愛はたまご 5



「じゃ、じゃあ、お願いします」
 真っ赤な顔をしたカカシはなぜか頭を下げる。だからついイルカも応じて頭を下げた。
「こ、こっちこそ、よろしく、頼む」
 改まった形をとるとどうにも居心地が悪く緊張はいやがうえにも高まっていく。
 ベッドに腰を下ろしたイルカと、畳に膝をついたカカシ。急いで順番に風呂に入った。互いに上半身は裸だ。下半身は、イルカはタオルを巻いて、カカシはパジャマの下を身につけていた。
 思いが通じ合って、この勢いのままに、となった。
 お願いします。よろしくと言ったのに、カカシは畳に座ったまま、すねたように口を尖らせて、視線を下に向けている。思えば、成人したカカシの裸をちゃんと見たことなどなかった。そう思うと緊張を押しやってしみじみとカカシのことを見てしまう。
 引き締まって固く柔軟そうな筋肉がついたきれいな鍛えられた胸。腹は嫌みでない程度に割れている。色白の肌はとてもなめらかそうだ。たまご生まれはみんな美形なのだなあとしみじみ思った。
「あの、イルカ先生」
「ん? どした?」
 ちら、とイルカのことを上目遣いで見たカカシにどきりとなる。なにやらはにかむさまが色っぽい。
「あんまり、じろじろ見られると、恥ずかしいんだけど」
 しかし続いた台詞にイルカは吹きだした。
「なーに女みたいなこと言ってるんだよ」
 げらげらと笑ってしまえば、カカシはむうと膨れた。
「やっぱりイルカはデリカシーがない」
 げ、とイルカは一瞬にして笑いを納める。ここでまた喧嘩でもしてしまえば、またこんがらがってしまう。せっかく通じ合った思いなのに。
「悪ぃ悪ぃ。機嫌直してくれよ。な?」
 それでもカカシが頬を膨らませているから、イルカは自ら動いた。ぐいとカカシの腕を取って、ベッドに導く。傍らに座らせて、ぎゅっと抱きついた。
「ごめんな。ほら、俺ずさんな性格しているからさ。これでも反省している」
 ぽんぽんとカカシの背を宥めるように叩けば、強い力で抱き返された。そのまま体重をかけられてベッドに横たわる。
 やばい、電気つけっぱなしだ、と思ったが、イルカのことを見下ろすカカシの、泣きそうなくらいに思い詰めたような真剣な顔に、ごくりと喉を鳴らす。
「カカシ……」
 カカシは、まばたきさえせずに、イルカのことをじっと見つめる。色違いの目が、この世の希有な存在のように光って美しい。
「好き」
 囁くような、かすかな声が耳に届いた。
「イルカが、好きだ。最初から、好き。好きなんだ。イルカのこと、好きにならないわけがない。ずっとずっとイルカを見ていた」
 きれいなきれいな男が、愛を囁く。
 愛の言葉を口にのせながら、なのにどこか辛そうな、震える声を絞り出す。
 なにが辛いのだろう。不安なのだろう。
 イルカはカカシの頬に触れて、安心させるように笑い返した。
「俺も、カカシのこと、好きだからな」
 イルカは真摯に告げたつもりだが、カカシは眉を下げてしまう。
「でも、俺、イルカにたくさん、迷惑かけた」
「迷惑?」
「うん。いっぱいイルカのこと、困らせた」
 なんて殊勝な言葉。また笑いがこみ上げてくるが、慌てて口もとをおさえる。確かに、いきなりたまごから孵ってセーエキだなどとほざいて、猫になったりとカカシには翻弄された。だが思い返すに、イルカもそれなりにカカシに対して愛がない、鬼のような態度をとった自覚はある。いかにカカシとの関わりをなくすか、そのことを真剣に考えていたこともあった。
 なのにカカシは、悪態をついて困らせることばかりでもそれでも一心にイルカのことを思っていてくれた。
「なあカカシ。もういいじゃねえか前のことは」
 カカシは、首をかしげる。
「俺だって、カカシに対してひどいことしたけどさ、まあお互いさまってことで。これからたくさん仲良くしようぜ。な?」
 笑って、みせる。カカシはいくぶん緊張していた体の力を抜いて、ほ、と息を吐き出した。
「イルカと、すごく、仲良くしたい。ずっとずっと」
 とろけそうな顔をしたカカシに、口づけられた。どくんと跳ねる心臓。
 優しい顔のカカシに、鼻の奥がつんとする。だから抱きついた。



→6(最終話)