■水曜日






 カカシはイルカに視線を据えて舌で竿の部分を舐めあげる。そのまま先端を口に含んで口をすぼめて吸い付いた。
「あ、ん……。やだ、カカシ先生。いっ、いっちゃう……!」
 体を丸めてカカシの銀髪に手を入れる。けれどとろとろになった体には力が入らず、逆にカカシの頭部にしがみつくかたちになってしまった。
 心は拒んでも、体はいいと言っている。
「いいよ。いっちゃっていいよ、イルカ先生」
 根本を押さえて、体を伸ばしてきたカカシは唇を噛んでいるイルカに対してからかうように促す。
「あんたの体は気持ちいいっていってるよ? もっとおねだりしたらもっともっと気持ちよくしてあげるのに」
 馬鹿じゃないの、と言いながらもなぜかカカシの色違いの目は優しい。
 無理矢理始まった関係だった。最初は死にたいくらいの気持ちでいたのに。いつからだろう。カカシの触れてくる手がとても優しいものだと気づいたのは。
「……して」
「ん? なあに? 何をして欲しいの?」
 イルカは顔を傾けると、震える口でカカシにキスをして、耳元で、告げた。
「めちゃくちゃに、して……」



「はっきり言ってあの人たち、頭おかしいんじゃないですか? 病院に行って治療してもらったほうがいいですよ」
 イルカはひきつった真っ青な顔でぶるぶると震えていた。
 なんとか笑い飛ばしたいのに、コーヒーの入ったカップを掴む手が、かたかたと震えてしまう。
 そんなイルカをよそに目の前にいるカカシは片肘ついて暢気に原作に目を通していた。
 カカシと二人、軟禁状態で撮影現場である火の国のホテルに閉じこめられていた。本日撮影部隊は二人のシーン以外を作成なり撮影なりと出かけている。その間台詞をたたき込んで、二人で本の読み合わせをしておくようにと厳命されていた。
「腐女子って言うらしいですよ〜。『イルカ』にも愛がめばえはじめてるじゃないですか。体から入るってのはあながちないとも言えないですよ〜。ほら、普通に男女でもまずやっちゃって始まるって人たちいるし、別れたあとも体の関係を続けるってのもありますからね〜」
「うっわ。さすがに上忍レベルは破廉恥レベルも違いますね」
「ええ? イルカ先生は納得できない?」
「できるわけないじゃないですか! とにかくおかしいですよこの話。『カカシ』は権力をたてにして任務先で『イルカ』に伽をやらせたんですよ? そんでもって実は最初から『イルカ』のことが好きで、それで思いあまって暴挙したって! おいっっ! てつっこみどころ満載です。そんなことしたら逆に嫌われるってこと子供だってわかります!」
「いや子供には難しい心のひだだと思うのですが……。ていうか子供にこんなの読ませたらダメですよさすがに」
「わかってます!」
 ぐわっとイルカが目をむけばカカシは口もとをひきつらせてため息をおとす。
「そんな熱くならないでくださいよ。所詮妄想なんですから〜」
 イルカはカカシの無責任な発言に般若のような顔になった。
「あの人たちの妄想だけですんでりゃあ文句はないですよ! なんで、こんな変態作品に俺がでないといけないんですか! 一万歩くらい譲ったとしてもどーして俺が、『受け』ってやつなんです? どう見てもカカシ先生のほうが『受け』って感じするじゃないですかあああああああ」
 ばりばりばりと髪をかきむしって吠えるイルカに引きつりつつもカカシは宥めた。
「まあまあ。ほら、ちょっと野暮ったいほうが受けってのも結構王道なんですって。それに、俺に言わせれば、俺のほうが階級上だし年も上だし、実際強いし、美形だし、攻めだと思いますよ〜。確かにイルカカってのもありますけど、カカイルがナルトの大手です。圧倒的ですね。ちなみに、サスナルってのも人気あります」
「サ、サスナル!? 誰ですかそれは?」
「サスケが攻め、ナルトが受け、です」
 イルカはその瞬間頬を両手ではさんで声にならない叫びを発した。
「イルカ先生〜。単なる妄想。流して流して。いろんなカップリングがあるんですよ。
「カップリングって言うなあああああああ」
「すみません、俺が悪かったですはい」
 がるがるーと吠え続けるイルカに、結局その日のミーティングは進まなかった。
 明日から本番。



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