしまったようだ。
 でも、まあ、すり寄ってくるカカシからは懐かしい匂いがする。体中に満ちて溢れそうなくらいに幸せな気持ちを感じたイルカは、カカシのことを抱き返した。



 狭いベッドだが、昔のように一緒に眠ることにした。
 横向きで向かいあって、二人共が照れてしまりのない顔をしていた。
「今度さ、昔みたいに一緒にお風呂入ろうよ」
「はあ? 俺の家の風呂場は大人二人には無理だろ。せいぜい交互に入るくらいだな」
「そうじゃなくて、一緒に湯船に入りたい」
 かわいらしくねだられて、かなえてやりたいと思うが、風呂でくつろぐどころではなくなってしまうではないか。だがまあ、それでも二人で入れば幸せかもしれない。
「そういやあカカシ、アレ、もう飲まなくていいのか?」
「あ〜アレね〜」
 カカシはイルカの手をとって、無骨な指をいじりながら、なにやら考えている。
「なんか、もう、おそれ多くて」
 考えたあげくに絞り出した言葉はそんなものだった。
「おそれ多いって、俺の、アレ、がか?」
「うん」
 はーと思わずイルカは大きく息をつく。
「なーに言ってんだよ。ガキの頃は散々セーエキセーエキ喚いていたくせに」
「だからそれは、別に本当に飲みたかったわけじゃなくて、なんていうか多分、イルカに、愛して欲しかったんだと、思う」
 カカシは真っ直ぐな目をして告げた。そこに照れる気配はなくて、イルカのほうこそが、大いに慌てる。
「そ、そっか。そうだよな。子供は、いや、誰だって、愛されたいよな。な!」
 するとカカシはふるふると小さく首を振ったのだ。
「違う。ただ、イルカに愛されたかったんだ」
 恥ずかしいくらいに真っ直ぐな気持ちは、有無を言わさずにイルカの心をさらう。顔をくしゃりと歪ませたイルカは、カカシのことを胸に抱き取って、柔らかな銀の髪に頬をすり寄せた。
「これから、いっくらでも、ずっと、カカシのこと、愛してやるからな。もういい加減にしてくれってくらい、大事にしてやるから」
「俺も。俺も、イルカのこと……」
 たいせつにする、と震える声が届いた。
 孵ったばかりの、愛はたまご。
 不器用に、危ういながらも孵すことができた貴重なたまご。
 これから二人で、ゆっくりと、愛をこめて育てていく。



おしまい




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